それぞれの戦い Sideエレジア
とりあえず今年の更新はこれにて最後になります。
「まったく、戦場の空気ってのは何度嗅いでも馴れないもんっすね」
背中に大剣を背負い、とりあえず素手で暴徒を鎮圧しながらそう思う。
別に今回は殺しをするわけではないが、それでもこの独特の空気と多少流れる血の匂いは、裏の潰しとはまた違った独特の戦場の空気を感じる。
とはいえ、ほとんど暴徒も鎮圧し尽くした今、そう感じる要素はほとんど無くなってしまったが。
「しかし、コイツらを扇動した元凶らしき奴はどこにいるやら」
少なくともうちの私兵と衛兵隊のほぼ全てを使って漸く鎮圧できる人数の暴動だ。これだけのことをするのなら一人や二人はそういった人間が居ても不自然ではないだろうに、その気配が一つもない。
これはハズレか、そう思ったその時、背筋に嫌な感覚が走った。
「っ、何者っすか‼」
すぐに剣を抜いて感覚の方へ振り向けば、そこにはスラムの人間が着てるようなボロ布の服に、顔を完全に隠すように深く被ったフードの誰かが立っていた。しかも両手に気絶した人間族の成人男性をそれぞれ首根っこ掴んでだ。
「……敵対するつもり、ない。ただ、今回の件、引き起こしてた奴、捕まえた」
そういって投げ渡す男二人は、間違いなくこのメギリムのスラムに住んでないであろう、貴族らしい整った顔立ちの青年二人だった。しかもその体臭もスラム特有のものとは比べ物にならないくらいにまともなもの。
「なるほど、たしかにうちのスラムには居なそうな奴っすけど、なんでアンタが捕まえたっすか?スラムの人間を騙した恨みとかっすか?」
「……そんなものは、どうでも良い。どうせ私、行き場所がない。スラム、住み心地良かった。けど、コイツら変な薬ばら蒔いて、おかしくしてた。だから潰した、それだけ」
へんな片言の言葉だが、どうやらまともな意志疎通は取れるようだ。けど、
「アンタ、声と体格からして女っすよね、それも匂いは人間族のそれだ。なのにどうやってそこの二人を捕まえたんすか?」
うちは牛獣人だから嗅覚が普通の人間に比べたらそれなりに良い。流石に狼人族のリュスクや、その血を色濃く継いでるスピネルなんかに比べたらかなり劣るが、それでも相手がどのような人間か大雑把にわかる程度には優れている。
だからこそ違和感を感じた。目の前のフードの女の匂いは紛れもない人間のもの、それも体格からしてそこまで鍛えているとかそういう類いの人間じゃない。
なのに、たった1人で成人男性二人を簡単に気絶させてこっちまで運んできた?断言する、それは紛れもなく普通じゃない。何かしらの理由がある。
「別に、背後から殴って、気絶させただけ。それ以上でも、以下でもない」
「一応、それが信じられないってことぐらいは理解してるっすよね?」
「理解は、してる。けど、どうでもいい、結果は変わらない」
そう言って立ち去ろうとした瞬間、今まで気絶していたはずの男が1人、呻き声をあげながら意識を取り戻した。
「こ、こは……っ‼くそ、テメェ‼」
「……五月蝿いのが、起きちゃった」
面倒くさそうにしている彼女だったが、男がヨロヨロと立ち上がってぶん殴ろうとしたとき、うちの目が捉えたものに驚愕した。
「五月蝿いから、もう一度寝てて」
彼女の左腕、たしかに人の腕だったそれが一瞬、たった一瞬だったが赤と白の三本の触手へと変化し、首に一撃を与えてすぐに昏倒させたのだ。
「ん、さっさと捕まえて」
「……そうっすね、お前ら、さっさとコイツらふん縛って拘束しな‼」
近くにいた部下に命じれば、彼らもすぐに少女のそばで気絶してる男二人を確保し、彼女はいつの間にかもとに戻った左手を空へと伸ばす。
「……まだ、何かよう?」
「そうっすね。色々と聞きたいことが山ほどあるっすけど……そのまえに一つ」
「?なに?」
「うちらの仲間にならねぇっすか?お給料もそれなりに出るし、飯も全うに食べられるっすよ」
うちはニヤリと笑って勧誘する。色々と面白そうということもあるが、何よりこれだけ動ける素人をそのままにしておくというのはもったいないと感じたからだ。
