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第73話『癒しという名の支配──神官プレイ再び』

──それは、まるで夢のような時間だった。


だが、夢だったと断じるには、あまりにも“肌感覚”が鮮やかすぎた。


「……あれ……なんだこの匂い……」


常盤流星は、柔らかいシーツの感触と、微かに漂う甘い香りに包まれていた。


温泉のようなぬるま湯の気配。

耳元にささやくような声。


──貴方は、疲れている。

──癒されるべき。

──神は、貴方を愛している。


「……違う、俺は……まだ調査の途中で……」


流星の意識は朦朧としていた。


さきほどまで、“神の指先亭”と呼ばれる店の個室に潜入していたはずだ。

だが、案内された個室で座に着いた途端──突然、香炉の蓋が開き、室内に甘く妖艶な香が立ち込めた。


(くそっ……しまった。これ、“精神干渉系の香”か!)


逃げようとした、その瞬間にはもう遅かった。

頭の芯がふわりと緩み、瞼が重くなる。


そして──


「……よく眠れましたか?」


女神官のレイナが、ふわりと微笑んだ。

いつの間にか流星の膝枕をしており、彼の額に冷たい布を当てている。


「心配しなくても大丈夫。これは“癒し”なのです。あなたの疲れた精神を、神の祝福で浄化してあげますから……」


「いや、俺は……俺は、癒されに来たんじゃなくて……情報を……」


「情報も、癒しも、同じことです。貴方が本当に望んでいるのは……心の安らぎでしょう?」


レイナの手が流星の頬を撫でる。


その動きはあまりに優しく──それでいて、どこか底知れない“支配”の気配を孕んでいた。


(……ダメだ……意識が……)


その時。


──ドカン!!


とんでもない音と共に、扉が爆発四散した。


「出たなァァァァァァァァァ!! 煩悩神官プレイッ!!」


先陣を切って飛び込んできたのは、怒りに満ちたリリアだった。


「バカ!バカバカ!アンタまた1人で来てこんなっ……っ!!」


頬を真っ赤にしながら叫ぶその背後から、アリシア、ミレーユ、そしてヴァネッサが怒涛の突撃。


「香による精神干渉を確認! やっぱりここは風俗“装い型洗脳結界”施設だったのね!」


「つまり、また夢魔系ですわね! 王家魔術の浄化術、試して差し上げます!」


「流星ーっ! 大丈夫?どこ撫でられてた?ちゃんと正直に言って!」


「いや撫でられてたけど!癒されてたけど!でも違うんだこれは!」


「こいつッ!本気で癒されてんじゃねーか!!」


──ここに、“神官癒し風俗プレイを巡る”大乱戦が勃発した。


◆ ◆ ◆


部屋の中は香の乱れた空気、破裂した扉、そして倒れ込む女神官レイナと流星。


「みんな、落ち着いて! 彼はまだ完全に正気に戻ってないわ!」


アリシアが制御結界を張り、レイナに魔術検査を行う。


「……やっぱり。彼女も“夢魔の血”を引いてる。人間の神官を装って、香で精神を操る──そんな混血個体」


「じゃあやっぱり、ここも“癒しを騙る罠”だったってことか……」


流星は汗だくになりながらも、ようやく意識を取り戻していた。


「……クッソ……確かに気持ちよかったのは認める。でもあれは、選ばされた快楽だ。俺が、自分で選んだもんじゃない」


リリアが少しだけ目を見開く。


「それって……」


「俺は、風俗を愛してるよ。でも、それは“合意”があるからだ。自分の意思で、楽しむからこそ意味がある。こんな風に……“仕組まれた幸福”なんて、いらない」


アリシアは深く頷いた。


「その通り。“与えられる癒し”に浸かるだけじゃ、人間はダメになる。思考と尊厳を奪う行為よ」


レイナは、倒れながらも微笑を崩さなかった。


「……でも……それでも、多くの人は……“与えられる幸福”を望むのです。何も考えず、ただ愛されるという感覚を」


ミレーユが一歩、彼女に近づく。


「それでも、私たちは“選ぶ側”であるべきよ。癒されたいなら、自分の足で行く。愛されたいなら、愛する努力をする。神はそれを望んでるわ」


そのとき。


──どくん。


部屋の空気が脈打った。


「これは……下層の神殿で、何かが動いたわ!」


アリシアの魔法感知が反応。


「神の名を騙る“主犯”が、まだこの島の奥にいる……!」


「つまり、ここはまだ“入口”ってことか……」


流星は、ふらふらと立ち上がった。


そして、剣を腰に戻しながら、言った。


「よし……行こうぜ、みんな」


「おっけー! ぶっ壊すッ!!」


ヴァネッサのテンションが一気に上がる。


こうして、常盤流星とその仲間たちは──


“神の名を騙り、快楽で支配しようとする者たち”との本当の戦いへ、足を踏み出した。

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