王都ロンディルム(裏) Ⅱ
公園から離れて数分、まるで狙ったように目の前に現れたリュスクに俺は少しだけ呆れた。
「おいおい、まさかここで出待ちしてたのか?」
「兄さんが王都に来て時間に余裕がある時は毎回来てますからね、仕事前にふらふら一人で出掛けるのは本当に勘弁してほしいんすけど」
ジトリとした視線と共に正論を言ってくる。流石は幹部だけあって、俺のことを良くわかっている。
「ま、少なくともこれで暫くは会えなくなるだろうしな」
「そうっすね。あと数ヵ月もすれば武闘大会もありますしね。スピネルも代表に選ばれてるんでしたっけ?」
「個人戦の総合部門でな。魔法、剣術、体術はそれぞれ別らしいが、国の代表としてそれらを総合して強いとなるとスピネルしかいなかったらしい」
今回の武闘大会は大きく個人とチームの2つに分かれており、個人は体術、剣術もとい武器術、魔法、総合の四部門、チームは戦闘、探索、そして陣取戦の三部門で構成しており、各国はそれぞれに代表を個人戦は三人、チーム戦は2チーム各四人まで設定できる。
今のところうちの国ですでに決まっているのは武器術部門からうちのエレジアとスピネルの騎士団としての上司である騎士団長、魔法部門でマーガレット姫の姉でありこの国有数の実力を持つ魔法使いである第二王女、そして総合部門でスピネルだ。
「個人的には兄貴とラスティとエレジアと三人で総合部門で闘うところを見たい気もあるっすけどね」
「俺とラスティは今回運営部門の責任者の一人だからな、流石にそっちまでは手が回らないし、何より選手を複数の部門に登録するのは禁止だから無理だな」
少なくともそのエレジアがドラバルト王の頼みで個人戦にスカウトされてなければ、俺、ラスティ、エレジア、そしてリュスクの四人編成で出ても面白いと思っていたらしい。
「裏社会の人間が表社会で目立つわけにいかないだろうに」
「エレジアは元々冒険者っていう表側の人間だったからできただけですからね。本来なら俺らみたいな日陰者が出たり携わったりするイベントじゃあない」
「だな……で、情報についてはなんか聞けたのか」
俺がそう聞けば、まるで頭痛でもするような表情で顔を歪める。
「あー、簡潔に言うと……依頼主についてはわからなかったっすね」
「分からない?暗殺者の組合を通してないってことか?」
「みたいっす」
というのもリュスク曰く、その件について暗殺者組合の方もてんやわんやという状態らしい。
暗殺者組合は王国に認可されている裏組織の一つであり、その組合員である暗殺者はいわば裏の警察のような役割でもある。基本的に任務として狙われる対象は山賊や盗賊といった治安を乱す組織や、密輸や人身売買等の違法行為を行っている組織の人間がほとんどだ。
たまに俺のように、ぽっと出の新参の癖に成果を上げたせいで恨みを買って狙われるようなこともあるにはあるが、そういうのはほとんど例外で、マーガレット姫を狙うなんて大それた依頼は当然ながらはぶかれる……はずなんだが。
「組合を通さない裏受注とは、また面倒なことだな」
「ええ。そういったことが起こらないように、その手の依頼は全て組織で管理されてるはずなのに、ですからね」
「となると、他国か魔族側の依頼って可能性が高いか」
流石の暗殺者組合といえど、国外のそういった依頼については情報がないだろうし、魔族側の策略なら野良……といったら聞こえが良いが、つまり組織に所属してない連中に頼ったってことになる。
「けどまず他国は無いっすね。面倒でしたけどあの傀儡を調べましたけど、使ってた木材は国内で採れる魔木……魔力を溜め込む性質を持つ特殊な木材でしたし、作られて四~五年程度の新品でした」
「うちの国の魔木が他国に輸出されたって話は聞かないし、そもそも魔木細工は扱いが難しいからな」
