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異世界でヤクザやってるので、聖女を押し付けられても困るんですが  作者: 双星天魚
第一幕 港湾都市の転生ヤクザ

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それぞれの戦い(表) Ⅳ

「青い肌に翼……ガーゴイル族ですか」


 ガーゴイル族、その特徴は濃い水色のような青い肌に悪魔のような翼と尾を持つ魔人種族。

 その顔は鳥に似ていて、魔族の中でも大地の力を操ると言われている。


「正解や聖女はん。ただ、ガーゴイル族は魔族の国でも珍しいんやけど、ダークドワーフと違って鍛治や細工が得意でありながら魔法もこなせる、どちらかと言うと職人寄りの種族ではあるねぇ」

「ということは、さっき言っていた『死者服従の魔法』を使ったのも」

「まぁコイツらやろうな。ガーゴイル族は職人であると同時に、屍人族の住むような墓地周辺で生活してる種族でもあるから、『死者服従の魔法』はそれの補助をする術式を組んだりしたりで知識があったんやろうな」


 流石に使えるとは思わなかったけど、とあきれ半分に続けているが、その視線も表情も彼らからは一切離さない。


「さて、自分等が何をやったのか、ワッチにバレてる以上下手な誤魔化しは通じないと思ったほうがええ。弁明があるのなら聞かせてもらおうか?」

「弁明?なぜ我々が弁明などせねばならん」


 怠惰の問いに目の前のガーゴイルの男の一人が不服そうに答える。


「我々魔族と人族は戦争をした敵対関係のはずだ。人族を害することは我々にとって利のあること、それを罪だとなじることのほうが理解できん」

「残念やけど戦争はすでに終わった。魔王様は人間との戦いで戦死し、ワッチら魔族は負けた。それが現実や」

「魔王様が負けたなど世迷いごと、あるわけないだろう‼あの方は魔王至上最強と呼ばれた戦士でもあるのだぞ‼貴様のような女狐の言葉など信用できるか‼」


 そう吠えるガーゴイルの男の言葉には明確な怒りが見てとれた。明らかに人間に対しての憎悪の感情が。


「女狐ねぇ、これでもワッチ、魔王様の代で四天王をやってたんやけどねぇ」

「それも全て計略だろう‼貴様はサキュバスだ、どうやったかまでは知らんが、得意の色仕掛けで魔王様を誘惑したような売女が‼」

「っ‼」


 流石の物言いに私は言葉を返そうとするが、怠惰はそれを止めた。


「……せやねぇ。確かにそれは無いとは言わへん」

「やはりか、貴様のような色仕掛けしか脳の無い淫魔が、魔王様を籠絡するなど」

「ただし、惚れたんは魔王様のほうや。ワッチは惚れられた側やけどね」

「……は?」


 堂々と、しかして真顔でそう宣った怠惰にその場にいた全員が目を丸くした。


「ワッチはもともと人も魔族も関係なく世界を回る流浪の身、魔王様とであったのも旅の途中で泊まった酒場で、吟遊詩人よろしくハープを奏でてお捻りをもらってたときや

 まさか場末の酒場に魔王様が食事しに来てて、そこでワッチが弾いてた音楽に惚れられて告白してきた時は流石のワッチも開いた口が閉じひんかったわ」

「な、な……」

「言っとくけど、サキュバスの誇りに誓って嘘は言わへんで。まぁ、いきなり過ぎて流石に最初はスルーしてたんやけど、あんまりしつこいんで途中からは魔法で黙らせて、そんなのが百も越えれば気持ち悪いを通り越して逆に新鮮やったわ。

 まさかこっちから口説いてないサキュバスを相手に、自ら愛をもって口説く魔王なんて、物語でも絶対に聞かんからね。仕方なしに受け入れたわ」


 呆れながらそう答える彼女だが、その表情は嘘偽りなく恋する乙女のようなもので、私も目の前のガーゴイルも絶句してしまった。


「ワッチが勇者との最終決戦で戦わへんかったのも、魔王様が負けた時の国の保険の意味もあったけど、本当は魔王様自身がワッチが死んだと聞くのが絶対に嫌だっただけなんよ。ワッチのほうが勇者達より強いって知ってるはずなのに、ねぇ」

