第77話『花嫁儀式、そして流星が狙われる!?』
「──あなたのような男こそ、神の花嫁にふさわしいわ」
その瞬間、空気が凍りついた。
異様な静けさの中、夢魔神官が妖艶に微笑む。
その視線の先には、剣を構えていた流星──常盤流星の姿。
「は?」
流星が、間抜けな声を漏らした。
「え、ちょっと待って? 今なんて言った?」
「私は見抜きました……あなたの魂の清らかさ、愛に飢える煩悩の波動──すべてが完璧」
「こ、これは褒められてるのか!?」
リリアが無言で剣を抜いた。
アリシアが額に青筋を浮かべ、ミレーユが絶句し、ヴァネッサがクスクス笑っている。
「我らが神は、快楽と癒しの均衡を保つ者を花嫁とする──つまり、あなたは理想の存在なのです」
そう言って、レイナは手をかざした。
──シュゥウ……
魔力が空気を震わせ、どこからともなく現れる、白くきらびやかな花嫁衣装。
しかも──サイズぴったり、ウェストしっかり、スカートふわっふわ。
「え、待って待って待って!? なにこの衣装、なんで用意周到!?」
流星が一歩下がると、夢魔たちが左右からにじり寄ってくる。
「さあ、あなたの運命のときです……」
「神の愛を捧げましょう……」
「お断りだァァァァ!!」
流星、跳躍。
壁を蹴って天井梁へジャンプし、距離をとるが──
「遅いわよド変態!! なに女装しかけてんのよこの大バカァァァ!!」
その梁の上に、すでにリリアが仁王立ちしていた。
「どっから来た!?」
「神の花嫁になんてさせてたまるかああああ!!」
剣が光り、夢魔たちを一掃。
その後ろから、アリシアとミレーユ、ヴァネッサも乱入。
「流星、いったんそこから降りなさい! 鈍足なんだから!」
「ドレス着てる暇があるなら逃げてください!」
「いや、でもちょっと似合ってたわよ? 可愛かった♡」
「やかましいわ!!」
ドタバタと地下神殿が戦場と化す。
◆
「……しかし、“神の花嫁”って、冗談じゃなくて本気だったのね」
一掃後、瓦礫の中でゼェゼェと息をつく流星が呟いた。
「私、人生で初めてドレス姿の勇者を見たかもしれません」
「逆にアリかもなあ……いや、なしだわ……」
「二度と言うなよ!? 二度と!!」
夢魔神官レイナは、結界の奥へ撤退していたが、残された神官たちは完全に混乱状態。
もはや花嫁儀式どころではない。
「けどさ……」
流星が、ちらりと視線を上げる。
「この島って、こういう儀式を“正しい”と思い込まされてる人間で成り立ってるよな」
「洗脳って怖いな……本当に、無理やり“癒されてる気”にさせられてるだけだ」
「ええ。それが、私たちの敵──“神の名を騙る快楽装置”の正体」
アリシアが静かに呟く。
「そして、それに対抗できるのは──」
「──俺の煩悩しかねぇってのかよォ!!」
流星の絶叫が、神殿地下にこだました。
「でも……だからこそ」
リリアがそっと呟く。
「あなたが、こうして誰かに選ばれるってことも……私、ちょっとだけ嬉しいって思った」
「え?」
「っていうか、誰にも渡さないからね、あんた」
「やっぱり地雷じゃねーかァァァ!!」




