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第4話 夢の中で、魔族ファミリーと会う

 不思議の国のアリスかよ、とツッコミたくなった。

 外国の庭園の様な場所……って私、外国に行った事ないけど……。

 そこでイリヤくん、ライムさん、エルくんがお茶会をしている。


 不機嫌そうなイリヤくんにティーポットのお茶を入れていたライムさんが、私を見てニッコリ笑う。

 さっき、私はベッドに入ったから……。


「これ、私の夢ですよね」


 私は席につきながら言う。お茶を飲みほしたエルくんが言った。


「ウチらの仲間に、インキュパスいう、人の夢に入れる奴がおんねん。そいつの力を借りて、響さんの夢に、お邪魔させてもらいましたわ」

「仲間って……。あなた達、一体、何者なんですか?」

「魔族よ」


 じっ、と私を見て、ライムさんが言った。


「人間の言葉では、そうなるわ」


 スライム、ドラゴン、エルフ。

 薄々はわかっていたが、実際に当人たちの口から聞くと少しショックだ。

 ライムさんが、あわてたように言う。


「魔族って言うと、悪いイメージがあるけど、私たちは違うのよ」

「そや。あんたら人間のために戦ってるんやで」

 

 ライムさんと、エルくんに続き、イリヤくんが言った。


「まぁ、俺はお前と同じ人間だがな。俺の心は、人間よりライムたちに近い。だから魔族だ」


 私は頭がこんがらがった。イリヤくんは、どこかの王子様みたいだけど、ライムさんやエルくんとは違う種族なのかな?

 私の疑問に答える様に、イリヤくんたちは説明してくれた。


 私たちの住む、この世界とは別の次元に、イリヤくんたちが住む世界がある。

いわゆる異世界という奴だ。

 私たちの地球に、いろいろな国がある様に、異世界にも多くの国がある。

 そしてイリヤくんは、バーナッチャという国の王子さまだった。

 バーナッチャでは、人間と、フェアリー・モンスターと呼ばれる怪物が一緒に暮らしている。

 人間とモンスターが共存しているのは異世界でも珍しく、バーナッチャの住人は他

の国から「魔族」と呼ばれているのだという。


 なるほど、これでイリヤくんが人間なのに「魔族」を自称する理由がわかった。

 さらにエルくんが補足する。


「昔はウチらの世界と、こっちの世界も行き来できたんや。だから、こっちの神話や伝説に、ウチらの世界のフェアリー・モンスターが出てくるんや」


 だが人間の中に悪人がいる様に、フェアリー・モンスターの中にも、悪い事をする者がいる。

 私たちの世界に来て、悪さをするフェアリー・モンスターが増えたため、数百年前に、二つの世界を行き来するゲートは閉じられた。

 そのゲートが、最近こじ開けられ、数匹のフェアリー・モンスターが、こちらの世界に逃げ出したのだという。


「人間の魂は、フェアリー・モンスターの大好物なの。でもバーナッチャでは魂を食べる事は禁止されていているの。だから、響ちゃんたちの世界にまぎれこんで、こちらの人の魂を食べようと思ったのでしょうね」


 そこでイリヤくんは、ふんぞり返って言った。


「俺は人間とフェアリー・モンスター、両者を従える魔界プリンスだ! その名誉にかけて、逃げ出したモンスターを捕らえるべく、お前の世界にやって来た。そして……」

 ガバッ、と立ち上がり、イリヤくんは物欲しそうな表情で言った。


「この世界は素晴らしい! 私はバーナッチャのプリンスとして、必ずや、こっちの世界を征服して、魔族のものにしてみせるぞ!」


 スパァン、とライムさんが、ハリセンでイリヤくんの頭を引っぱたいた。


「殿下、今回の任務はフェアリー・モンスターの退治です。それに異世界への侵略は、条約で禁じられています」

「えっ、でも、条約を守る魔界プリンスって、魔界ぽくないじゃん」

「我が祖国バーナッチャを魔界だと言っているのは、あなただけです。もう少し任務にマジメになって下さい、殿下」


 ライムさんに怒られて着席すると、咳払ばらいして、イリヤくんは説明を続けた。


 こっちの世界に着いてすぐ、モンスターの気配を感じ取ったイリヤくんは、ライムさんやエルくんの制止を振り切って、ひとりで退治に出かけて、雨の中で不意打ちをくらって倒れたのだという。

