第23話 『ミレーユ、お前もか!? 王族の秘密』
その夜、王都の片隅。
ギルドの高級客室にて、流星はテーブルに突っ伏していた。
「……王都まで来て、風俗が閉鎖中とか。こんな仕打ちある?」
リリアが呆れたように髪を結い直しながら答える。
「まあ、あんたの期待値が異常だったのよ。
普通は“グルメ! 観光! 歴史的建造物!”ってなるとこを、いきなり“癒しの地上の楽園”呼ばわりしてたし」
「俺は正直だっただけだ……!」
アリシアは口を挟まず、じっと窓の外を見ていた。
その表情には、僅かに緊張の色が浮かんでいる。
「……どうした?」
「……王都、変よ。治安は整ってるのに、空気が張り詰めてる。
街中に騎士の詰所が増えてるし、封鎖区域も多い」
そのとき、部屋の扉が静かに叩かれた。
「──入るわよ」
扉の向こうから聞こえたのは、聞き覚えのある冷たい声。
金髪を夜風に揺らしながら、ミレーユがゆっくりと入ってくる。
「お、お嬢様!? もう任務終わったんじゃ……?」
「……その話をしに来たのよ。
護送任務の“本当の意味”を、ね」
◆ ◆ ◆
数分後。
部屋の空気は一変していた。
「……王位、継承権……?」
「正確には第六位。
けれど今、第一から第四までの系統は混乱しているわ。
“王が病床”にある今、争いが始まろうとしているの」
ミレーユは淡々と語る。
「王国の主導権をめぐって、軍部と魔導院、貴族派、外政派、そして──“わたし”」
流星は、思わず言葉を飲んだ。
「じゃあ……護送って、“遊び”どころか……」
「命懸けだったわよ。
だって、わたしが王都に入ること自体が、一部の派閥にとって“殺す理由”になりうるんだから」
ミレーユは、流星の目を真正面から見据える。
「あなたが護ったのは、ただの積荷じゃない。
一歩間違えれば、内乱の火種だったのよ」
沈黙。
重い空気に、誰もが言葉を失った。
「……ごめん。俺、ずっと“癒し”のことしか考えてなかったわ」
ぽつりと流星が呟く。
「俺は、“風俗が文化だ”とか言って、勝手に使命感抱いてたけど。
本当に命張ってたのは、お前の方だったんだな」
「……そうよ」
ミレーユは静かに目を伏せる。
「私は、遊びじゃない。
この国に生まれ、この国の未来に繋がる立場として、“世界”を背負ってるの」
「……」
流星は、ぐうの音も出なかった。
あの夜、森で盗賊に囲まれた時。
魔法陣の光の中、凛と立っていた少女の姿が脳裏に蘇る。
(──ああ、俺なんかとは、比べものにならないほどの覚悟を背負ってるんだな)
「……でもさ」
沈黙の中、流星がぽつりと続けた。
「それでも、お前が今ここにいて──無事に笑ってるなら。
あの時の“くだらない護衛”も、意味があったって思いたい」
ミレーユの目が、ほんの一瞬だけ揺れた。
「……ふん、くだらないのは最初からわかってるわ。
でも──まあ、“悪くはなかった”わね」
不器用な笑み。
その裏に、確かな信頼が芽生えはじめていた。