「っす。一応サンプルを組織の人間に確認させましたが、結果は俺の見立てと同じ、かつ一部は新米が扱えるようにサポートできる術式が組まれてたそうっす」
「いやな新人研修だな」
たしかに一人前になるためにどこかの要人を狙うことは、そういった組織では珍しくはない。珍しくはないのだが、
「そもそも、組合に登録してない組織がまだ存在してたんだな」
「ですね。戦争があって、人間同士で争ってる場合じゃないから、ほとんどの暗殺稼業の組織は組合に併合されたって聞いてましたけど」
そんなことを言いながら大通りへと出ると、まるで見計らったように馬車が目の前で停まり、その扉が開かれ、中からいかにも厳つい大男が座りながら声をかけてきた。
「やれやれ、地方とはいえ大都市を仕切る組織の長がこんなところでぶらぶらしてるとは、よっぽど暇なようだな」
「いえいえ、貧乏暇なしっていうくらいですからね。こうしてトップ自ら歩いて情報を取るのも仕事の一つですよ。そちらこそ、護衛をつけず無防備に馬車のドアを開けて良いんですか、ロンディルムの裏の顔として名高いボス・バロッカス殿?」
ボス・バロッカス……ロンディルムで活動している裏の大組織の中でも武闘派として名高く、暗殺者組合とは別の意味で治安を担っているマフィア『スカーカトラス』のトップであり、親っさんと親交の深かった裏組織の人間の一人だ。
「ふん、隣に優秀な鷹が居るのにご苦労なことだ」
「えぇ。ところで、なぜあなたがここに?少なくともここら辺は暗殺者組合の縄張り、いくらあなたも国王に呼ばれてるのだとしても、あまりにも無防備なのでは」
「その組合の長と待ち合わせというやつだ。王城に何台も馬車が引っ切り無しに通ってるなんて、何かありますと言ってるようなもんだからな、なるべく少ない台数で来いってことで、俺のところと組合のところが一緒にってわけだ」
まぁ他にも理由はあるが、とそう言うとチラリと視線を移せば、そこには意識しなければ気配すら感じないほど自然な状態の銀髪のエルフがジトリと睨む。
「……久しぶりですね、メギリムの『番犬王』。やはり貴方も今回の誘いに喚ばれていましたか」
「えぇ、マダム・エンシェリア。直接会うのはリュスクを引き抜いた時以来になりますか」
マダム・エンシェリア……王国内の暗殺者組織を束ねる組合の代表であり、リュスクが所属していた組織の元トップである国内最高の暗殺者なのだが。
「意外です。こういった召集の際は普段代理人か使い魔で参加していたと思っていましたが」
根っからの情報屋であり暗殺者である彼女は自分自身の顔が表に出ることを極端に嫌う性格で、俺が昔、リュスクを引き抜くためとはいえ直接顔をみたのも、魔力阻害で彼女が扱う認識操作の精霊魔法をキャンセルしてしまったからだ。
「今回は王様から直々に直接来るように連絡がきた。流石にこれは無視できない」
「へぇ……」
「ま、それも仕方ないだろうな……なんせ王国内の表と裏の代表組織をほぼ全て召集するなんていう、前代未聞過ぎるもんだからな」
「……はい?」
今、このマフィアのボスは何て言った?
俺のキョトンとした驚きが顔にさもありなんと言わんばかりのボスとマダムの疲れた表情が、それが本当のことなのだと理解できてしまった。
「……詳しいことは走りながら話す。流石にいつまでも停めておくのは、目立ちすぎる」
「そういうこった。ほら、さっさと乗り込みな」
俺は一瞬リュスクに視線を向け、彼が頷くのを確認してため息をつくと、仕方なく馬車の中へと踏み込む。
「詳しいこと、わかる範囲で全部話してもらえますか?」
「おう、わかる範囲で、な」
そうして席へと座り、馬車はゆっくりと王城へと進み始めた。
書き貯めを消化しきったので少し更新ストップします。7月には投稿を再開できたら良いな~