目の前のフードの女性は少し悩ましげな雰囲気を出していたが、すぐに答えた。
「…………誘ってくれたのは、正直嬉しい。けど、ごめんなさい」
「ありゃ、それまたどうして?」
「……人でもない、魔族でもない、中途半端なのが人の街に居ても良いことないから」
その言葉の意味がわからずに首をかしげれば、彼女は被っていたフードを外して素顔を見せる。
「へぇ、見たところ少女って感じっすね、けど、その目」
見た目は13歳ぐらいの少女のような姿で、顔も若干丸顔に近いが充分綺麗で通じる。が、その両目は歪だった。
右目は人間側とほぼ同じような瞳孔と虹彩だったが、左目のそれは色が反転していた。その特徴は間違いなく、
「魔族の瞳、っすね」
「ん、私、人間と魔族の混血、すでに百年近く生きてきた。けど、人間でも、魔族でもない私、周りから排斥されてきた、ずっと」
戦争起こる前から、そう言った彼女は再び左手を触手へと変貌させる。先程は一瞬でわからなかったが、その触手の形はまるでタコのそれによく似ていた。
「この力あるから、色んな街旅してきた。いつか定住、出きる場所ある、そう信じて」
「……」
「けど、どこにも居場所、なかった。戦争が起きて、尚更。この街のスラムには、15年ぐらい前から、住み着いてた。旅にも疲れて、近くに海もあって、食料には困らなかった」
楽しそうに言う彼女に、一つの疑問が浮かんだ。
「ならこの街が発展するとき、市民権を得れば良かったっすよね。スラムから街になるってんで、費用は全額免除されてたはずっす」
「たしかに、なろうと思えば、なれた。けど、私、人間でも、魔族でもない、半人半魔。魔族の血、混ざってる私、排斥されるの、わかりきってた」
彼女の言葉を否定できなかった。つい最近まで魔族と人間とで戦争をしてきたのだ、それなのに魔族の血を引いてるってだけで差別される可能性がないなんて、口が裂けても言えないから。
「働くにも、この外見だし、何より戦うためには、この腕、見せなきゃダメ。気持ち悪がられる、分かる」
「それは……」
「だから、ほんの少しの人助け。この街から、出ていく。どうせ、受け入れて貰えないから」
そうして彼女は再び腕を人間のものに戻すと、足早にその場から去ろうとする。
「……だれが受け入れないって決めたっすか」
「……」
「たしかに、うちらも人間側だから、その感情を理解できなくないってのは否定できないっす。結局、人は外見の差異で簡単に差別する生き物、そこは否定できないものっす」
そう、否定はできない、けども。
「だからって、うちの商会が受け入れないとは一言も言ってないっすよ。何せ、うちの従業員は元山賊や野盗崩れ、元奴隷に難民と、普通なら受け入れてくれる方がおかしい面々ばかりっす」
そう、うちの従業員はうちを含めて全員、何かしら脛に傷を抱えたバカの集まりだ。バカではあるが、同時に気持ちよく、荒くれ者だが筋を通す連中ばかりだ。
「外見が人と違う?魔族の血を引いてる?んなこと、どうでもいいんすよ。うちらは全員、世の中から排斥された連中ばかり、だからこそ、外見や生まれなんかで仲間を排斥するなんてあり得ない」
自分達がされて辛かったことを、他人にするようなバカはうちの組織には一人として居ない。
「だから……っ‼」
手を伸ばそうとした瞬間、その目の前に勢いよく触手が叩きつけられ、地面が簡単に陥没した。
「あり得ない?そんなことこそ、あり得ない。生きていくなら、誰かを排斥して、蹴落として、そうしてなければならないの、私がよく知ってる」
「アンタ」
「簡単にそんなこと、言うな‼」
そして今度は右腕まで触手へと変化し、合わせて六本の触手が襲い掛かる。
けどたしかにこの目で見た、そう拒絶する彼女の瞳が、微かに涙で濡れていたところを。
「簡単に、か……なら何度だって言ってやるっす」
そうしてうちは背中の大剣を鞘ごと抜いて、迫り来る触手を一撃で全て弾き飛ばす。
刃は抜かない、抜く必要がない。これは、受け入れるための戦いだから。
「うちらがアンタの全てを受け入れてやるっすよ‼」
次回は1/9(木)の更新を予定してます。では、良いお年を




