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異世界でヤクザやってるので、聖女を押し付けられても困るんですが  作者: 双星天魚
第二幕 勇ましき兵達の凱歌

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王都ロンディルム(表) Ⅱ

 王都ロンディルムを一言で言うのなら、『雑多』に尽きるという。


「元々ロンディルムは我がフェムズ王国の建国者であり初代国王であるロンドブルムが築き上げた、人族系種族の複合合一都市でした」

「複合合一都市?」

「簡単に言えば人族、獣人族、エルフのような亜人族がそれぞれ暮らし安いように設計されたり、開発にその三種族が関わったりした都市のことだよ」


 とはいえ人族側で複合合一都市はかなり珍しい部類に入る、とアルゼイさんは続けた。


「そうなんですか?」

「どちらかというと魔族側で良く見られる都市形成文化らしいぞ。その理由は……まぁ、勇者パーティにいた聖女さまなら良く分かると思うけど」

「え……あぁ、確かに言われてみれば」


 魔族と簡単に言うが、その姿は人側と違って多種多様で千差万別、『怠惰』のように殆ど人と見た目が変わらないような者もいれば、この前の事件のガーゴイルのようにあきらかに異形な姿をしている者、オークやトロールのように身長が最低でも3メートルを軽く超すような者や、逆にゴブリンのように人間の子供とほぼ同じ程度の背丈の者などなど、人間側で言うところの規格化することすら不可能なのが魔族という存在だ。

 しかも魔族はそういった種族のみで暮らす……いわゆる部族的な生活は殆どせず、複数の種族が纏まって共同で生活するスタイルが主流で、魔王軍の前線拠点だけでなく、そういった村や街が幾つも存在していた。


「その理由は元々ロンドブルム王が腕利きの傭兵団の長であり、同時に秘境探索を主とする冒険者でもあったからだとされておりますわね」

「え、王様が元々傭兵で冒険者って、何がどうして王様にまで成り上がって?」

「さぁそこまではなんとも。ですが王家に残された初代国王妃であったローゼス様の手記によれば、当時傷つき死に瀕した神狼フェンリルに対して幻の霊薬とも呼ばれたエリクサーを使い癒し、その礼としてこのロンディルムのあった平地を譲られたと、書かれておりました」

『ふむ、懐かしい話をするものよ』


 すると聞き覚えのある声に振り返れば、いつの間にかスピネルさんの肩に子犬サイズの狼がちんまりと座っていた。


「えっと、フェンリル様……なんですよね?」

『いかにも。さすがに都市の中に入るのに本来の姿では大きすぎるのでな、普段は人の姿をするのだが、あいにく今は人数(ひとかず)が多いゆえこうした姿というわけだ』

「え、人の姿にもなれるんですか?」


 さすがは伝説の聖獣フェンリル、そう私が感心するが何やらアルゼイさんとスピネルさんの二人は微妙な表情だった。


『何か文句があるのか?』

「「いえ、何も」」


 ジトリとしたフェンリルの言葉に二人はすぐさま否定した。


『さて話を戻すとして、その伝承は間違いではない。当時はさまざまな要因があり別の聖獣と争いになってな、負けはせんだったが、それ相応に深傷を負ったところに、アヤツが当時はなんの制限もされてなかったエリクサーを使ってくれた』

「……まさか、伝説のフェンリル様から直接当時のお話を聞けるとは」

『姫はアヤツの子孫だからな。奴には多少の恩があるし、交わした言の葉は少ないが友であった、当時の真実が世に伝わらんのは少し物悲しいものがあるのでな』

「なるほど、では城に戻りましたら書記官を呼びまして、当時どのような事が起きていたのか、歴史の史実として伺わせていただきますわ」


 よかろう、そう短く答える神狼はどこか愉快そうだった。


「さて話を戻しまして。元々傭兵であった建国の王であるロンドブルム王には、多種多様な種族……獣人族やエルフ、ドワーフのような亜人族が仲間として存在し、王都を建設するに当たってそれぞれの種族が住みやすい都市として完成、そして様々な都市の再開発や再構築が進み、現在のこのロンディルムになっています」

「俺もそこまで足繁く来てる訳じゃないからうろ覚えだが、たしか東西南北で特色が変わってるんだったな」

「そうです兄さん。まずはこの人族が住みやすく王都そのもののメインストリートでもある東区画、エルフや魔法職の方々が住まう自然豊かな北区画、ドワーフや職人が住まう工業の南区画に、そして獣人族や騎士団、冒険者など拠点がある西区画に分かれています」


 ちなみに王城は都市の中心に水堀を挟んだ丘の上に聳え立っていて、豪華ではあるがかなり実用的な作りになっている。


「こんなところに裏の組織なんてなさそうですけど」

「むしろこういう場所に無いほうが不健全だよ」


 私の正直な感想に呆れるようにアルゼイさんは答える。


「こういう言い方はかなり語弊があるし勘違いしてほしくないんだが、そもそも裏社会っていうのは無いと逆に問題が起こるんだよ」

「そうなんですか?」

「あぁ、例えば他国の裏社会の人間がばら蒔いた違法な薬が流行ったとする。もし自分達の国に同じような組織がいた場合といない場合、どっちのほうが被害が少ないかは分かるよな?」


 その問いにはいくらそっちの知識が少ないとはいえ私でも分かる。


「自分達の組織がいたほうが少ないです」

「うん、なんでだ?」

「えっと、もし自分達の国の組織がいれば、流行するその違法な薬の量をコントロールできたり、もしくはシャットアウトすることができる……からですよね」


 その答えに彼は少しだけ唸る。


「間違ってはいないんだが……それだとまだ半分だな」

「半分って、他にも理由があるんですか?」

「あぁ、簡単にいうと、()()()()()()からってことなんだ」


 管理しやすい?


