第62話『神託の泉、浄化完了──でもフラグは立ったまま』
──それは、奇妙で、騒がしくて、ちょっぴりエッチな冒険の、一区切りだった。
南国神殿風俗街《ユニ=ラマ》。
神の名を騙った幻術の事件が解決されて数日後、
かつての喧騒は静まり返り、通りにはまた平和な笑い声が戻ってきた。
「これで、正式に《神託の泉》も営業再開ですね」
アリシアが小さく頷いた。
その瞳はどこか柔らかく、いつもよりも緊張感が抜けている。
「まあ……“ちゃんと許可と教育を受けたスタッフだけ”って条件つきだけどね」
ミレーユが補足する。
「以前のような“記憶改竄の幻術香”はすべて破棄されたし、
“快楽神官団”も解体処分されたわ。これで、ここも健全な“癒しの場所”として再出発よ」
「ふふ……“健全な風俗”って、なんか新しいね」
リリアが呆れ混じりに笑う。
「お前が言うなよ……」
流星は苦笑した。
彼の背中には、あの“戦いの証”とも言える小さな剣の傷跡がまだ残っている。
──そして、ギルド本部から届けられた報酬は、
大量の金貨、称号《快楽の守護者》、そして──
「南国温泉旅館・三泊四日ご招待券♡」
「いや、なんでそれなんだよ!? もっとこう、名誉とか……勲章とか……!」
「要るの? あんた、絶対温泉行きたがってる顔してるけど」
リリアの鋭い指摘に流星は絶句し、
結果的に“断る理由もなく”、温泉地へ移動する運びとなった。
◆
──そして温泉宿、《ナグナ・リゾート》。
南国風の造り。
木製の湯殿。
月明かりの差し込む露天風呂。
……そして、部屋は“全員同室・大部屋”だった。
「な、なんでまたこのパターン……!」
流星の悲鳴が、夜空に溶けた。
「予約の都合ですって。空いてた部屋、ここだけだったらしいわよ」
ミレーユがさらりと告げたが、明らかに目が笑っている。
「しかも、部屋に露天風呂付きって最高だよね~♡」
ヴァネッサはすでに半裸で飛び込み寸前。
「おい!おい待て! 脱ぐな! 今はまだ! 時間帯が!」
──しかし、止められるはずもなく。
結局、全員で一緒に風呂へ入ることとなった。
それは、まさに“地獄”と“天国”が混在する時間だった。
リリアの薄く濡れた金髪。
アリシアの無駄のない美しいラインを描く背中。
ミレーユの控えめながら愛らしいフォルム。
そしてヴァネッサの爆発的グラマラスボディが、湯煙の中でぬらぬらと存在感を放っていた。
「う……ううう……っ」
流星は湯船の隅で体育座りしながら、
己の理性と煩悩のバランスを必死に保っていた。
「顔が赤いよ流星くん? のぼせた?」
「目線が危ない……」
「さあ、みんなで“現実の癒し”を実感する時間だよ♡」
「やめろォォォォォ!! 俺は尊厳を守りたいッ!!」
──その夜、
風呂上がりに“偶然”布団が一組しかなかったことは、もう誰も驚かなかった。
◆
翌朝──
露天風呂の脇で、ジュースを飲みながらくつろぐ一行。
リリアはようやく落ち着いたのか、柔らかく微笑んだ。
「……でも、あんたが“自分の意志で癒しを選ぶ”って言った時は、本気でカッコよかったよ」
「そ、そうか……? まあ、あれは俺の中の信念みたいなもんだから……」
「……でも信念にしては、ブレそうな目してたけどね」
アリシアが冷ややかに指摘し、全員が吹き出した。
──と。
「ねぇ、ところでさ……」
ヴァネッサがぐいっと腰を乗り出してきた。
「例の“男女逆転風俗街”って、どこにあるか分かった?」
「……え?」
「この前、神殿街で聞いたじゃん。男が癒されるんじゃなく、女が癒される村があるって」
「え、ちょ、待っ──」
「もうね、私、行ってみたくてたまらないの! むしろあんたらも一緒に来なさい!」
「ええぇぇ!?!?!?」
流星の叫びが、再び南国の空に響いた。
「待て、ヴァネッサ!それ絶対フラグだってば!!
俺が行ったら何かが壊れるって!!」
「いやいや、むしろ“何かが開く”かもしれないよ?」
にやりと笑うヴァネッサ。
アリシアは頭を抱え、ミレーユはなぜか手帳に「調査要」と書き込み、
リリアは完全に遠い目をしていた。
──こうして、“癒しの旅”はひとまずの終焉を迎えた。
だが、まだまだ流星の煩悩は、次なる舞台へと走り出す──!