「そ、そういう理由だったんですか」


 なるほど、道理で最終決戦の際に私達……というより怠惰と張り合っていたメリュリナが怠惰を煽っても暖簾に腕押しというか、完全にスルーしていたのもそういう理由だったのか。

 思わぬ真実に閉口していると、「ふざけるな‼」と、目の前のガーゴイルの男があり得ないと言わんばかりの大声を振り上げた。


「そんなふざけた話があるものか‼あの魔王様が、貴様のような淫売に惚れたなどと、嘘を言うにしても大概にしろ‼」

「嘘やあらへん。ワッチのサキュバスとしての誇りに掛けてって言ってるやろ。その意味、魔族のアンタならよぉく知ってるはずや」

「な、ぐっ……」


 ぐうの音しかでないとはこのことだ、と言わんばかりの反論に、もはや私は蚊帳の外状態だった。


「え、てことは怠惰って本来なら魔王の妃の立場なんじゃ……」

「ん、まぁ、一応籍は入れとったし……そういう言い方ができないわけでもないけど……ワッチはそういう堅苦しいのが苦手やし、妃になると勝手にふらふら旅に出れへんくなるから……表向きには四天王ってことにね、実際魔法の腕も他の四天王や魔王様以上やったしね」

「そんな、そんなバカなことがあってたまるか‼」


 男は発狂するように叫んだ。自分自身の価値観や根底が全て覆るその事実を受け入れられないからか、まるで滝のように汗をかいて。


「魔王様だぞ、あの魔王様が、貴様のような娼婦と変わらないような女に一目惚れし、貴様を守るために戦っただと?我々が憧れ、惹かれ、崇拝する力の化身であった魔王様が、そのような人間のようなことを、するわけが」

「惚れた腫れたに人間も魔族もあるわけないでしょ」


 受け入れようとしない男の情けない言葉に、今まで静観を決め込んでいた私は鋭く言いはなった。


「逆に聞くけど、貴方はどうして戦争に参加したの?」

「人間の聖女……どうしてだと?理由など必要あるか‼我らの誇りを守るため、力を示し覇を為すこと意外に理由などあるものか‼」

「そんなわけないでしょ。そんな具体的な理由もなしに命を懸ける人間も魔族もいるわけがない」

「具体的な理由だと⁉」


 そう、私のような中途半端な人間でさえ理由があった。


「私はもとの世界に戻るため、私の当たり前に戻るための手がかりを探すために戦争に参加した。勇者は愛する婚約者を守るために、魔法使いだった親友は魔法を極めるため、戦争に参加するのは皆、何かしら個人的な理由を持っていた」

「それは貴様ら人間が弱いからだ‼我々のような強さこそすべての魔族にそんなものは」

「その弱さがあったから私達は、勇者パーティと呼ばれた私達は強くなれた。覚悟があった。だから物理的な力しか信用しない一般的な魔族は私達を恐れた」


 そういう意味では、かつて相対した魔王はそういった強さを兼ね備えた、敵でありながら私達全員が尊敬し、その強さに敬意を持っていた。


「そんな、そんなちっぽけなもののために強くなるだと?そんな……」

「敗者であるワッチらがそれを否定することはできへん。それが結果であり、それが現実や、戦争はすでに終わったんや」

「ふ、ふ、ふざけるな‼では我々の怒りは、ただ魔族であるというだけで故郷を追われ、迫害され、目の前で同胞を殺された、この煮えたぎる憎悪はどこに向かえばいいのだ‼」


 そう言いながら殴りかかってきた男に、私は結界魔法を展開して弾き飛ばす。

 さらに全員で魔法の石弾を飛ばしてくるが、その全てを結界は弾き飛ばし、私達に一切触れない。


「だからって、無関係な人たちを巻き込んで、死者を冒涜するのは間違ってるでしょ」

「綺麗事を‼」


 そう言いながらその鋭い爪で襲い来る彼に、私は槍を展開して攻撃を捌く。乱雑で、大雑把で、勇者パーティで勇者とともに前衛を勤めた拳士と比べれば、随分と拙く荒いその攻撃は、この世界ではひ弱な後衛の私ですら簡単に対処できた。


