第70話『愛と煩悩の境界線──ユルヴァーナに春が来る』
──夜明け前。
ユルヴァーナの空が、少しずつ春の匂いをまとい始める。
数日続いた幻術と快楽支配の事件が終わり、夢魔エイリーンの結界が消えたこの村には、ようやく穏やかな時間が戻っていた。
神殿風俗街の住人たちも目を覚まし、自らが“与えるだけの愛”に縛られていたことを思い出し──そして、静かに涙をこぼした。
癒しとは、支配ではなく。
快楽とは、拘束ではなく。
そう、選べること──
それこそが、この世界の自由だった。
「──ふぃーっ、やっと終わったかぁ……」
流星は広場の噴水に腰掛け、首筋の汗をぬぐいながら大きく伸びをした。
「これでようやく、まともに風俗に行ける世界になったってことだな」
「お前さあ……言い方よ」
呆れた声とともに、リリアが後ろからどかっと隣に座る。
変わらず鋭い目つき。でも、ほんの少し──
その目尻は緩んでいた。
「でもまあ……アンタの煩悩がなきゃ、この村も救えなかったのは事実だしね」
「むしろ、煩悩がなかったら何も始まらなかったっていうか……」
「ほんと……バカな男」
そう言いながら、アリシアも横に腰を下ろした。
肩を預けてくる感触が柔らかくて、流星は少しだけドキッとする。
「でも……私は、あなたが“選んだ愛”を信じたいと思った」
「えっ、それってつまり告──」
「黙ってろ変態」
「えぇっ!?」
「うおっ!? こら、背中に乗るな!」
「やーだー♡ 流星くんの背中、落ち着くんだもん〜」
ヴァネッサはすでに半分乗っかっていた。
「さ、今日も一緒に寝よ? 添い寝♡」
「いきなり再開すなァ!!」
「まぁまぁ、今夜は祝杯だし?」
「全員──落ち着けぇぇぇぇぇえええッ!!」
絶叫する流星の声が、春の風に溶けていく。
だが、その叫び声の奥には──
ほんのわずかに、笑みがあった。
◆
数日後──
再建されたユルヴァーナ風俗街では、新たな風が吹いていた。
・女性客専用の癒しサロン
・男女カップルで楽しめる温泉型風俗店
・“選べる愛”をモットーにしたラウンジ式店舗
「……やっぱり“選べる”って大事なんだな」
流星は、のれんの前でふとつぶやいた。
ギルド長:「君たちが残した功績は大きいよ。ユルヴァーナは、今後も王国の“癒し文化”の拠点となるだろう」
「いや~、俺、ただ風俗に通ってただけなんですけどね……」
「そんな“信念ある煩悩”を持った男が、一人くらいいてもいい」
「やったー!? それって褒めてます!?」
リリア:「ま、あんたの煩悩がなきゃ、世界も救えなかったんだから……」
アリシア:「今日だけは……ちょっとだけ、許してあげる」
ヴァネッサ:「じゃあ今夜は“私がご褒美あげる♡”」
ミレーユ:「ま、そういう“バカ正直な英雄”も、悪くないかもね」
流星:「……うわーこれ、また地雷地帯の予感しかしない……!!」
春の訪れと共に──
一つの戦いは終わり、そしてまた新たな風俗(?)の旅が始まる。
だが、確かなことが一つだけある。
“風俗を愛する男”と“その煩悩を見守る女たち”の物語は──まだ、終わらない。




