第25話 『魔物の巣はベッドの下!? ユグノール通り潜入任務!』
「まさか、ここにまた来るとはな……」
王都・ユグノール通り。
風俗街の正門前に立ち尽くす流星は、かつての栄華を知る者の顔だった。
シャッターを下ろした店々、静まり返った通り、
“調査中”と書かれた立札だけが、無機質に揺れている。
「これが……癒しの地の末路か……」
「うるさいわね。変な語り入れないでよ」
アリシアが冷たく言い放つ。
だがその頬はわずかに赤い。
「し、しかし、王都の官能拠点の地下が“魔物の巣”だったなんて……」
「リリア、あんたまで真顔で“官能拠点”言うな」
◆ ◆ ◆
ギルドからの特命を受けた流星たちは、
“風俗街の地下調査”という名目で封鎖区域に潜入していた。
まず訪れたのは、通りの奥にある高級店《花楼エフェメラ》。
ピンクと金を基調とした豪奢な内装……だが、今は薄暗く、どこか冷たい。
「……うわ。ここ、ベッドの下に“階段”があるぞ」
「普通、床下収納でしょ……何を格納してたのよ」
「夢と浪漫、じゃないか……?」
リリアと流星が恐る恐る降りると、
そこはまるで迷宮のように入り組んだ回廊だった。
天井は低く、壁はぬめりを帯び、蒸し暑い空気が肌をじっとりと湿らせる。
「この空気……魔力と、もうひとつ……“欲”の匂いが混じってる」
ミレーユが杖を構えた。
「気をつけて。出るわよ──!」
◆ ◆ ◆
ズリュッ……
どこからともなく、音が響く。
「っ、スライムだ!?」
粘液質の体が壁から染み出すように現れ、形を成していく。
それは人間の女性の上半身と、スライム状の下半身を持つ“淫魔型スライム”。
「ふふ……ここは、わたしたちの“楽園”……返して、わたしたちの快楽を……」
「っ、くるぞ!!」
流星が剣を抜こうとしたその時。
ズルリ──
「きゃっ……!? な、なんか来た、背中に!!」
リリアが振り返る前に、スライムが足元から巻きついた。
「ひゃあっ、ちょっ……!? あっ!? これ、肌の上っ……!」
ぐず、ぐず、と粘液が鎧の隙間から侵入していく。
「服の内側を狙うなんて……! エロい、エロすぎるぞこの魔物!!」
「ツッコミしてる場合かっ!」
アリシアが咄嗟に火球魔法を放つが──
「待って! 店内の構造が特殊すぎて、魔法の反射率が高い! 下手に打つと──」
ズドォォォン!!!
「あぁぁああああ!! スカートがァァァ!!」
アリシアの防御ローブが、爆風に巻き込まれてめくれる。
ピンクのヒラッとした何かが空中で舞い、
一瞬だけ“世界が止まった”。
「うっ……見てない、見てないぞ俺は!!」
「嘘つけ、目が“記憶”してる顔してた!!」
「やばい、俺の理性が防衛線を突破しそうだ……!!」
◆ ◆ ◆
「はぁ、はぁ……っ、撃退……完了……」
スライムが床に溶け落ち、蒸発していく。
だが、ただの個体ではなかった。
「“根”がある……この地下全体に、淫魔が巣を張ってる」
ミレーユが顔をしかめる。
「つまり、ベッドの下も脱衣所の床も──ぜんぶ、“繋がってる”わけね」
「まさか……癒しの館が、魔物の通路にされてたなんて……!」
流星の拳が震える。
「……俺たちは絶対に、この街の“尊厳”を取り戻す!」
「風俗街に尊厳とかあるの!?」
「ある!! そこには、努力と癒しと、敬意と合意があるんだよぉぉ!!」
その時だった。
床の奥から、再びズズッ……という音。
「ッ、第二波だ……!」
そして、三人に影を落とす巨大な気配──
地下の奥、最深部から、何かが目覚め始めていた。




