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今日も俺は、悪魔な君に理想を突き付ける  作者: 塩本


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第15話 セラフィエルの攻勢


 いつも通りの時間に起きた俺は、いつも通りに顔を洗って歯を磨く。

 いつも通りに着替えをして学校に行く準備をして、いつも通りの朝食を食べる。毎日ご飯を作ってくれてありがとう母さん。

 そんな感謝の気持ちを心に抱きながら、俺はいつも通りの道を通って、高校へと向かう。


 全てがいつも通り。

 何も変わらない平凡な一日の始まり。


 しかし、俺の鼓動はずっと早鐘を打っている状態だった。

 原因は、とある悪魔との契約。

 理想の彼女になってくれる。しかし、そうなった瞬間に、俺は魂を奪われる。つまり……死ぬ!


 もうなんだよ! どんな罰ゲームだよ!

 願いが叶った途端に死亡って! おかしいだろ! 無念しか残らずに怨霊と化すわ俺!


「てか『覚えておれ』って言って消えたけど、また学校に来るのかな?」


 前回は、彼女になるためわざわざ俺の高校に来てくれた。


「制服姿、可愛かったなぁ……って違う違う!」


 油断して見惚れて『これが俺の理想だ』なんて言ったら、即人生終了だからな! 気を付けろよ!

 今日からは、気合いを入れて学校生活を送らないとな! 一瞬たりとも油断はできないぞ!


「……って、何で俺はこんなデスゲームスクールライフを送ってんだよ」


 俺はただ彼女が欲しいだけなのに……。

 そのために勉強を頑張って、名門進学校に行ったっていうのに……。


「はぁ……」


 俺は何を間違えたんだ?

 安易に悪魔の力で彼女を作ろうとしたのが間違えだったのか?

 ……間違えだったな。普通に振り返ると、俺頭おかしかったわ。悪魔と契約とか正気の沙汰じゃないわ。やらかしてるわ完全に……。


 改めて自分の過ちを自覚して、テンションが下がる。

 肩を落としてトボトボと歩いていると、不意に背中を押された。


「おい、何を俯いてトボトボと歩いているのだ」

「ぎょへ!? セ、セラフィエル!?」


 ビックリしたぁッ!!

 いきなり背後から登場とかやめてよ! 『ぎょへ』とかいうわけわかんない声出ちゃったじゃん!


「え? あ、え、え? なんで?」

「なんで? そんなもの、貴様の願いを叶えるために決まっておろうが」

「あ、あぁ……なるほど……」


 つまり、俺の魂を奪いに来たということですね?


 ふぅ〜……ヤバい。セラフィエルとの再会は学校の教室だと勝手に思い込んでいた。

 まさか、登校途中で奇襲をかけてくるとは。


「……ぼーっと突っ立っとらんで、さっさと行くぞ。ほら」

「へ?」

「間の抜けた顔を晒しておる場合か、早く手を出さんか」


 え? これってもしかして……手を繋ごうってことですか?


「ほら、早く」

「ちょ!?」


 俺がモジモジとしている間に、セラフィエルがさっと手を伸ばしてきて、そのまま俺の左手を握りしめてきた。


「あ、あの、あの……」

「では行くぞ」

「あ、な、の、はい」


 なんだ? なんだ? なんなんだ!?

 何が起こってるんだ? セラフィエルから手を繋いできたんですけど? 昨日はあんなに嫌々だったのに。

 も、もも、もしかして、実は俺のこと好きだったり……。


 いや待て! これは彼女の作戦だ!

 こうやって積極的に距離を詰めてきて、俺のピュアな心に揺さぶりをかけてきてるんだ!

 警戒だ! 魂を死守するためにも全力警戒だ!!


「どうしたのだ? 今日の貴様は、なんだか歩き方がぎこちないぞ? 体調が悪いのか?」

「そ、そんなことはありません。いつも通りです」

「そうか」


 くぅ……なんか優しい。

 今日のセラフィエルは優しい。これまでの傲慢で高圧的な態度からのギャップがヤバい……。

 でもまだ理想じゃない! 耐えろ俺!


 必死に平常心を保とうとしていると、セラフィエルがとんでもない攻撃を仕掛けてきた。


「おい……もっとゆっくりと歩け」


 そう言うのと同時に、俺の左手に彼女の指が絡み付く。

 ほっそりとしていて、すべすべとした心地良い感触が俺の指の間を押し除けてぎゅっと握りしめられた。

 

 こ、これは! 伝説の恋人繋ぎッ!?

 この世には存在しないと思っていたものが目の前にっ!

 

 だがしかし、彼女の攻撃はこれで終わりではなかった。

 恋人繋ぎされた左手が引き寄せられると、俺の左腕にセラフィエルが抱きついてきた。


 な、なんだこれはッ!? 何が起こっているんだ!?

 え? マジで何? 俺の左腕が優しい温もりに包まれてるんですけど?


「あ、あの! な、何用でございまひょか!?」


 呂律が回らねぇー! 心臓発作寸前で胸が苦しいんですけど!

