第64話『女王たちの遊戯──癒しと支配の裏契約』
──男が癒される街ではない。女が癒され、そして、支配する街。
ユルヴァーナ村。
そこは女性専用風俗の楽園として栄えながらも、どこか違和感をはらんだ空気を纏っていた。
風は甘い。香は妖艶。
通りには、美しい男たちが微笑み、上品に腰を落として「お嬢様」と囁く。
その中心に、常盤流星はいた。
「……いや、たしかに。眼福ではある。あるけどさ」
男たちのエスコートを見ながら、流星は頬をひきつらせていた。
「……これ、なんか空気が……“こっち”に向いてないっていうか……」
そのときだった。
路地裏の一角。
ひときわ格式高そうな屋敷に、数人の女性が“男を従えて”入っていくのを見た。
男たちは全員、美しく整った顔立ち。
だが、どこか虚ろな目をしていた。
「……今の、なんかおかしくないか?」
流星は、迷わず裏路地に足を踏み入れた。
◆
屋敷の名前は《女王の羽衣》。
外から見れば高級リラクゼーションサロン。
だが、扉の内側はまるで違った。
「おかえりなさいませ、女王様」
それは、“従順な男たち”が女性に跪く空間。
衣服も整えられ、髪型も美しく、まるで舞台の上の人形のようだった。
流星はその様子を壁の陰から見つめ、息を呑んだ。
(……これって、普通の風俗じゃない……)
女性が座れば、男がひざまずき足を揉む。
お茶を差し出し、膝に頭を乗せさせる。
耳元で甘い言葉を囁き、服の袖を撫でる。
──あきらかに、主従関係が逆転していた。
「裏契約者、入場します」
奥の扉から、新たに女性が一人、入ってきた。
煌びやかなドレス。隠しきれないプライドの匂い。
流星の嗅覚が告げる──この女、上流階級だ。
「今日は……“逆らう素振りを見せた男”をお願いね」
「かしこまりました。“言い聞かせコース”でよろしいですか?」
「いいえ。“心服特化型”でお願いするわ」
男が一礼し、奥へと案内された。
その後ろ姿を見送る女性は、微笑みながらつぶやいた。
「──私が選んだ男は、最後には必ず、私だけを見るのよ」
◆
その夜。
「行方不明……?」
流星は宿に戻ると同時に、ギルドで聞き込んだ情報を仲間たちに伝えた。
「ここ数ヶ月、ユルヴァーナ村に来た男の冒険者が、何人も音信不通になってる」
リリアが眉をひそめる。
「でもこの村、表面上は平和よ? 少なくとも事件の痕跡は見えない」
「“裏”があるんだよ、リリア」
流星は、自分が見た《女王の羽衣》の光景を語った。
そして、囁かれているという“裏契約”の存在。
つまり──女性側が金銭を払って、“男性を従属させる”プレイ。
だがその契約には、ある種の“強制性”があるらしい。
「女王様によって、“心を壊された”男たちがいる……ってことね」
アリシアが、冷たく言い放った。
「これはもう、癒しじゃない。支配だわ」
ミレーユは唇を噛んだ。
「……それって、うちの王都で報告されてた“従属呪詛”に似てる。
相手の“快楽に依存する感情”を増幅させて、他の感情を削っていくの」
それはつまり──
“自分の意思で従っている”ように錯覚させる魔術。
「……あの笑顔は、幸せじゃなくて、“壊れた顔”だったのか」
流星は拳を握った。
「癒しってのは、もっとこう……日常の疲れをさ、忘れさせてくれる“優しさ”であってほしいんだよ」
静かに、そして強く。
「支配と癒しは、似てるようで全然違う。
風俗ってのは、“合意と敬意”の上に立ってこそ光るんだよ!」
◆
翌朝。
ユルヴァーナ村の裏通りに、5人の影が並んでいた。
リリア、アリシア、ミレーユ、ヴァネッサ、そして流星。
その顔は、全員が真剣だった。
「潜入する。あの裏館の奥に、“何か”があるはずだ」
「よーし、女王様ごっこ……終わらせにいこうぜ」
ヴァネッサが、戦斧を肩に乗せてニヤリと笑う。
「俺たちの“癒し”は──誰かの支配の上にあっちゃいけねぇんだよ」
そして彼らは、“偽りの楽園”の核心へ向かった。




