表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/15

第10話 さすがノブ!


 俺は強い憤りを感じながら、1人廊下をズンズン歩く。


「悪魔めぇ〜男の夢を踏みにじりやがって〜」


 全世界の男の夢。

 可愛い女の子に「あ〜ん」をしてもらう。

 これをセラフィエルはいとも容易く破壊してきた。まさに悪魔。


「あ〜もう、なんか喉がイガイガするし」


 俺は咳払いを繰り返しながら足早に歩く。

 向かう先は心のオアシス。すなわちトイレだ。

 この荒れた心境を落ち着けるためにも、1人での時間が必要だ。


 前回の休み時間でセラフィエルの怒りに触れたためなのか、俺が1人になっても話しかけてくる人はいない。

 と思っていたら、不意に背後から声をかけられた。


「お〜い、ノブ!」


 む? この妙に馴れ馴れしい感じは……。

 俺が声に反応して振り返ると、そこには予想通り田中君がいた。

 彼は人懐っこい笑顔で俺に話しかけてくる。


「学校中で噂になってるぞ? ノブの彼女」

「まぁ……そうですよね」


 あんな高飛車な言動を繰り返して、さらには多くの人が集まる購買での暴挙。噂にならないほうがおかしい。


「お前、すげぇ彼女ができたな! いったい悪魔になんてお願いしたんだよ」

「え? それは……その……」

「ん? なんだよその反応は? 俺があげた魔術書で、悪魔を召喚したんだろ?」

「それは、そうなんだけど……」

「その悪魔になんてお願いしたんだよ? 随分とキツい性格の彼女らしいけど、それがノブの好みなのか?」


 好奇心に目を輝かせて、グイグイ質問してくる田中君。


「いや、別に俺の好みってわけじゃ……」

「そうなのか? せっかくの悪魔へのお願いなのに、理想を伝えなかったのか?」

「いや、理想を伝えなかったと言うか……理想だったと言うか……」


 召喚の儀式をして、突然目の前に現れたセラフィエル。

 彼女を見た瞬間、俺は目を奪われた。

 絶対的な美しさの魅力に、俺は圧倒された。


 あの瞬間、俺はセラフィエルに一目惚れしてしまったのだ。


「あの彼女が……召喚した悪魔なんだよ」

「ん? どう言うことだ?」


 俺が言ったことに、田中君は首を傾げる。


「だから……あの彼女が、召喚した悪魔本人なんだよ」

「……は? つまり、ノブは召喚した悪魔を自分の彼女にしたってことか?」

「まぁ……その通りです」


 俺が気まずく頷くと、それを田中君はじっと見つめてくる。

 そして、数秒間の沈黙の後、突然大声で笑いだした。


「あっはっはっはっはっはっは!! マジか! ノブの彼女は悪魔か!」

「ちょっ! 田中君! 声が大きいって!」


 田中君の爆笑に、俺は慌てて辺りの様子を窺う。

 まぁ、俺みたいな陰キャなんて、誰も気にも留めないだろうけど。

 そう思っていたけど、何人かの生徒が遠巻きに俺と田中君の方に視線を向けていた。


 セラフィエルの彼氏ってことで、俺の知名度が少し上がっているのかも。

 このままではマズイと思った俺は、田中君の腕を引っ張って、階段の横にある人気のないスペースに移動した。

 その間も田中君はずっと笑い続けている。


「はっはっはっ! ひーっ! 腹痛い、ハハハハッ! やっぱりノブは凄いな! まさか、召喚した悪魔を彼女にしちまうなんて!」

「だ、だから声が大きいって!」

「その時の悪魔、どんな反応だったんだよ? ちょっと聞かせてくれよ!」

「ど、どんなって言われても……」


 俺はセラフィエルにお願いをした時の彼女の反応を思い返す。


「めちゃくちゃ嫌そうな顔をしてました……」


 理想の彼女になってくださいってお願いした時のセラフィエルは、とても不機嫌そうで渋々願いを聞き入れたって感じだったな。


 そんなことを田中君に伝えると、彼は「だろうねぇ」って納得したように頷いていた。


「悪魔は基本的にプライドが高くて、人間のことを見下しているからなぁ。それなのに、ノブの彼女に……ふふっ、最高だな!」


 何故かわからないけど、召喚した悪魔を彼女にしたことが田中君のツボにハマったらしく、彼はいまだに肩を小刻みに揺らして笑っている。


「だけど、悪魔は『契約』については物凄く厳しい。どんなに狡賢く、狡猾な悪魔でも『契約』をちゃんと結べば、それを破ることは絶対にない」


 田中君の説明に、俺は昼休みのことを思い出す。


 俺にカツサンドを絶対に渡さないと頑なだったセラフィエル。だけど、約束が違うって詰め寄ったら、物凄く嫌そうだったけど、それでも俺にカツサンドを分けてくれた。


 田中君の言う悪魔は絶対に契約を守るっていうのは、どうやら本当っぽい。


「だから、悪魔にとって契約はとても重要な事なんだよ。で? ノブは召喚した悪魔になんて言ったんだ? 詳しく教えてくれよ」

「それは、えっと……確か『俺の理想の彼女になってください』だったかな?」

「なるほど……ただの彼女になってくださいじゃなくて、理想の彼女って言ったんだな?」

「う、うん」

「そっか……いやぁ、さすがノブだぜ! どうやら、その『理想』のおかげで首の皮一枚繋がったな!」

「へ? 首の皮一枚? それはどういう……」

「ま! せっかくできた彼女なんだ! 全力で楽しまないとな!」


 田中君は俺の疑問に答えることなく「じゃあな!」と言って立ち去ってしまった。


「俺の理想で首の皮一枚……何のことだ?」


 田中君の言うことがよくわからない。でも、なんか引っかかるんだよなぁ……。


 どこかモヤモヤとした気持ちを抱えながら、俺が教室に戻ると、相変わらず手足を組んで椅子に座るセラフィエルに睨みつけられた。


「おい貴様。また我を置いてフラフラしておったな?」

「……ごめんなさい」


 素直に謝ると、彼女は「ふん」と鼻を鳴らす。


「次はないぞ」


 その一言を放ったあと、セラフィエルは残っていたスティク状のラスクをポリポリと食べ始めた。


「ふむ、この食感、なかなか良いな」


 大好きなパンを食べているおかげで、彼女の機嫌は良い。

 って、あんなにあった他のパンはもう全部食べたの?

 悪魔っ子って大食いキャラなんですか?

お読みくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