第20話『宿屋トラブル!三人部屋で布団は一組!?』
「……一部屋だけ、ですって?」
ミレーユの声が、受付の空気を一気に凍らせた。
「申し訳ございません! ただいま宿泊が殺到しておりまして……ご案内できるのは、一室のみで……その、布団も一組で……」
「ふ、不潔極まりない……!」
流星、リリア、アリシア、ミレーユの四人が泊まるには──
圧倒的に狭い“八畳一間”。
しかも、布団は一組。
あと予備の掛け布団が一枚だけ。
「いや、これギャグだろ……」
流星が思わず天を仰ぐ。
だが、現実はラブコメだった。
◆ ◆ ◆
「まず! 私が端!」
アリシアが即座に仕切り、布団の配置が決まった。
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【壁】 アリシア → ミレーユ → リリア → 流星 【壁】
「背中向けて、寝なさい! 絶対! むしろうつ伏せで!」
「は、はい……」
全員が寝間着に着替え、部屋の灯りが落とされる。
緊張が張り詰める中──誰もが寝たフリをしていた。
「(これは……これは地獄なのではなく、極楽なのでは……?)」
流星は目を閉じながら、ささやかな幸福を噛みしめていた。
ほんのり香る石鹸の香り、布団に残る柔らかな熱、
隣に寝ているリリアの気配──そしてその向こうに、ツンと寝返りを打つミレーユ。
(あぁ……これが、異世界の“癒し”か……)
──数分後。
モゾッ……と、何かが動く気配。
「んぅ……さむ……っ」
リリアが寝言混じりに寝返りを打ち、
無意識のまま、隣のミレーユに腕を絡め──
「きゃっ!? な、なに……!」
その反動で、ミレーユがさらに横にずれる。
そして──
「ぅわ……な、なんで……誰の背中……?」
ミレーユの、すべすべの素足が──流星のふくらはぎに当たった瞬間。
反射的に、流星は寝返りを打ってしまった。
そして──
ぎゅっ。
「あああああ!?!?!?!?」
アリシアの叫びが夜の宿に響き渡る。
「ちょっ、流星!? 抱きついてる!? 私の背中に抱きついてるって!?!?」
「ご、ごめん!! ちがっ……これは事故だ!!無意識が!!無意識の犯行なんだ!!」
「今! “意識”してるってバレたわよ!!」
◆ ◆ ◆
翌朝。
流星は、壁際に正座していた。
布団の真ん中はぐちゃぐちゃ、
アリシアはむくれて腕組み、
ミレーユは顔を真っ赤にしながら無言で朝食をつつき、
リリアは楽しそうに「平和な朝ねぇ」とお茶を飲んでいた。
「……で。あんたの掛け布団だけ、濡れてたけど」
「いや、あれは……汗! ただの発汗!!」
「ふーん?」
「ふーん……?」
「ふーん…………」
三人の視線が、じっと流星を射抜く。
その日から数日──流星には新たなあだ名がついた。
《夢精寸前の勇者》




