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異世界でヤクザやってるので、聖女を押し付けられても困るんですが  作者: 双星天魚
第一幕 港湾都市の転生ヤクザ

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それぞれの戦い(表) Ⅱ

「さて、ひとまず状況を再確認するぞ」


 処理を終え、一通り廃村の家を確認して他の人が居ないことを確認した私たちは、村の広場の辺りで作戦会議を始める。


「まずここにあの違法奴隷の守備兵が居たことから、奴さんの本丸なのは確定している」

「あの、そもそもあの神狼さんはどうやってここを突き止めたんですか?裏の情報網に全く引っ掛からなかった組織なんですよね」


 私の質問に答えたのはスピネルさんで、


「フェンリル……というより神獣は魔力を五感のように感じることができるそうで、今回は兄さんによって無効化された魔力石に刻まれた魔力の波長を辿ることで、それを彫った人物を辿ってるわけです」

「けど、それだとアルゼイさんの体質で、個人の魔力も分解してしまうから、意味がないのでは?」

「物理的に刻んだ場合の魔力は、俺の体質でも完全には分解されないってのもあるが……刻まれた物質には刻んだ魔力の波長そのものが記憶されるから、そっちから辿ることもできるんだよ」


 例えるのなら音楽を刻まれたレコードが、レコードプレーヤーの針の振動によって音を奏でるようにという彼の説明に、科学についてはあまり詳しくない私にもなんとなく理解できた。


「まぁそこのところを詳しく話すのはまた別の機会にしたらええやろ。問題なのは今現在、本命の連中が二手に別れて逃亡しているってことや」

「あぁ。廃教会と廃井戸とで、二つも地下通路を用意しているとは思ってもみなかったな」


 廃村を確認した状況と、一応違法奴隷の面々から聞いたもの、そして魔力探知を使った怠惰の情報を統合すれば、どうやら麻薬の販売や奴隷売買を行ってきた側が教会の、そして魔力石を加工していた魔族側がそれぞれ廃井戸の地下通路で逃げているらしく、少なくともそれぞれかなりの戦力を保有しているそうだ。


「こうなるとこっちも二手にわかれなきゃいけないんだが、さてどう組み合わせるべきか」


 アルゼイさんが悩むのは当然だ。麻薬組織側をアルゼイさんが、魔族側のほうは怠惰が行くのが確定しているこの状況で、どちらにどちらをつけるかというのはかなり悩ましい問題だったが、


「なら聖女はんはワッチと組むのが最善やな。どういう動きするんかは、戦ってたワッチが一番知っとるし、何より下手すると殺しかねへんからな、万が一の治療要員としてもウチとがベストや」


 怠惰は事も無げにそう淡々と告げた。


「こっちはそれで別に大丈夫だが……聖女さまとしては大丈夫なのか?」

「えっと、多分大丈夫です」


 なにせ怠惰の動きは敵として何度も見てきたからある程度予想ができるし、こう言ってはなんだけど、どういう戦いかたをするか分からないアルゼイさんやスピネルさんと初見で連携をとれるかと聞かれたら、まず無理だと思う。


「……一応、分かっているとは思うけど怠惰も魔法使いだから、そっちは前衛は一人もいないってこと、ちゃんと理解してるよな」

「それは大丈夫です。こう見えて、ちゃんと自衛用の術は持ってますから」


 そう言って杖の先端のほうをグリッと回転させれば、魔力石が埋まってる部分のさらに先から勢いよく金属の刃が姿を現す。


「仕込み槍かよ……それも魔杖の先端に格納されてるタイプの」

「凄いですね。長さとしては短槍にはなりますが、普通に騎士団のほうで作ろうとすればかなりの金額になりますよ」

「魔族側のほうでも中々手に入らんのよね。なにせ、繊細な調整が必要になる魔力石を使う魔杖に、仕掛けで刃なんて仕込もうもんなら、それはそれはかなりの腕がないと作れないし調整もできへんからね」


