第36話 『女戦士の過去と“求めるもの”』
夜の焚き火は、不思議な魔力を持っている。
炎の揺らぎに照らされた横顔は、昼の喧騒とは違って見える。
「……なあ、ヴァネッサ」
「ん〜? なに? 抱かれに来た?♡」
「違うよォォォォ!!」
満天の星空。
宿屋裏の静かな中庭で、常盤流星はひとつ深呼吸をした。
「その……今日はさ、なんか、ちょっとだけお前の話、聞いてみたいなって思ってさ」
「お? やっだ〜照れる〜……。私に興味持っちゃった?」
「違う、そうじゃない!」
「じゃあ“ちょっと抱いてみたいな”って思って──」
「話を進めろおおおおお!!」
とはいえ、話す気はあるようだった。
ヴァネッサは焚き火の薪を見つめながら、ぽつりと口を開く。
「……あたしね。昔、好きだった男がいたの」
「へ?」
「一緒に戦ったんだ。魔物だらけの前線で。死線も、飢えも、孤独も──」
「そいつとだったら、全部乗り越えられるって思ってた」
「……でも、あいつ、ある日こう言ったの。“お前のこと、怖い”って」
流星は、言葉を失った。
ヴァネッサの“押しの強さ”の裏に、そんな過去があったなんて。
「それでさ、あたし、思ったんだよね」
「もう、手加減するのやめよって」
ヴァネッサの目は、どこかまっすぐだった。
ギャグでも、欲でもなく。
ただ、ひとりの女として、“全力の恋”を語っていた。
「……好きなら、逃げられてもいい。引かれても、笑われても、私は押す」
「私を“怖い”って言うような男なんて、こっちからお断りだしね!」
「……だから、あたし、お前がいいと思ったら、容赦なくいくよ?」
「お、男にも……こ、心の準備ってもんが……!」
「ふふ、知ってる。だから今夜は寝込みを襲わないであげる」
「それもおかしいだろおおおおおお!!」
◆
夜が深まる。
火の粉が宙に舞い、ヴァネッサの目元が少し潤んで見えた。
「ねぇ、流星」
「ん?」
「いつか本当に好きになってくれたらさ、そのときは──手加減、やめていい?」
流星は、少しだけ顔を赤らめながら、頷いた。
「そ、そのときは……あらかじめ言ってくれ。逃げるから」
「最低〜〜〜〜♡」
──こうして、“全力で愛したい女戦士”は、
今日も“押す”ことをやめない。
でもその一歩一歩に、ちょっとずつ“重み”が乗ってきたように思えた。




