第33話 『現れたのは性欲全開!? 赤銅の女戦士登場』
──その集落には、決闘場があった。
王都から南へ二日。緩やかな丘陵地帯に建てられた村『グラン・アリーナ』は、かつて魔物と戦うための訓練施設だった。いまは闘技好きの冒険者たちが集まり、日夜、賭け試合が繰り広げられている。
「決闘場っていうより……なんか、筋肉と汗の匂いがすごいんだけど」
流星は眉をしかめながら、集落に漂う男臭さにたじろいだ。
彼の背後では、リリアが鼻を押さえ、アリシアがやや引き気味の表情を浮かべている。
「戦うために全身に油を塗る文化って、何なんですかね……」
「清潔感……は置いてきたらしいわね……」
ギルドからの依頼は簡単だった。
この村に定住した魔物──“アリーナ種ガルグ”と呼ばれる変異オーガの討伐。
しかし、依頼の詳細にはこうも書かれていた。
『現地の案内人を頼れ。そいつが最強の武器だ』
「……案内人って誰だよ。何者だよ。最強の武器って何だよ」
その答えは、想像の斜め上からやってきた。
「──あっついのが来たわね! そこの勇者様っぽい男子!」
どすっ、と音がしそうな勢いで、目の前に着地したその女は──
赤銅色の肌に、燃えるような真っ赤なショートヘア。
堂々たるバルクボディ。露出多めのブラトップと腰巻布。
太ももには鋼のバンデージ。胸元は、見るからに“揺れそう”というか、“揺らす気満々”というか。
そして、開口一番に言ったのは。
「──ねぇ、寝る?」
しばし、静寂。
「え、ええええええええええええッ!?!?!?」
声を上げたのは、流星ではなかった。むしろ彼は完全に口が塞がっていた。
リリア:「ちょ、ちょっと待って!? 誰よこの人!? 寝るってなに!? え、今言ったよね!? 私の耳おかしくないよね!?」
アリシア:「むしろ私の耳を塞いでほしかったわ……っ」
だが、当の女はケロッとした顔で笑う。
「名前はヴァネッサ=ブラッドフォード! 筋肉と快楽の探求者、筋女騎士よ!」
「……肩書がやばすぎる……」
流星がそっと一歩下がる。
「でも、男としては悪くないわね? 腰回りがいい動きしそうだし、目も強さに飢えてる。そういう男、好き」
「だ、誰が腰回りだッ!? てか、なんでそんな観察眼で俺を見てくるの!?」
「ふふっ、感じたのよ。“夜のポテンシャル”を♡」
再び、場が凍る。
いや、むしろ蒸気でむんむんしてきた。
「この人……本物だわ……」
「性欲というか、暴力だよもう……」
案内役を任されていた男(モブ感満載の村人)が後方から小声で言った。
「すみません、彼女が……その……例の案内人です。魔物の巣も、彼女が一人で掃討できるくらいの戦力なんですけど……」
「代償として、男が何人か……部屋から出られなくなってまして……」
「“おかわり”を要求され続けて、三日三晩……」
──伝説かよ。
そしてヴァネッサは、流星に指を突きつける。
「よし、わかった。決めた。あんた、今夜は私と添い寝ね!」
「なぜその話に戻るんだよおおおおおおおお!!」
「別にイヤらしいことしないって!……最初は。体温を感じながら寝て、呼吸が合えば……あとは、成り行き?」
「成り行きで済ませるなああああああ!!!」
──こうして、赤銅の女戦士との邂逅は、激しく、暑苦しく、煩悩まみれに幕を開けたのだった。




