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第51話『風俗街、再び解放──快楽は罪じゃない』

風が吹いていた。


朝焼けに染まる王都ユグノール通り。

かつて結界に覆われていた風俗街の一角に、陽光が差し込んでいる。


 


ローズ──夢魔の女王が倒れ、精神を縛っていた幻影の結界は完全に解除された。


 


建物の壁を這っていた快楽の魔紋は音もなく消え、空を漂っていた淡い香りも、まるで嘘だったかのように霧散していた。


 


「……本当に、終わったんだな」


 


常盤流星は、剣を肩に担いだまま、ボロボロになった靴を見下ろした。


 


思い返せば、ずっと走り続けていた。


 


ゴブリン狩りから始まった異世界生活。

目指すはただ一つ、風俗への道。


 


だがいつしか、金だけではなく、守りたいものが増えていた。

一緒に怒ってくれる仲間がいた。

パンツで喧嘩して、夢精で反省して、それでもそばにいてくれる“現実”があった。


 


──そして今、風俗街が“本来の意味”を取り戻そうとしていた。


 



 


「お客様……?」


 


薄暗かった店舗の扉が、一つ、また一つと開く。

中から顔を出したのは、接客をしていた女性たち。


 


「わたし……ずっと夢の中にいたような……」


「でも、覚えてる……誰かが、呼んでくれた。現実に、戻れって──」


 


彼女たちは、自分の手を見た。


 


震えていた。

だが、その手で確かに、客を抱きしめ、言葉をかけ、笑い合っていた記憶があった。


 


「癒しって……私たちが“与えられる”ものじゃなくて、“一緒に作る”ものだったのね……」


 


涙を流す者もいた。

流星たちに、深々と頭を下げる者もいた。


 


──その空気の中、ひときわ大きな影が立っていた。


ギルド長である筋骨隆々の中年男が、流星たちの前に現れる。


 


「よくぞ、帰ってきた!」


 


王都ギルド長・ガルド・ベイルハート。

冒険者たちを束ねる頑固一徹な男。


 


「おまえたちが“ユグノール通り”を取り戻したと聞いた時、王都中の者が泣いたぞ!」


 


周囲にいた冒険者や衛兵たちが、次々と集まってくる。


 


「この街にとって、風俗街はただの遊び場じゃねえ」


「疲れた戦士たちが、命のやり取りのあとに、ようやく笑える場所だったんだ!」


「そこに帰ってこられるってだけで、また戦おうって思えるんだよ!」


 


それは、賛美でも過剰な礼賛でもない。


 


ただ、“必要とされていた日常”を、取り戻したことへの純粋な感謝だった。


 



 


「──よって、常盤流星およびそのパーティーは、王都防衛において多大なる貢献をしたものとし、ギルドおよび王都評議会より“英雄勲章・青蓮章”を授与する」


 


その後、王都の中央議事堂にて、公式の授与式が行われた。


 


壇上に立たされた流星は、緊張で汗を流しながらも、しっかりと勲章を受け取った。


 


「……俺で、いいんですか?」


 


「風俗を救った男にふさわしい勲章だ」


 


「褒めてんだか貶してんだかわからねぇな!?」


 


観衆がどっと笑った。


 



 


表彰式が終わると、ギルド長のガルドがぽんと流星の肩を叩く。


 


「……戻ってきてくれて、ありがとうな」


 


「……いえ、俺はただ、“癒されたい”だけで……」


 


「いや、それでいいんだよ。癒しを求めて、でも仲間を守って、自分で立ち上がった。それが“本当の冒険者”だ」


 



 


一方──《ローズ・セレナーデ》跡地に建った新店舗には、かつての女性たちが戻り始めていた。


 


「“癒し”は、誰かを無理に笑顔にさせることじゃないのよね」


「うん。“一緒に笑える”ことなのよ、きっと──」


 


そして、その店舗の看板に、流星の名前が刻まれていた。


 


《推薦冒険者:常盤流星──“癒しの再生者”》


 



 


夕暮れ時、王都の広場。

パーティー一同は、大きなソファに座って休んでいた。


 


リリアが、お茶を飲みながらぼそっと言う。


 


「で、結局……風俗街は、どうするつもりなの?」


 


「行きたい!!」


 


「問答無用ッ!!」


 


ヴァネッサが筋肉で羽交い締めにし、ミレーユが横から「またですか」とため息をつく。


 


「でも、よかったですね。皆さん、ちゃんと笑ってて」


 


「そりゃそうだ。俺たちは、現実に帰ってきたんだ」


 


流星が、空を見上げて呟いた。


 


──快楽は、罪じゃない。


──逃げ場は、必要だ。


──でも。


 


「それは、“自分の足で歩いてきた現実”があってこそなんだよな……」


 


その言葉に、誰もがうなずいた。


 


王都ユグノール通り。

風俗街が再び灯を取り戻したその日──

それは、冒険者と風俗嬢と、癒しを求める者たちの“再出発の日”でもあった。

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