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異世界でヤクザやってるので、聖女を押し付けられても困るんですが  作者: 双星天魚
第一幕 港湾都市の転生ヤクザ

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リザルトは誰が為に Ⅰ

「やれやれ、毎度の事ながらメギリムに関わることは重要な案件ばかりだ」


 王都、そのなかでも一際目立つ王城の一室、いわゆる王の政務室とも呼ばれるそこで、現国王ドラバルトは、娘から送られてきた報告書を読みながら呆れるように頭を抱えた。


「軍部が開発してる船艦に対する新燃料候補に、麻薬組織の皮を被ったテロ組織を一つ潰す、か。短期間で二ツも重大な報告書を持ってくるとはね」


 片方は現在燃料資源に使われている薪から、それを加工して不純物を取り除き重量と積載量の問題を解決する新エネルギーの開発。

 片方は名前を出すのも躊躇われる前々の愚王と、さらには教会の上層部がやらかしたことが遠因で、この地で漸く終わったはずの戦争をぶり返す目前で防いだこと。

 どちらも簡単に捨て置く事などできない面倒すぎる報告書に、賢王と名高きドラバルト王ですら悩まずはいられなかった。


「宰相、お主はどう思う」

「それは陛下、あなたが決めることでは」

「そんな当たり障りのない意見を言うな。幾らなんでも一人で考え付ける内容じゃないだろ、これは」


 王は呆れるように乳兄弟でもあり、幼なじみでもある宰相を軽く睨めば、宰相も苦笑しながら頷く。


「そうですな。とりあえず木炭については報告書の通り、マーガレット姫さまが主だって活動するのがよろしいかと」

「ほう、おまえはてっきり王太子にやらせるべきだと言うかと思ったが」


 マーガレットの6つ上で、ドラバルト王の五人の子供のうちの長男であり王太子は軍部との繋がりが強く、また王族唯一の息子であることもあってか、王族でありながらたまに冒険者のような活動をしていた。


「まぁ王太子殿下もいい加減落ち着きと言うものをもって欲しいというのは、私も王と同じ意見ではありますが、今回の問題はまだその木炭とやらが完成してないということにあります」

「ほう、続けてくれ」

「私も報告書は読みましたが、今現在の質ではまだ軍部に卸せるようなものではない。なればそこは試行錯誤をする段階です……マーガレット姫もお転婆ではありますが、王太子殿下と違って比較的自由な立場にあります」


 王太子も普段はそれこそドラバルト王よりも真面目で、王族としての責任感を確りと持ってる人間だ。たまにの冒険者の活動も、日頃溜め込んだストレスを解放するためのもので、似たようなことはドラバルト王も王位を継ぐまでは何度かやっていた。

 とはいえ、王太子の立場はかなりのものであり、その責任や行動はかなり縛られているし、終戦直後である現在、その仕事量は普段の非ではないほど増えている。具体的には外交関係だけでも軽く倍、軍部関係もそれに匹敵する量だ。

 ここにさらに専門外の仕事を増やすというのは、幾らなんでも不可能だ。王太子が過労で寝込むなど笑い話にもならない。


 では他の姉妹はといえば、頭のなかお花畑だった長女はすでに隣国に嫁ぎ、寡黙であった次女はその才能が認められ魔法の研究でここにはおらず、マーガレットの妹である四女は何をどう梯子をかけ違えたのか、軍部に武器を卸している鍛冶師のもとに弟子入りしてる武器マニア。

 はっきり言ってマーガレットが比較的マトモな部類であり、そしてマトモゆえに現状で自由な時間が確保されていると言っても良かった。


「……問題があるとすれば、アルゼイ殿と自らの筆頭を引っ掻き回して遊んでいるのが、少々気にはなりますが」

「女にとって他人の恋話は蜜のようなものだからな、我が娘も同じだっただけであろう」

「引っ掻き回しつつ、自分もちゃっかり側室に……と狙ってるように見えましたが」

「……アルゼイならば何とかするであろう、そこは」


 歳の離れた友人にそう嘯くが、それはまぁアイツなら何とかするという信頼もあるだけだ。


「問題はテロ組織のほうですか……」

「民族差別の負の遺産ってやつだな」


 ドラバルト王自身、前々王の政策については知らない部分が大半だ。当時の事も資料で知る程度であり、それもそこまで詳しい内容は記されていなかった。


「教会は何も言ってきませんのか?普段ならこういうものは嘘だ欺瞞だと騒ぎ立てるような連中でしょうに」

「オレもそう思ったんで、この報告書が来てすぐに教会の上層部を呼び出した。そしたら連中、通信魔道具を持ってきて、なんと教会本部のトップとオレを会談させやがった」


 教会本部のトップ……つまりは教皇と会談するなど思ってもみなかったとドラバルト王は言う。そしてその表情は明らかに不満そのものだった。


「その様子ですと、教皇は自分達の不手際を認めなかったんですか?」

「……その逆だ。教皇のやろう、どういう伝手か何かは知らんが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「なん……」