「裏社会っていうのは本当に何でもありだ。違法薬物に人身売買、殺しなんて日常茶飯事だ。けどこれが集団になるとどうなると思う?」

「えっと……分かりません」

「だろうな。答えを言うと、活動が減るんだよ、目に見えてな」


 そう言われて首をかしげる。集団としては数が増えてるのに活動が減るとはどういうことなんだろうか。


「正確には派手な動きが減るんだよ。組織っていうのは表にしろ裏にしろ金食い虫だ、何せ一人増えるだけで指数関数的にコストが上がっていく。だから組織が大きくなればなるほど下を動かして金を稼がないといけないんだが、そうなると当然騎士団のような治安維持組織に目をつけられる」

「えっと、当然ですよね」

「そう、当然だ。だから違法薬物や違法奴隷みたいな大きな金額が動くような派手な活動はできなくなる。何せこの世界じゃそういうことをやらかしたら関係者全員、首と体が泣き別れになるからな」


 笑って言うけど、全然笑えないジョークに顔が引きつる。


「けど、それと被害が減ることと、どういう繋がりがあるんですか?」

「考えれば分かるとおもうんだが、仮に自分達が縄張りにしてる場所で違法な薬が出回ったとする、けど自分達は扱っていない……だが世間はどう思う?」

「……実はウソをついていて、ホントは扱ってたんじゃって思う?」

「そう、これが治安維持組織に見つかったらどうなるか、仮に扱って無いことが分かってもらえたとしても、そのせいで別の違法行為が見つかったら同じことだ」

「だから取り締まるんですね」


 それがいわゆる、ヤクザのシマに対する論理だというのは何となく理解はした。したが、それとさっきの話がどうしても結び付かない。


「そう、そして重要なのは、裏社会っていうのは基本的に縦社会なんだってことだ」

「縦社会?」

「いわゆる力の上下で関係が決まる……それが権力なのか暴力なのか資金力なのかはさておきだが、仮に王都でトップの組織が薬を認めず排除するとする。するとその傘下組織やその組織と敵対したくない組織は同じように排除する。この繰り返しが起こることで、薬物を売ろうとする人間や組織が排除されたり潰されたりする。だから活動が減るってわけだ」

「つまり、抑止力ってことですか?」


 意味合いは少し違う気がするが、つまり自分達の組織が上位の組織に潰されないように、そうなる原因を作らないという抑止の連鎖を作ることで、裏社会では秩序が生まれるということだろう。


「そういうこと。まぁこうなるとその上位の組織が腐ると一気に腐敗するから善し悪しでもあるが、まぁこの国の場合は裏稼業の上位の連中は基本的に定期的にこうして召集させられるから、下手なことをしすぎるとすぐに断頭台送りになる」

「その点で言うのなら、アルゼイさんたちアラエル商会は役目をしっかりと果たしてますし、船舶貿易が中心の都市でそういった違法なものが入らないように食い止めてるので、国内でもかなり有力優良な組織と見られてますわね」

「ま、うちは元々が表でまともに働けなかった連中を庇護してるから裏組織扱いなだけで、やってることは表の商人と何も変わりませんから」


 たしかに、ここにいるルル=クトは人間と魔族のハーフ、ジャックも戦争で滅亡して難民となった人間と、表側では中々働いたり活動したりするのが難しい立場で、当のアルゼイさんや本来ならスピネルさんも孤児という立場上似たようなものだ。


「で、俺らは城に向かってる……と思って良いんだよな?」

「ええ、その予定ですが」

「なら俺は用事を済ませてから向かうから、話だけは通しておいてくれ」


 そう言うとアルゼイさんは急に立ち上がって馬車の扉を開けると軽い勢いで外に出る。


「ちょ、会長、俺らは⁉」

「お前らは聖女さまの護衛‼心配しなくてもすぐにリュスクと合流するから、ちゃんと仕事しろよ」


 その言葉を残して身軽に飛び下り、ご丁寧に扉まで閉めてさっさと街中へと消えてしまった彼に全員が唖然とした。


「フフ、三人とも、心配せずとも問題ありませんわ」

「も、問題ないって……アルゼイさんの行き先に心当たりが?」


 私のその問いに、マーガレット姫は今まで見せたことの無いような、どこか悲しげで寂しそうな目をしており、逆にスピネルさんはこれも珍しく憤懣やるかたないと言わんばかりに苦々しげな表情をしていた。


「えぇ、まぁ、ですがこれはアルゼイさんのプライベートに関わることですので、勝手に話すつもりはありませんわ」

「……いい加減、兄さんも折り合いをつけるべきことだと、私は思いますけどね」

「……そう、ですか」


 私はそう言うことしかできなかった。二人の表情を見れば、簡単に教えてくれるわけがないと、すぐに分かったから。


『我からすれば、奴が数少なく人間らしさを見せる点でもあると思うがな』

「フェンリル様」

『分かっておる、余計な口出しをするつもりもなければ、肩入れするつもりもない』


 その身内だからこその会話に、私は少しだけ気が重くなった。


(私は、まだそこまでのことを教えてもらえるほどじゃないってこと、か)


 馬車の窓から空を飛ぶ鳥の姿が、今はどうしてか羨ましく感じなかった。

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