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第13話 理想をなめるな!!


 圧倒的怒りを滲ませるセラフィエル。

 彼女の髪が黒髪から銀髪に変化し、黒目が紅目になったのは、きっとめちゃくちゃ怒っているからなんだろうな。

 うん、まさに激おこプンプン丸ってやつですね。

 ……って、俺はなに呑気なことを考えてるんだよ!! 激おこぷんぷん丸なんてもう死語だろ!! ってそこに突っ込んでる場合でもない!!


「悪魔は詐欺師だと? 人間の分際でよくもそんなことが言えたな?」

「は、ひ、あ……」


 し、思考がバグる。

 まともに頭が働いてくれない。

 

「契約を踏みにじり、代償も払わぬと拒む。やはり、人間というものは、愚かで救いようのないクズのようだな」

「っ……」

「もうよい。貴様の魂などいらぬ。今ここで灰にしてやろう」

「…………」


 あ、あぁ……もう駄目だ……。

 全然声が出せない。言葉も思いつかない。


 セラフィエルは、その真紅の瞳で俺を刺すように睨んでくる。

 まるで骨まで凍るような、芯から恐怖で震えるような怒りを容赦なくぶつけられる。


「せめてもの情けだ。苦しみを感じぬ前に、葬ってやろう」


 そう言うセラフィエルの掌に、青白い炎のようなものが出現する。


 ……なんだろう。もう怖すぎて、恐怖が一周して彼女がとても魅力的に見えてきた……。

 セラフィエルは悪魔だけど、きっと死神でもあったんだな。

 あぁ、俺ここで死ぬのか……。


 そう思った瞬間、全身から力が抜ける。

 意味わからないけど、凄くリラックスした状態になる。

 これが、死を目の前にした悟りの境地ってやつなのかな?


 段々と迫り来る青白い炎をぼうっと眺めながら思う。


「聞いていた通りだ。人間は信用できぬ。約束を守らぬ最低の生き物だ。あの世で自分の罪を贖罪するがいい」


 最後通告のような彼女の言葉。

 それを聞いた瞬間、謎の悟りを開いていた俺の中から、勝手に言葉が出てきた。


「違う。約束を守っていないのはセラフィエルの方だ」

「……貴様、まだほざくか」

「俺はまだ願いを叶えられていない」

「ふん。最期まで誇りの欠片もない奴だ。さっさと消えろ」

「このまま俺を殺せば、誇りを失うのはセラフィエルの方だと思うけど?」


 な、なんだ俺?

 さっきまで全然言葉が出てこなかったのに、今はスラスラと出てくる。

 これが火事場の馬鹿力ってやつ? 覚悟ガンギマリの無双状態なの俺?


「なぜ我が誇りを失う? 契約を守っていないのは貴様の方であろうが?」

「一度確認しておきたいんだけど、俺の願いはなんだっけ?」

「貴様の彼女になる。それが願いであろう」

「違う。俺の願いは“理想の彼女が欲しい”だ」

「なにが違うというのだ?」


 紅目を細め、苛立たしげに銀髪をなびかせるセラフィエル。

 なんで室内で髪がなびいてんの? 魔力操作で操れる的な?


 あまりの恐怖で頭がバグった俺は、そんなどうでもいいことを考えながら、セラフィエルの疑問にズバッと答えた。


「俺の願いは、ただ彼女ができれば良いってわけじゃない。俺が欲しいのは()()の彼女だ」

「それがなんだというのだ。我は一日、貴様の彼女として振舞ったであろうが」

「だから、それじゃあダメなんだよ。ダメダメだよ」


 俺は人差し指をセラフィエルに立てて、チッチッチと振る。

 マジで俺どうした? こんなことするキャラか俺?

 なんか、ものすんごい恐怖に晒されて、俺の中で別人格が目覚めたのか?


