閑話『やっぱり俺は……風俗へ行く』
その日、東の山岳地帯《レハニ村》へ向かうための荷造りを終えたばかりの常盤流星は、ひとり静かにギルドの外を歩いていた。
陽光は柔らかく、風も穏やか。
そんな中、彼は呟く。
「……今なら、行ける気がする」
そう。
ヒロインたちが全員買い出しや支度で不在という奇跡的なタイミング。
リリアは武具の調整、アリシアは書簡の整理、ミレーユはギルドとの報告面談、ヴァネッサは──なぜか裏筋トレ合宿に出ている。
「今こそ……自由。俺の、俺による、俺だけの風俗時間……!」
鼻歌交じりで彼が向かうのは、王都南門近くにひっそりと佇む老舗風俗店。
その名も──
《やすらぎ庵 本店》
古風な名前だが、その実力は折り紙付き。
まるで旅館のような内装と、ほんのり香る白檀の香り。まさに“癒しの極み”と呼ばれる店舗だ。
「いらっしゃいませ、常盤さま。……今日も、お疲れ様でした」
玄関で微笑んだのは、年齢不詳の艶美な和装美女。
──この人だけでもう、癒される。
「今日は……贅沢に2泊3日、コースでお願いします」
「かしこまりました。それでは、“風神コース”をご用意いたします」
■風神コースとは:
・日替わりの嬢2名による四つん這いマッサージ
・サウナ+冷水交互+アロマ洗体+煩悩除去写経風俗(!?)
・専属料理人による三食付き
・夜の本番施術(各嬢交代制)
「……このサービス精神、まさに風俗の神、降臨……ッ」
◆
一日目──
湯。
蒸気。
滑らかな指。
そして「そのまま流星さまの剣も……お流ししますね」
流星、爆発。
「ダメだ……出る。何かが、出るッ!!」
◆
二日目──
写経部屋にて、女の子に後ろから抱きつかれながら「無我の境地で、お経を写す遊戯」に挑む。
「……あ、ああ、だめだ。耳元でささやかないで。字が崩れる」
「ふふ、字じゃなくて、あなたの心を崩したいんですよ」
流星、精神崩壊寸前。
◆
三日目──
朝起きたら全身黒焦げ。理由は──
「流星さま、お肌が真っ白なので、少し日焼けオイルで整えましょうね」
その“整え”が、朝から夕方まで浜辺でずっとサンオイルマッサージされながら嬢に絞られ続けた結果──
帰る頃には、肌はこんがり、体力は空っぽ。
魂すら半透明状態。
「……やっ、やりきった。これが……真の風俗全うライフ……!」
◆
──そして帰還。
宿に戻った流星を待っていたのは、ヒロインたち4人による“歓迎”の空気。
いや、違う。
完全に“尋問”の空気である。
「……あんたさぁ」
リリアが腕組みしながら睨む。
「2泊3日で、肌がトーストみたいに焼けて戻ってくる奴がいるかッ!」
「ち、ちがうんだ。これには、深い理由が──」
「黙れ」
アリシアが一枚の紙を広げる。
──ギルドに提出された、《やすらぎ庵 本店》宿泊記録(公文書扱い)
「しっかり名前書いてあるじゃない! しかも“常盤流星様・風神コースご利用”って、太字で!」
「ぅぐっ……」
「このバカ……」
ミレーユはうなだれながら、ポーションを手に取る。
「肌、焼けすぎてて痛そう。塗るから、じっとしてて」
「ミレーユ……優しい……」
「優しいけど怒ってるから。後で一発殴るから」
「ヴァネッサさんも怒ってるし」
「え、俺なんかした?」
振り返れば──ヴァネッサは、にっこり笑顔。
「“サンオイルマッサージで筋肉を刺激され続けた”って聞いたよ。……私もやってあげようか?♡」
──おそらく、それは本当に死ぬ。
◆
その夜、流星は一人、天井を見上げながら静かに呟いた。
「……やっぱ、風俗って命削る遊びなんだな……」
ヒロインたちの怒号が下で響く中、彼の瞳には──ほんの少しの満足と、膨大な疲労と、少しだけの反省が浮かんでいた。