 三人とも感心しながら私の得物を見ながらそう言っている。


「元々はアレグスの婚約者の方の実家の武器庫に眠っていた槍で、当時、使っていた杖が壊れてしまった際にいただいた品なんです」

「槍?杖じゃないのか?」

「はい。なんでも槍と杖の機能を一体化することを目的にして作られたものらしくて、ここを捻るだけで槍と杖の形態を一瞬で変化できるそうです。

 それに光属性魔法の効力を増幅させることができる術式が刻まれた魔力石を使用してるので、そこらへんの魔杖なんかよりも性能が良いんです」


 ちなみに槍の方は、それこそ武人なんかの専門に鍛練してる人には劣るけど、それ以外の並大抵の人ならば簡単に制圧できる実力はあると思う。なにせ、


「私に槍術の基礎を叩き込んだのが、アレグスさんですからね……」

「あぁ、そいつはなんというか」


 あの人、勇者って言われるだけあって武器ならほとんどなんでも使いこなせてた。剣から始まって槍は当然、籠手や鎖鎌、珍しいものだとブーメランを使いこなしてたりしてたうえに、それを人に教えられる知識があるのだから始末に終えない。

 しかもこっちがドン引きするような鍛練内容を、涼しい顔どころか満面の笑みで一緒に隣でこなすような変人だったし、正直、癖しかない勇者パーティのリーダーを勤めるのも無理からぬ人だと常々思った。


「兄さん、勇者さまはそこまで……その……」

「俺も噂しか知らないが、普段から魔道具を使って自分の体重を5倍以上になる負荷をかけながら平然と戦ってるって話は聞いたことがあるな」

「えっと、魔王との決戦直前だと、負荷を10倍にしてましたね」

「どこのサ○ヤ人だよ」


 アルゼイさんのツッコミに何も言い返せないし、なんなら普段は理知的ではあったが、根っこの部分は生粋のバトルジャンキーだったし、強敵を見るとワクワクするような変人でもあった。


「まぁ魔王さまも、どちらかというと戦うことが好きなポンコツなお人やったからねぇ。普段から内政関連はウチやもう一人の部下に任せてたわなぁ」

「……もしかして怠惰、あなたが最終決戦で私たちを見逃したのって……」

「まぁ、そういうことや。魔王さまが勝つにしろ負けるにしろ、国の政がわかる人員は可能な限り残す必要があった。

 勝てば人の国の領地を統治して、負ければ停戦条約やらなんやらをしなきゃならない。戦って負けてはい終わり……そんな簡単に世界は回っとらんからね」


 まぁ、結局は貧乏くじ引いただけなんやけどな、そう嘯く怠惰の表情はどこか楽しそうだった。


「まぁ今はそこはどうでもえぇことや。さて、ぼちぼち追いかけへんと面倒なことになるやろ」

「だな。目的は連中の確保、可能な限り無傷でってのが良いんだが、最悪、殺してなければ良い。とにかく捕まえることが目的だってこと、忘れないようにな」

「それはこっちの台詞やな。雑魚はともかく、本命までそれで簡単に射ち殺すんやないよ」


 そういってさっさと行ってしまうアルゼイさんとスピネルさんに少しだけ驚くものの、怠惰のほうも当然のように目的の井戸に向かって歩きだしたのでその後を追う。


「なんや聖女はん、心配ごとでもあるんか」


 しかし怠惰は私の雰囲気を察したのか、まるで呆れるように聞いてきた。


「心配ごとっていうか、もしかしなくても向こうの方が人数多くいるんじゃないかなって」

「へぇ、どうしてそう思うん?」

「だってここは人間側の国ですよ?いくら魔族側の協力者が居るとしても、大半は人間のはずです」


 そうなると、魔族と人間が一緒に逃げる可能性はあるかと聞かれれば、おそらくほとんどないだろう。よっぽど特殊な事情がない限り、ではあるけど。


「なら廃教会側には十数人単位で敵がいるはずです。いくらアルゼイさんやスピネルさんが強いからって、十人以上を相手に二人で、しかも殺さずに戦闘不能になんてかなりの無謀です」

「なるほど。たしかに普通に考えれば難しいやろうな。お姫様の直属の子はともかく、普段は前にほとんど出ないアルゼイの小倅のことを考えれば、そうなるのも不自然やない。むしろ妥当な意見や」


 けど、と怠惰は続けた。


「悪いけど、アラエル商会で最強はあの小倅やで」

「……え、でも、本人は戦えないって」

「うん、マトモな戦闘っていう意味なら間違ってへん。普通に戦えば、多分商会の中で下から数えたほうが早いし、本人もそれは認めとる」


 だからこそ、と表情を凄く深い笑みに変えながら答える怠惰のその言葉に私は思わず震えた。


「アルゼイはんが()()を使い始めたら、悪いけどワッチでもマトモに戦えるとは言えへん。いや、おそらく意志疎通ができる者は絶対に勝てへんね」


 最強の魔法使いの実質敗北宣言という、震え上がるに決まってる爆弾を落としたのだから。

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