「貴様……その指、へし折るぞ」

「それはダメ。止めて」


 俺は慌てて人差し指を引っ込める。


「こういうのは、ハッキリと言った方がいいから、遠慮なくズバッと言わせてもらうけど」


 なんか、身体の中から謎のエネルギーみたいなのが溢れてくる気がする。

 そのエネルギーに押されるように、俺は逆に一歩セラフィエルに詰め寄った。


「セラフィエルはね、ぜんっぜん理想の彼女じゃない!」

「な、なんだと!」

「やたらと高圧的だし、傲慢だし、見下してくるし、我儘だし、教室に君臨する女帝みたいだったし、授業放棄はするし、先輩からはカツアゲするし、俺の金でパンを買いまくるし、それを全然分けてくれないし、アーンでのどぼとけを攻撃してくるし、イヤイヤ手繋ぎだったし、別れを全然惜しんでくれなかったじゃん!!」

「なッ!?」

「なのに、契約完了で代償は魂だ? 俺の願いは()()の彼女だったのに?」

「そ、それは……」


 俺の早口でまくし立てる主張に、セラフィエルは明らかに狼狽えている。

 怒りで銀髪紅目に変化していたけど、それがシュンともとの黒髪黒目に戻る。


「確かにセラフィエルは可愛いよ? 綺麗だよ? 本当の彼女になってくれたら、友達に自慢もしたくなるよ?」

「な、なら我は――」

「でもそれだけだから!」

「っ!?」

「可愛いだけ! 綺麗なだけ! それだけ!! 理想の彼女で最も重要なのは中身だから!!」


 俺はここぞとばかりに、更にもう一歩セラフィエルに詰め寄った。

 今度は逆に、彼女が後退りする番になる。


「理想の彼女とは、全世界の男子の憧れの存在! それは外見も中身も美しく可愛い存在なんだよ!」


 俺は、壁際まで追い込んだセラフィエルにビシッと人差し指を突き付けた。


「年齢=彼女いない歴のこじらせ男子の理想を……なめんなよッ!!!!!」

「ひぅ!?」


 俺の力を込めて放った決め台詞に、セラフィエルの肩がピクッと揺れた。


 ふぅ、言ってやったぜ。


「そ、そんなもの……貴様の理想など、貴様個人の主観にすぎぬだろうが!」

「そうですが何か?」

「な、なにかだと? そんな理想をどうやって叶えよというのだ!」


 ふむ、この悪魔っ子、賢いね。賢い悪魔は、嫌いだよ。


「でも、その内容をセラフィエルは承諾してくれたよね? 俺の願いを叶えてくれるんだよね? そういう契約だよね?」

「ぐっ……」


 秘儀、ゴリ押し!

 セラフィエルが今まで見たこともないくらいの悔しい顔をしてる。

 よし! 勝機が見えてきたぞ!

 このまま押し切ってやる!!


「でもまぁ、確かに俺のお願いは、無理難題だったかも知れないね。だから、今回の契約は無かったことにしようか? うん、そうしよう。どうだろう? そうすれば、セラフィエルもこれ以上、嫌いな人間と関わらなくていいでしょ?」


 よーし! これで俺は魂を奪われなくて済むし、彼女も俺と関わらなくてよくなってスッキリできるはず。

 まさしくウィンウィンの関係ってやつですね。


「…………よかろう」

「おっけ! じゃあこの契約は無かった事に――」

「貴様の願いを叶えてやる!」

「しましょう……へ?」

「貴様の理想の彼女になってやる!!」


 そう言うと、セラフィエルはその瞳に決意の炎を燃やして俺を睨んできた。

 なんか、若干瞳も紅目に変化しかけてるし……。


「ちょ、ちょちょちょ! 待ってセラフィエル! 俺の話聞いてた?」

「人生でここまでの屈辱を味わったのは初めてだ。我に達成できぬ願いだと? 我は上位悪魔ぞ! 達成できぬ願いなどないわっ!!」

「ちょーい! そこムキにならなくていいから! これは無理難題だったって言ってるでしょ!」

「無理難題上等!! 貴様の理想など容易く叶えてくれるわ! 覚えておれ!!」


 そう言い放つと、セラフィエルは突風を巻き起こして姿を消してしまった。


「……マジか」


 一人取り残された俺は、ポツンと呟いた。


 これからどうしよう……マジで。

 

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