第11話 念願の手繋ぎ!
午後も相変わらず授業放棄の姿勢を崩さないセラフィエル。
そんな彼女を何とか説得して、1日の授業を全て無事に終える。
ふぅ……俺って意外と塾講師とか向いてるかも。
こんなにもやる気の無い問題児にちゃんと授業を受けさせたんだから。
そんなことを思いながら、俺は席から立ち上がり隣のセラフィエルに声を掛ける。
「それじゃあ、帰ろうか」
「む? なんだ、学校とやらはもう終わりか?」
「この後は部活があったり、委員会活動があったりだけど、俺はどっちも関係ないから」
安定の帰宅部ですが何か?
特に雑談を交わすような友人がいない俺は、そそくさと帰り支度をする。
そして、カバンを肩に掛けてから恐る恐るセラフィエルの方に視線を向けた。
「あの……俺の彼女ってことは、一緒に帰ってくれるんですよね?」
「そのつもりだ。不本意ではあるがな』
おいおいおい! 不本意っておっしゃいましたかねこの子は!?
でもまぁ、所詮は悪魔との契約だし、しょうがないか……。こんな美少女と一緒に、並んで下校できるってだけで満足しないとな。
俺はそう自分に言い聞かせて、色々と湧き上がる不満を抑えつつ、教室から出る。
途端、教室にいた時よりも更に多くの視線が俺に突き刺さる。
そりゃね。こんな芸能界でもそうそういないような美少女を連れてたらね、視線も突き刺さるよね。
早く学校から立ち去って、突き刺さった視線を抜かないと。
俺は小心者根性丸出して、急いで校舎から出て校門へと向かう。
その後をセラフィエルが不満げについてくる。
「おい、何故そんなに急いているのだ」
「いや、別に……ただ、また絡まれるのは嫌だなぁと」
「ふん、小者め。人間など100人だろうが200人だろうが、どれだけまとめて襲ってきても脅威にならんだろが。まとめて塵にしてくれる」
「塵は勘弁してください。大問題になるので……」
ちょくちょく物騒なんだよなぁ。
しかも、本気で言ってそうだから厄介なんだよ。てか、そもそも悪魔って冗談を言ったりするのかな?
そんなことを考えながらしばらく歩いていると、少しずつ体に突き刺さる視線が減ってきた。
そのことに安堵しながら、俺は隣を歩くセラフィエルをチラッと見る。
う〜ん……やっぱり、彼女との登下校は手を繋ぎたいよなぁ……。
「なんだ、チラチラと我を見おって」
「え? あ、え〜と……」
見てたのがバレてた。
ここは思い切って『手を繋ぎたい!』って言ってみるか? いや、でもそれで拒否られて嫌な顔をされるのもなぁ。それはそれでショックだし……。
「黙り込みおって、言いたいことがあるのならはっきりと申せ」
「いや〜そのぉ……セラフィエル様は、俺の恋人だから、えと〜……手を、繋ぎたいなと――」
「嫌だ」
即答っ!
もうちょっと悩んでよ!
「でも、普通の恋人は手を繋い――」
「断る」
「一般的な――」
「拒否する」
くそ〜!
こうなったら最終手段を使ってやる!
「じゃあ、恋人になってくれるって言う約束は守ってくれないんですね?」
「くっ……」
セラフィエルの動きがピタッと止まった。
やっぱり、田中君が言ってた悪魔は契約を遵守するって言うのは本当っぽいな。
「……よかろう。手を繋いでやる」
「ありがとうございます」
やった! これで念願の恋人との手繋ぎ下校ができる!
ちょっと、相手が嫌そうな顔をしてて無理矢理感があるというか、理想とは違うけど……。
でも、こんなに可愛い子と手を繋げるだけでも、めちゃくちゃ嬉しい。
「では、あの……」
「ありがたく思うのだぞ?」
「それはもう、とてもありがたく思っております!」
俺は「ふん」と面白くなさそうに差し出してくるセラフィエルの手をジッと見詰める。
やばい……なんか凄く緊張してきた。
手汗が凄く出てる気がする……。このまま手を握ってもいいのかな?
セラフィエルのほっそりとした綺麗な手を目の前にして、俺はフリーズしてしまう。
女の子の手を握るという行為が、こんなにも緊張を伴うものだったとは……。
「おい、さっさと手を握らんか」
「あ、はい。あの……」
「貴様から手を握ると言い出したのだぞ? さっさとせんか」
「了解です」
このままウジウジしてても、セラフィエルの怪訝を損ねるだけだな。
よし! 手を握るぞ!
佐久間信道15歳、人生初めて女の子と手を繋ぎます! よろしくお願いします!
えいや! と手を伸ばしセラフィエルの手を握る。
少しひんやりとしてる。でもその奥には確かな温もりが感じられる。それに、ほっそりとしていて綺麗な手は、とてもスベスベしていて、ものすごく肌触りがいい。
これが女の子の手なのか……。
「……おい、貴様」
「は、はい! なんでしょうか?」
「手を繋ぐのではなかったのか?」
「え? 繋いでますが?」
「これは握手であろうが!」
「へ?」
「へ? ではない馬鹿者! これでは歩きにくいだろう!」
「あ、や、ま、間違えました!」
俺は慌ててガッチリと握手を交わしていた彼女の手を握り直す。
「まったく、貴様は阿呆なのか?」
「すみません……」
俺は平謝りしながらも、セラフィエルと並んで歩き出す。
色々と思うところはあるけど、念願の恋人と手繋ぎ下校をしてる!
あ、ちょっとセラフィエルの歩幅って小さいんだな。合わせて歩くのにはちょっとコツがいるかも。
なんだろう、緊張と高揚感が混ざり合ってフワフワする。
「ふふっ……」
「気持ち悪い顔をするな。手を離すぞ?」
「ごめんなさい! 離さないでください!」
夢にまで見た手繋ぎを止めたくなくて、俺は反射的にギュッと彼女の手を握りしめる。
そんな俺に、セラフィエルは呆れた視線を向けてくる。
「ふん、そんなに必死になりおって。しょうもない男だ」
「しょうもなくはないです! セラフィエルのような美しくて可愛い女の子と手を繋いで並んで歩くのは、世のすべての男性の悲願なんです!」
「……我を呼び捨てにするなと、何度言えばわかるのだ。この、たわけ」
思わず俺が熱を込めて反論したら、セラフィエルは顔をしかめてプイッと顔を背けられてしまった。
さっきまで小さかった歩幅も大きくなって、スタスタと進んでいく。
彼女と繋いでいた手が引っ張られて、俺は慌てて歩く速度を合わせる。
相変わらず、この悪魔っ子は褒められると弱いんですね。
なんか、色々と高圧的で我儘だし、時々物騒なことを言っておっかないけど、こういう恋人も意外とありなのかも……。
俺は、夕陽に染まっているからなのか、ほんのりと赤くなっているセラフィエルの頬を横目に見ながら思った。
お読みくださりありがとうございます。