 宰相が驚くのも無理はなかった。幾ら過去の出来事とはいえ、やったことは完全に内政干渉のようなものだ。

 教会組織としてのメンツのことを考えれば、てっきりそれを否定するものだと思えば、むしろ逆にその事を知ってると肯定したうえで、自らに非があると認めたのだ。


「なんなら向こうは、この件で発生した麻薬被害の治療のために、腕利きの治癒魔法使いを数名派遣すると言ってきたもんだ。明らかに裏しか感じねぇ内容だよ」

「それは……たしかに。それに報告書には、まさかマーガレット姫を暗殺組織に狙わせたとありましたが」

「そっちは完全に否定されたよ。あの表情からして、その件については完全に寝耳に水も良いところだって表情をしてたな」


 とはいえあのアルゼイの部下であり、優秀な元暗殺者現情報収集担当がソイツらが操っていた傀儡を回収して調べているそうだから、しばらくすれば何かしら分かるだろうとも書いてあったので、気にはなるが置いておくとしよう。


「それで、報告書には捕まえた組織の今後についての進言もありましたが、如何します」

「如何も何も無い……って言いたいところだが、コイツはコイツで爆弾のような内容だからな」


 報告書によれば、テロ組織の人間の大半が貴族の籍から何らかの理由……主に先祖返りによる亜人種族の特徴が出たことによって籍を外されており、調べたところ大半が死んだものとして戸籍からも外されていた。

 こうなってしまうと簡単に逮捕・捕縛ができなくなってしまう。現王国法では、貴族籍や戸籍が一度外されてしまうと死亡扱いとなり、逮捕や犯罪奴隷として扱うことが法律上出来なくなる。そしてそれを復刻するのには、本人と血縁を証明できる人物が最低でも一人以上必要になる。

 だが、彼らは貴族の籍を追われ、さらに家からも追放されたものばかりだ。罪を清算させるためとはいえ、それぞれ実家の人間に協力させることは、理論的にはできても現実的には不可能だ。よっぽど身内に仲の良いものが居ない限りは。


「中にはそもそも戸籍すら登録されていない者も居る……我が国の貴族の恥がこうも出てくると頭が痛いものだ」

「えぇ、他国に比べれば我が国の貴族は、前々王のやらかしもあってマトモと呼べる人間は多いですが、それでも少なからずそういう者が出てきてしまうのは仕方ないことでしょう」

「面倒なものだな、ホント」


 かくいう自分自身もその貴族の頂点であることを理解しているからか、王は閉口し呆れるだけで何も言わない。自らにそういう点がないと公言できるほど、清い人間をしてないことは理解しているからだ。


「で、そういえば怠惰が自ら捕縛した魔族の主戦派はどうなった」

「あぁ、姫さまが交渉して捕まえさせた者たちですか」

「……ホント、今更ながらうちの子供たちのぶっ飛び具合が問題すぎるよ」


 まさかマーガレット姫が、現魔族領の女王であり、今世最強の魔法使い自らに同族の犯罪者を逮捕させるというお願いをするなんて、事後報告を聞かされた時は通信越しにドラバルト王が姫を怒鳴り付けるという一幕があったのは言うまでもない。


「昔は問題児だった王が言うことですか、血筋ですよ血筋」

「嫌な血筋だなまったく……で?」


 改めての問いに、宰相はすぐに答えた。


「普通に取り調べた結果、彼らは違法魔道具ならびに禁術の不正使用を認めました。禁術についてはどうやら事故死した遺体を回収した結果の偶然だった模様です」

「ほう、そんなことが可能なのか?」

「怠惰曰くガーゴイルの一族は死体に関する魔法を幾つか扱えるらしく、なんでもその魔法を使えば限定的に死者の魂を呼び出して術式を手に入れることが可能だとか」


 もっとも術式は個人の魔力の性質によって大なり小なり最適化されているらしく、他人の術式を手に入れたからといってそう易々と使えるものではないとの事だ。


「そうか……で、彼らの処分はどうなる?」

「今現在の法律で扱うのなら他国への侵略行為に禁術の不正使用ですからね、魔族が長寿であることを考えれば簡単に死刑にするよりも、犯罪奴隷として扱うのがよろしいかと。

 もちろんテロリストではありますので恩赦は基本的には無しですが、彼らが作成した魔道工の質や効果によってはそれで軽減するというのがよろしいかと」

「……それが妥当か」


 違法な魔道具の作成ができるということは、つまりは国内でも数の少ない魔道具作りができる職人でもあるということでもある。

 テロ組織に関わり、なおかつ禁術指定されている魔法を扱ったことを無しにはできないが、その代わりに作った魔道具によってその刑を減じるとなれば、結果的には両者が得をする。


「あとはその期間によって、彼らが更生してくれることを願うとしよう」


 これも戦争の爪痕か、そう思わずにはいられなかったドラバルト王が見つめた空は、いつになく眩しい快晴の空だった。

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