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第40話『お迎えは馬車と香水、VIPの罠』

──その封筒は、まるで“薔薇”そのものだった。


 上質な深紅の紙。花びらを模したエンボス加工。

 封蝋には「R・S」の金文字が浮かび上がる。


 


「これって……《ローズ・セレナーデ》から?」


 


 リリアが警戒心をあらわにする。


 受け取ったのは、常盤流星。ギルド宿舎のポストに、なぜか名指しで届いたのだ。


 


「差出人なし、だが中身は──」


 


 ──【ご招待状】──

 《紳士のあなたへ》

 当店は、心より癒されたい紳士の方を歓迎いたします。

 ・初回無料

 ・完全個室対応

 ・選べる接客嬢は全員、国家審査済の一流ホステスです。


 貴方の癒しの夜が、ここから始まります。


 《Rose Serenade》


 


「ちょっと待って!? “国家審査済み”ってなに!?」


「怪しいを超えて“政府ぐるみ”みたいなこと言ってない!?」


「いや……逆に興味湧いてきたな……」


「湧くなァァァアアアア!!」


 



 


 その夜、王都の石畳を黒塗りの四輪馬車が走る。


 車輪の音も心なしか静かで、まるで夢を引いて走っているかのようだった。


 


 ──そして、その馬車に乗っていたのは──


 


「──ふはは……俺は今、選ばれし者になった気がする……!」


「なにその邪悪な笑み!? もう騙されてる顔になってるからやめてぇ!!」


 


 ついに潜入決行である。


 もちろんギルドの調査任務とはいえ、本人は100%ノリノリ。


 


「初回無料ってことは、実質勝ち……!」


「ちがう、勝ちじゃない! 勝ちの概念を間違えてる!!」


 


 ──と、そのとき。


 馬車が緩やかに止まった。


 


「お客様、到着いたしました」


 扉が開くと、そこには──


 


 ――光の館。


 


 街の一角に忽然と現れた、薔薇のアーチと香の回廊。


 美しすぎる外装。金細工の階段。天井からはシャンデリアならぬ“香水ボトル”が吊るされていた。


 


「なにここ……夢か……?」


 足元からじわじわと広がる“安らぎの香り”に、思わず膝が震える。


 


 その瞬間──


 


「いらっしゃいませ、《ローズ・セレナーデ》へようこそ」


 


 現れたのは、完璧な微笑をたたえた美女。


 深紅のスリットドレスに身を包み、長い黒髪を艶やかに垂らす──


 


 「わたくし、本日のご案内を担当いたします《ローズ》と申します」


 


「うわ……美人だ……」


「ダメだこの人、正面から落ちかけてる!?」


 


 流星は口をぽかんと開けたまま、足を踏み出す。


 


 館の奥、夢の世界へと。


 



 


 店内は静謐そのものだった。


 床は絹、壁は香木。

 窓の外には、人工的に設けられた“夜空の幻影”。


 


「まるで──時間が止まってるみたいだ……」


 


「お客様、どうぞリラックスなさって。こちらのお部屋で、お好みに合った接客をご用意いたします」


 


 ローズの手が、白手袋越しに流星の手を取る。


 その瞬間──脳がふわりととろけそうになった。


 


 ──だが。


 


「……違和感、ある」


 


 流星の胸中に、ほんのわずかな引っかかりが生まれていた。


 この香り。空気の流れ。接客の手順。


 「理想」すぎる。


 


「“現実の女性”って、もっと面倒くさいじゃん……」


 


 そう──


 風俗通い歴20年、プロの“現実フェチ”である彼には気づけた。


 


 ──これは“造られた夢”だ。


 


 ほんの一瞬、ローズの微笑に、ズレた“影”が差した気がした。

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