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第53話『お忍びの王女、視察に現る』

「──王女が、風俗街に?」


ギルド長のひとことで、流星の脳がフリーズした。


「そうだ。しかも“お忍び”でな」


「いや、あの、王女って……あの王女?」


「王位継承権第一位、ミレーユ=エトワールの姉君、“シェリル殿下”だ」


 


それはつまり──


王都に風俗視察に来ているのが、王族のトップクラスレディであり、

ミレーユの姉であり、現在進行形で「風俗の民間文化への理解促進」という

謎プロジェクトを推進している張本人だという。


「……えっ? 風俗って、文化?」


「らしいぞ。殿下いわく『癒しは国家安定の基盤である』と」


(いや正論だけど!?)


流星は頭を抱えた。


 


 



 


その日の午後。


 


「……なるほど、あれが常盤流星という男ね」


王都のギルド本部、ガラス越しの応接室。

高級なローブと帽子、香の漂うブロンドの巻き髪美少女が、流星を見つめていた。


──シェリル=エトワール、王女にしてミレーユの姉。

美貌、知性、気品、そして……**“風俗の本質を探る王女”**という謎肩書きを持つ才女である。


「ねぇミレーユ。あの人、あなたが言ってた“風俗を救った勇者”なの?」


「ええ、姉さま……でも、あまり深入りしない方が……」


「興味があるのよ。“煩悩の力”がいかにして民を癒したか」


 


──なにその研究テーマ。


 



 


翌日。


流星のもとに、ギルド経由で謎の書状が届いた。


【王国特別視察任務・風俗文化理解調査補佐】

対象:常盤流星

指示内容:シェリル王女の視察に同行し、案内および“文化的実例”の提供をせよ。


 


「……文化的実例ってなんだよオオオオオ!!!」


流星は絶叫した。

だが──逃げられなかった。


王女の命令は絶対。

ましてや、あの王族的圧に勝てるほど、流星の煩悩は……強くなかった。


「ふむ。なるほど、これは“リアル”ね」


風俗街の通りに立ち、シェリルは鼻をくんくんと鳴らしていた。


「この香り……“媚薬系フレグランス”? 官能成分は配合されてるの?」


「いやそれ説明いる!?」


「人が並んでるこの店は──ああ、“母性コース”と書いてあるわ。つまりこれは……」


「姉さま!! ちょっと黙ってください!!」


ミレーユが真っ赤な顔で止めに入る。


 


だがそのとき、さらに問題が起きた。


 


「……あれ? おいおい、流星……王女連れて風俗街デートかよ」


「なに勝手に新ルート開拓してんのよバカ勇者ッ!!」


──リリアとアリシアが、爆速で飛んできた。


「お忍び王女と風俗デート!? はぁ!? どんな業界ルートだよオオオオ!!」


「男ってのはなぁ!! 風俗行くにも“節度”があるんだよおおおお!!」


完全なる修羅場。


「ち、違う! これは視察なんだってば!! 文化的実例って言われて──!」


「文化的実例ってなによ!!? どんな体位で文化教えてんのよ!!?」


「体位じゃねええええええええ!!!」


 



 


その日の夜。


視察後、王女は満足げだった。


「ふむ……良き視察だったわ。ありがとう、流星」


「いやぁ、こっちは死にかけましたけどね!!?」


「それで……お願いがあるの」


流星がぴくりと反応する。


シェリルは美しく微笑んだ。


「私の“専属護衛騎士”になってくれない?」


「──えっ?」


「あなたのような人材が、国のそばにいてくれたら……いえ、私のそばにいてくれたら心強いわ」


「……王女にナンパされてる???」


 


それを聞いた瞬間──


 


\ゴゴゴゴゴゴ……!!/


 


背後から発せられる殺気。


「へぇ……いい度胸してんじゃない、王女さま……」


「王族だかなんだか知らないけど、そいつは私たちの……ッ!」


──リリア、アリシア、そして後ろから現れたヴァネッサまで、怒りの炎。


「はぁ~ん♡ まさか王女にまでモテちゃうとか、勇者くん罪な男♡」


「違うんですってばぁあああああああ!!!」


流星、壁まで吹っ飛んだ。


 



 


その夜──


流星は月を見ながら、独り言をつぶやく。


「風俗が好きだ。それは変わらない。でも……最近、あいつらのことばかり考えてる」


ラッキースケベ。

旅の戦い。

勝って、笑って、泣いて──


「癒されてたのは、俺の方だったのかもな……」


 


そのとき、また扉がノックされた。


「流星……そろそろ、決めてもいいんじゃない?」


そう告げたのは、リリアだった。


だが──


「おじゃましま〜す♡」


「王女の夜這いタイムですわよ?」


「筋トレしながら添い寝ってどう思う?」


──全員、来やがった。


 


そして──


全員、布団に入ってきた。


 


「──あのさ、俺、明日も王女の視察なんだけど……?」


「……寝かせねぇぞ」


地獄のハーレム、ふたたび。

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