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第34話 『とにかく押してくる女、流星逃げる!』

 ──逃げていた。


 


「待ちなさああああああい♡ 勇者くんっ♪」


「誰が待つかあああああああッ!!」


 


 宿屋の廊下を、半裸の女戦士が突進してくるという異常事態。


 それを全力で逃げる青年──常盤流星。


 そしてその二人の様子を、開いたドアの隙間から見ていた宿の店主は、そっと目を伏せた。


「……あれは青春じゃない。“災害”だ……」


 


 ◆


 


 事の発端は、わずか一時間前。


 


 魔物討伐の準備のため、村の宿屋に入った流星たち一行。


 一階には食堂、二階には客室があり、今回は4人1部屋、2段ベッド×2の構成だった。


 


「いやいやいや、待て待て。なんで俺たちの部屋にヴァネッサまでいるんだ!?」


「案内役ですし、一緒のほうが情報交換がスムーズでしょ?」


 と、妙に理知的な顔で言うアリシア。


「あと、部屋余ってないからだってさ」リリアが宿の受付を指差す。


 


「でもって、案の定これだよ!!!」


 


「ふふふ、動きがいいわね〜♡ 見てるだけでムラムラしちゃう♡」


「見ないでくれ! いや見てもいいけど、追うなああああ!!」


 


 ヴァネッサのスキンシップは、どうやら“好意”という名の戦闘モードらしい。


 彼女にとって“好き”は“追う”、“好感”は“押し倒す”という回路で接続されていた。


 


「勇者って、やっぱり抱き心地いいのかな〜♡」


「その検証、今ここでやらなくていいだろォォ!!?」


 


 ばたばたばた──!!


 宿屋の二階廊下を、褐色女戦士と転生勇者が縦横無尽に走り回る。


 途中、開けたままだったトイレのドアにぶつかって流星が転倒。


「ぎゃっ!? いたたたた……ちょ、おい! 近づくな、やめ──」


 ずいっ……。


「……今、抱き枕チャンスじゃない?」


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 


 ◆


 


 一方その頃──部屋でお茶を飲んでいた二人のヒロイン。


 


「ねぇ、そろそろ止めないと、あれ、本気でやばくない?」


「……うん。私もちょっと見てて心臓に悪いわ。物理的な意味で」


 


 カップを置き、剣を手にしたリリアが立ち上がる。


「……あの女、止めてくるわ」


「私も行く。でないと、今夜流星が生きてない気がする……」


 


 二人の影が、廊下へと消えていく。


 


 ◆


 


 ──そして廊下の最奥。


 流星はとうとう壁際で追い詰められていた。


「ふふふ……ねぇ、勇者くん。もう観念して、私のマッスル抱擁を受け入れて♡」


「だれが受け入れるかぁあああ!!?」


 


 流星の背後には窓、前方には褐色の筋肉。


 まさに“逃げ場なし”のピンチ。


 


「──そこまでよ!」


 


 ズバァァァァッ!!


 リリアのレイピアが、ヴァネッサの頭上でピタリと止まる。


「寝技は後で。まずはあんた、冷水浴びて頭冷やしなさい!」


「やかましいッ! それよりも! この勇者のムチっとした太もも触ったことある!?」


「あるかあああああああああ!!」


 


「じゃあ比べましょ? どっちが“寝心地”いいか!」


「寝る話やめろォォォォォ!!」


 


 ──こうして、ヴァネッサの暴走(性欲)はヒロインズによって鎮圧された。


 ……一時的に、である。


 


 常盤流星は、その夜ようやく言葉を漏らす。


 


「……あの女……怖すぎる……ていうか俺、なんで“逃げるのが基本”になってんだ……」

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