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第41話『花の館の妖精たち』

──そこは、まさに「天国」だった。


 


 重厚な扉が、音もなく開かれる。


 香り立つ花弁のアーチをくぐり抜けた先、現れたのは──


 


「ようこそ、“貴方だけの癒し”へ」


 


 笑顔で迎えたのは、三人の接客嬢。


 それぞれがまるでジャンルの異なる美を体現していた。


 


 一人は、蒼銀の髪に涼やかな声──知的な女教師風。

 一人は、ふんわり巻き髪に柔らかく微笑むロリマダム風。

 一人は、長身黒髪、涼しげな目元に妖艶な微笑──まさに“夜の貴婦人”。


 


 常盤流星、軽く目が逝く。


 


「……これは……っ……完全に……属性が整ってる……ッ」


「お客様、本日はどの“癒し”をお望みですか?」


「選べるの!? いや選べねぇよこんなんッ!!」


 


 気づけば彼の頬は紅潮し、手は震えていた。


 ──理性の中で、何かがゆっくりと、確実に崩れていく。


 



 


 一方その頃。


 ギルド宿舎、裏通りの喫茶店。


 リリア、アリシア、ミレーユ、ヴァネッサの四人は、現地調査に奔走していた。


 


「──聞いてきた。あの《ローズ・セレナーデ》、最近再開してから“記憶喪失っぽい症状”が増えてるって」


 


 ミレーユの表情は真剣だった。


 


「“通った男性が、何をしたかは覚えていない。でも楽しかった”って言うのよ」


 


 アリシアも重く頷く。


「まるで……記憶を食われてるみたいね。しかも“快楽”と引き換えに」


 


 リリアは机に拳を落とす。


「それ、流星も今……?」


「うん、たぶん夢見てる」


「ぶっ飛ばしてくるッ!!」


「早い! 早まるな!!」


 


 ヴァネッサがにやっと笑った。


「でもさ……“夢の中”からどう引き戻す? あの男、こういう時だけ夢中になるから」


 


 全員が一瞬黙る。


 


 ──そう、常盤流星は“風俗好き”でありながら、“現実を大切にする男”だった。


 女の子の気持ちに敏感で、合意を重んじ、幻想には頼らない。


 


「だったら、信じようよ」


 リリアの瞳が真っ直ぐになる。


「夢の中でも、“現実の誰か”を思い出せるって。あいつは、そういう男だもん」


 



 


 ──一方その頃、夢の館。


 


「お客様、こちらへ」


「このドリンクは、貴方のためだけの調香です」


「疲れた心に、優しい声を……」


 


 空間すべてが「理想」を語りかける。


 声も、香りも、視線も──流星を包み、少しずつ深く沈めていく。


 


「……はは……これは……夢だな……」


 


 彼の口元は笑っていた。


 でも──心のどこかに、確かな“違和感”があった。


 


「──だってさ」


 


「現実の女って、もっと面倒くさいだろ?」


 


 ──一筋の思考が、霧を裂いた。


 


 リリアのツンケンした態度。

 アリシアの呆れた嘆息。

 ヴァネッサの露骨すぎる押し。

 ミレーユの皮肉混じりの目線。


 


 ──うるさくて、騒がしくて、面倒くさい。


 


 けれど──


 


「その面倒くささが、妙に……落ち着くんだよなぁ……」


 


 脳裏に浮かんだのは──“作られた妖精たち”ではなかった。


 現実の、煩悩まみれで、時にぶつかってくる、あの4人の顔。


 


 その瞬間。


 


「……ッ!? 目が……覚めてきた……?」


 


 夢の世界に、ヒビが入る──。


 

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