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第43話『再潜入! 館の奥にいる“夢魔のホステス”』

 《ローズ・セレナーデ》──

 王都の風俗街《ユグノール通り》の奥地にそびえる“夢の館”。


 再びその重い扉を押し開いたのは、常盤流星ただ一人だった。


 


 ──仲間はまだ来ていない。

 ──だが、このまま“あの女”に囚われているわけにはいかない。


 


「俺の風俗観を……冒涜してくれたな……ッ」


 


 低く呟いた声は、怒りと羞恥と若干の悔しさを含んでいた。


 なにせ、一度は「幸せ……♡」と鼻の下を伸ばして堕ちかけたのだ。

 煩悩が敗北寸前だったあの時の自分を思い出すたび、背筋が寒くなる。


 


 ──だが。


 流星の心には、確かな火が灯っていた。


 


「本物の癒しは、現実の痛みの上にしか成り立たねえんだよ……!」


 



 


 館の奥へと歩を進めるごとに、空気が変わっていく。


 香りが濃くなる。壁が赤く染まり、照明はやや暗く。


 絨毯が深く沈み込み、歩くたびに足を取られる感覚すらある。


 


 そして──


 


 部屋の扉が、ふいに音もなく開いた。


 


「……!」


 


 そこに現れたのは──見知らぬ、だが“なぜか懐かしい”女性だった。


 母のような優しさを湛えた微笑。

 初恋のあの子とそっくりな口元。

 学生時代に一瞬だけ好意を寄せた先輩の髪型。


 


 全てが、流星の“記憶の片隅”にある女性像の“断片”で構成されていた。


 


 「おかえりなさい、あなた……今日も頑張ったわね」


 


 ──脳に、直接快楽が流れ込んでくるような声だった。


 


「……っ、こ、これは……!」


 


 流星は奥歯を噛みしめた。


 


 “現実では叶わなかった想い”──

 “失われた理想”──

 “心の奥で、ずっと求めていた癒し”──


 


 それらを、すべてこの女は知っている。

 記憶に干渉して、心を読む……いや、“創る”。


 


「さすがに……やばい……っ」


 


 膝が、かくんと折れそうになる。


 指先が痺れる。

 視界が、白く霞む。


 


 ──だが。


 


 その瞬間、女の輪郭が揺らいだ。


 そして、変わった。


 


「……ようこそ、おかえりなさいませ、常盤流星さま」


 


 姿を変え、現れたのは──館のNo.1、《ローズ》。


 深紅のドレスは、まるで血のように艶めき、

 黒髪は風もないのに、艶やかに揺れる。


 


 瞳の奥が、夜よりも深く、甘く、そして恐ろしいほど美しかった。


 


「あなたは……ずっと“癒し”を求めている。

 ならばわたくしが、“永遠の愛”を与えて差し上げましょう」


 


 ──彼女の背から、生えた。


 黒い、巨大な羽が。


 


 その瞬間、空気が震えた。


 空間に満ちていた香気が“魔気”に変わる。


 


「夢魔……っ!」


 


 ローズの笑みが深まった。


 


「正確には“夢魔の末裔”。

 この王都で、《男の夢》と《女の理想》を再構築するために──

 私は生まれてきたのです」


 


 幻惑、記憶操作、快楽強制、精神封鎖──

 《ローズ・セレナーデ》のサービスすべてが“魔術体系”で構成されていた。


 


「あなたのような強い意志を持つ者は、久しぶりでした」


 


 彼女の指先が、空気をなぞる。


 その瞬間──流星の身体が、がくんと沈んだ。


 


 瞳が、虚ろになる。


 


「……っ、やべぇ……マジで、意識が……!」


 


 脳内に、ローズの声が直接流れ込む。


 


「安心なさい……もう、なにも考えなくていい。

 働かなくてもいい。悩まなくていい。現実の痛みも、孤独も、苦しみも──」


 


「わたしが、あなたを癒し続ける……永遠に」


 


 その声は、まるで甘い蜜のようだった。


 抗いがたく、心地よく、やさしく、なによりも“疲れた男”には魅力的すぎた。


 


「……ああ……ダメだ……ここまでか……俺……」


 


 そのとき──


 


 ──バンッ!!!


 


 館の天井を突き破るかのような爆発音が轟いた。


 空気が裂ける。風が吹き込む。


 


「流星ッ!! 起きろ!! 風俗魂を見せてみろッ!!」


「私のスカートを見て覚醒しなさいッ!!」


「起きなさい! “本物の女”たちが来てるのよッ!!」


 


 ──聞こえた。

 “現実”の声が。


 


 その瞬間──流星の脳裏で、何かが弾けた。


 


 瞳が、見開かれる。


 そして彼は、叫んだ。


 


「──風俗はッ!! 理想じゃないッ!! 現実なんだよォォォ!!」

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