「人という存在である限り、我ら魔族を虐げてきた事実と罪は変わらない‼我らこそ、我らの行いこそ世の魔族達の代弁であり、怒りだ‼」


 そう言いながら暴れまわる彼はまるで不貞腐れた子供のようで、しかし魔族らしい力の差で無理矢理に攻めてくる。

 流石に無傷で抑えるのは厳しい、そう思った瞬間だった。


「------ええ加減にせぇよ」


 まるで氷のような鋭さの一言、たったその一言に恐怖した私や目の前の魔族が目にしたのは、途方もない魔力量と、何重にも重ねられ展開された立体型魔法式の中に浮かぶ流麗なる魔王の姿。


「アンタらの言葉も理解はできる。同情もできる。けど、ワッチらは結局敗北者なんや。負け犬が惨めに吠えたところでなにも変わらへんし、世界の誰も認めへん」

「き、きさま……」

「それと勘違いしてるようやけど、魔王様は世界を覇するために勇者と戦ったわけやない。むしろ逆……魔王様は戦いを終わらせるために自ら負けたんや」

「……は?」


 そう、それは魔王と四天王、そして勇者パーティのみが知る……最終決戦の真実。

 魔王は確かに強敵だった。怠惰にすら手こずっていた私達が勝てたのは、奇跡であるのと同時に、魔王自身が手加減していたから。


「魔王様は気づいてたんや。争い続けて、続けて、その先に残るのは怨嗟と憎悪の無限地獄やと。だから、勇者パーティの実力を知り、魔族の現状を考え、そして未来のことを考えて自分の首を差し出すことでワッチらを生かした」

「な、なぜ……魔王様がそんなことを」

「怨嗟と憎悪の無限地獄、そのうちに先に滅びるのは人側ではなく魔族やからや。魔王様も、ワッチを含めた四天王の全員も同じ考えやった」


 なぜなら、そう怠惰は呟き、


「アンタらも知っとるやろ。ワッチら魔族は、人側と比べて子供ができにくいことを。戦争し続けた結果、種として滅びた種族も沢山おる」

「……っ」

「魔王様はこれから生まれてくる魔族に未来を見てほしかったんや。戦い続け血を流し続ける今ではなく、過去に起きたことの復讐や憎悪に囚われる過去でもなく、寄り素晴らしい明日を生きるための未来を託したかったんや」


 そう、それこそが魔王が魔王であり、私達の最大の宿敵であった理由であり、最後の戦いで勇者に討ち取られた覚悟。

 心臓を刺され、消え行く命のなか私達にわざと負けた魔王のその理由は、戦いに対する侮辱であったのと同時に、どうしようもないほど魔族の行く末を案じ続けた、為政者として、王としての揺るぎない誇りを抱いていた。


「その魔王様の覚悟を踏みにじり、あまつさえ戦争再開を望むその恥知らず‼ここでワッチがお灸を据えたる‼『無間氷零獄(コキュートス)』‼」


 放たれた魔族最強の魔法使いの水・風・火の()()()()()()()()()()は、たった一撃、たったその一撃でこの空間全てを凍てつかせ、彼らを物言わぬ氷像……もとい氷塊の檻へと変貌させた。


「安心せぇな、お姫様の約定の手前、殺しはせぇへん。もっとも、死んだほうがマシとも言える裁きを受けてもらうことになるやろうけど」

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