 そこに通りかかったのが、私だったって訳ね……。

 って、ちょっと待った! 私は思わずたずねた。


「じゃあ、私の学校のそばに、悪いモンスターがいるの?」

「そこで、あなたの力を借りたいのよ」


 ライムさんは私の方に、身を乗り出して言った。


「フェアリー・モンスターは、若い魂を好むの。人間に取りつき、相手の欲望をエサにして力をたくわえ、最後は魂を奪ってしまうのよ」

「取りつかれた人は、気づかないんですか?」

「そうなの。そして取りつかれた人間は、ねたみや嫉妬、うらみと言ったネガティブ感情が強くなるの。フェアリー・モンスターは、それをエサにして成長して行くのよ」

「力を増したフェアリー・モンスターは、不思議な力が使える様になるんや。いわゆる魔法やな。そうなる前に、退治せなあかん」


 イリヤくん、ライムさん、エルくんの説明を聞いて、私は嫌な予感がした。

 若い魂が好きなモンスター。

 そしてモンスターと戦って、通学路に倒れていたイリヤくん。


「もしかして、私たちの学校に……」


 聞きたくなかった答えを、イリヤくんは私の目を見て言った。


「そうだ。人間の学校に、フェアリー・モンスターが入り込んでいる」


「おはようございます」

「おはようございます」


 海が見える丘の上に、少年少女の声が響く。

 県内でも有数の進学校、私立聖陽学院。

 勉強だけでなく、キリスト教の、愛と奉仕の精神による人間教育を行う学校。

 わかりやすく言えば、超お嬢様・お坊ちゃま学校だ。


 そして、受験戦争に勝ち抜いて入学したものの、その厳しい校風になじめず、落ちこぼれた私は、今日から別の悩みを抱える事になった。

 朝のホームルーム前の教室。先生が来る前、ざわめく級友たちを見回す。

 この中にも、フェアリー・モンスターに取りつかれている子が、いるのかも知れない。そう考えると私はゾッとした。 


 昨日の夢を思い出す。私にフェアリー・モンスターを退治するのを手伝って欲しいとライムさんが言った後、イリヤくんが言ったんだ。


「やはり人間に手伝ってもらうのは、止めよう」

 

 その言葉には、私よりライムさんやエルくんの方がビックリした様だった。


「若旦那、話し合って決めたやん」

「考え直した。コイツは魔法が使えないし、戦闘に使える能力もない。人間の中でも、身体能力は低い方だ」


 イリヤくんがズバズバ言うので、私は胸の中に、氷のかたまりを突っ込まれた様な気分になった。


「足手まといだ。帰るぞ」


 イリヤくんが立ち上がると、他の二人もあわてて後につづく。

 ライムさんが申し訳なさそうに言った。


「またね、響ちゃん」


 三人が夢から出ていくと同時に、私は目を覚ましたのだった。


「あ〜あ」


 私は机に突っ伏した。

 そりゃ、怪物と戦わないですむのはいいけどさ。

 ああもハッキリ「お前は役立たずだ」と言われると、落ち込むよね。


「どうしたのよ、山野辺さん」


 隣の席の坂切陽子ちゃんが話しかけてきた。入学以来、この学校で、浮きがちな私に、よく話しかけてくれる子だ。

 この学校の厳しい校則や、スピードの速い授業に慣れない私のグチを、よく聞いてくれては「頑張らなきゃダメだよ、山野辺さん」と励ましてくれる。

 

 キリスト教の、愛と奉仕の精神を学ぶうちの学校では、勉強や部活のほかに、ボランティア活動もしなくちゃならないんだけど、坂切さんは積極的にそれもしている。  

 とにかく、まじめな女の子なんだ。


「いや、ちょっと今朝、変な夢を見てね」


 私がそう言ったのを聞くと、坂切さんは、急に真面目な顔になって言った。


「まさか、顔取り女の夢?」


 顔取り女? なんじゃそりゃ。


 坂切さんによると、それは少し前から、ウチの生徒の間で、流れている噂だという。

 狙われてるのは聖陽学院の女生徒。夕暮れの下校時、学院から駅まで七分ほど歩く通学路に、季節はずれのロングコートを着た長い髪の女が現れ、両手に持ったカマで、顔の皮をはぐという。


「そんな大事件があったら、ニュースで大騒ぎじゃない」

「それが不思議な事に、顔をはがれた生徒は、痛みを感じずノッペラボウになるんだって。上級生の人たちが、もう三人くらい襲われて、ずっと休んでるって噂だよ」



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