第82話『報酬は温泉で──そして次なる誘惑』
──神殿事件から数日後。
アナナス島に、ようやく“本当の春”が訪れていた。
神殿が開かれ、民衆は笑い、島の空には祝福のような海風が吹いている。
そしてその中心──
神殿直営の癒し施設、聖湯《アマエルの湯》。
そこに、疲れ果てた五人の姿があった。
「──はぁぁああ~~~~~……しみる……」
天井を見上げ、両手両足を脱力させながら浮かぶのは我らが煩悩勇者・常盤流星。
「神殿騎士団との激闘、夢魔との精神バトル、花嫁衣装の試着強制未遂──」
思い返せば、いろんな意味で死線をくぐったこの島での騒動。
だが、今はその全てを癒す温泉に、心身ともに溶かされていた。
「いやぁ……やっぱ人生、温泉と風俗だなぁ……」
「──どこまで行っても、それなのね」
隣から苦笑が聞こえる。
見れば、湯の外、簾の向こうに設けられた“女湯”スペースから、アリシアの声。
「あなた、少しは煩悩を減らすって発想にならないの?」
「減らしたら俺じゃなくなるじゃん!」
「バカかお前は!」
今度は豪快な声。ヴァネッサである。
「でもまぁ、頑張ったよな。今回はとくに!」
「ありがとな、ヴァネッサ。お前の筋肉のおかげで助かったよ」
「うんうん、そう言われると嬉しい! んで、今夜あたしの部屋で──」
「寝るッ!!」
──そのとき。
「……ちょっと、覗いたら殺すからね」
女湯の仕切り越しに、鋭い気配。
リリアだった。
「お前なあ、さすがにそこまではしないよ! 男湯にヒロインズ突入されるのは何度もあったけど!」
「わたしたちはやむを得ず! あんたは意図的に!」
「……だって気になるじゃん?」
「やめろバカ!!」
温泉の表面がバシャァ!と跳ねた。
ミレーユが呆れた声でつぶやく。
「これが……王都防衛の英雄の実態とは……」
「いや、これもまた癒しであり、文化なんだよミレーユさん」
「屁理屈言わないの!」
◆
夜。
宿泊所の個室にて、流星はゴロゴロと畳の上を転がっていた。
「よし……明日は観光して、のんびりして……そうだ、ついでに島のお土産として“神官プレイ風俗再開記念セット”でも──」
──コンコン。
扉がノックされた。
「……また誰か来た?」
ガチャ。
開けるとそこには、ギルドの使者が立っていた。
「ご苦労さまです、勇者様。本日お届けするのは──次の依頼書でございます」
「ん、ありがと……って、はやくない!?」
使者は微笑んだ。
「東方山地、リヴァル村にて“入浴風習”に関する文化調査の依頼です」
流星の手がぴくりと止まる。
「……リヴァル村って、あれか? “全裸入浴しか許されない風習”があるっていう、あの?」
「はい。“服を脱ぐことで魂も裸になる”という信仰が残っているとか……現地では“外来者に対する儀式”が大人気だとか」
「……」
流星は、数秒黙って。
「行く!!」
◆
翌朝。
荷物をまとめ、誰にも気づかれぬよう、そっと宿の裏手から脱出しようとする流星。
「……島の朝日は美しいな……じゃなくて、早く村に行って、全裸美人神官たちと──」
「──またかこのバカッ!!」
「わわわっ!?」
背後から、リリアの足蹴りが飛んだ。
「待て待て、落ち着けリリア! これは文化的探訪だ! 資料的価値がある!」
「はいはい、もう何も言うな。顔に“ムフフ顔”って書いてあるから!」
「また全裸! また温泉! また風俗の亜種! あんたどこまで貪欲なのよ!」
アリシアも仁王立ち。
ヴァネッサに至っては──
「……その村、女性用風俗もあるって噂よね?」
「ちょ、お前はそっちに喰いつくのか!!」
「うん、行く。すっごく行く。ね? ミレーユ!」
「わ、私を巻き込まないでください!!」
こうして──
またも流星はヒロイン全員連れで、次なる“風俗の聖地”へ旅立つこととなった。
そしてこのとき、誰も気づいていなかった。
その村が──男女の支配構造が逆転する、最凶の風俗文化の巣窟であることを──。
(つづく)