 急に距離感ゼロで密着してきたせいで、俺の脳内がショート寸前です!


「何用もなにも、我は貴様の恋人であろう?」

「そ、そうですね」

「こんなところで、くだらんやり取りなどしていないで、さっさと学校へ行くぞ。それとも……」


 セラフィエルは意味深に言葉を区切ると、俺の左腕に抱きついたまま、顔を寄せて見上げてきた。


「我と一緒に学校をサボりたいのか?」

「っ!?」


 う、上目遣いだとっ!?

 そ、そんな必殺技級の攻撃なんてされたら、呼吸困難になるでしょうが!

 ヤバい! マジで呼吸が苦しい……。息ってどうやって吸うんだっけ?


「かはっ……ひゅっ……はっ……ふっ」

「おい、大丈夫か? 顔が赤いぞ?」

「ひぅ……だ、大丈夫だひゅ……」


 落ち着け!

 まずは深呼吸だ。呼吸を落ち着かせよう。

 ひっひっふ〜ひっひっふ〜。


「それでどうするのだ? 学校に行くか? 我と一緒にサボるか?」

「……が、学校に行きます」


 このまま2人で愛の逃避行なんて、俺の心臓がもたない。

 あと、真面目な話で言うと、1日サボったら授業に追いつくのがとても大変。俺の通う高校はとても厳しいのです。


「そうか。では行くぞ」

「あ、ちょっ」


 セラフィエルは、俺の腕を抱いたまま歩き出す。

 彼女が歩き出したら、俺も強制的に並んで歩かないといけない。


 そして、だんだんと高校が近づいてくると、周りに同じ制服を着た人たちが増えはじめてくる。

 そして、その全員が俺とセラフィエルの方を見てくる。


 そりゃそうだよね。

 手ばかりか腕まで絡めて、ゼロ距離密着で登校してるんですもんね。しかもそのお相手が、人類史上誰も見たことがないほどの絶世の美少女。

 彼女が欲しいと切実に願っていた少し前の俺なら、視線だけで呪いを掛けられるくらい嫉妬したと思います。はい。


 皆さんの気持ちは、よ〜くわかります。

 でもね、俺も辛いんですよ?

 なんでかって言うとね、この子が可愛いなぁ〜、理想の彼女だなぁ〜なんて思って、それを口にしたら即死亡だからです。

 例えて言うなら、グランドキャニオンの崖っぷちで、最推しキャラの抱き枕を投げつけられてる感じ?

 ……いや、この例えは意味わからんか。


 とにかく!

 さっきから俺の左腕に、やたらと柔らかいもの二つがふにふにと当たってるんですよっ!!

 二つ! ここ重要! 二つなんですよ!


「おい、さっきから腕を引っ張ってどうしたのだ?」

「ひぇ? あ、あの……あまり密着してると歩きずらいかなと……」

「貴様は、我とくっつくのは……嫌いか?」


 大好きですッ!!

 しかもそんな、ウルッとした上目遣いで言わないでくれ!!

 こんなの……こんな可愛い彼女と腕を組んで、登校なんて……理想そのものじゃないか!!


「い、嫌じゃないです……」

「では、好きか?」

「っ……」

「好きなのか?」

「す……す、好き、です」

「嬉しいか?」

「う、嬉しいです」

「理想か?」

「理想で……はっ!」


 途中まで言いかけて俺は慌てて口を閉じる。

 危ない! 危うく口を滑らせる所だった!!


 危うく魂を奪われそうになり、俺の心臓がバクバクと激しく脈打つ。

 と、突然。右腕もセラフィエルに掴まれると、クイっと引き寄せられた。


「へぁ? あ、あの……?」


 強制的に俺はセラフィエルと向かい合わせになる。

 俺の真正面に彼女の顔が来る。


 近いっ、可愛いっ、美しいっ!

 つぶらな瞳に長いまつ毛がハッキリと見える。


「おい、貴様に聞きたいことがある」

「は、はひぃ。なんでしょか?」


 いつもよりも、少し張りがないような、どこか甘えるような声をだすセラフィエル。

 くっ……耐えろ俺の理性! 魂がかかってるんだ! 平常心を保てっ!


 必死に心をガードする俺に、セラフィエルはそっと腕を伸ばし、俺の腰に抱きついてきた。


 こっこれはっ!? ハグされたのか!?


 頭が爆発したような衝撃を受ける。

 思考回路が焼き切れる。

 俺の身体全体に伝わる、女の子特有の柔らかさ。

 ふんわりと香るほのかに甘く、誘惑されているような香り。


 可愛い。


 俺の脳内には、その言葉だけが浮かんでいた。


 その脳内に、まるで魔法のようにセラフィエルの言葉が染み込んでくる。


「我は、貴様の理想……であろう?」


 理想……。

 あぁ、そうだ……。

 こんなに可愛くて、俺と腕を組んでくれて、ハグまでしてくれて……。

 まさしく、理想の彼女じゃないか……。


 彼女の囁きに応えるように、勝手に口が動きはじめた。

 俺の理性を無視して。

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