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異世界でヤクザやってるので、聖女を押し付けられても困るんですが  作者: 双星天魚
第一幕 港湾都市の転生ヤクザ

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異端の麻薬組織(裏) Ⅳ

 『怠惰のグラデュール』は魔族の中でも数少ない、禁術を利用することを許されている魔族だ。

 というのも彼女の趣味の一つが魔族の呪文の蒐集であり、魔王軍最強の魔法使いという立場を利用して様々な呪文を集め、それを研究することが彼女の生き甲斐だったからだ。

 そんな彼女の使う禁術の一つに『空間転移』が存在する。これが禁止された理由は単純に使用する魔力量が桁違いに大きすぎて一人では行えないことと、使用者全員が過去に一度でも行ったことのない場所にはいけないということ、そして失敗すれば体の一部が欠損し、最悪体が上半身と下半身で泣き別れになるという危険性があるという理由からだ。

 が、世界中で一二を争うレベルの大量の魔力を持ち、数多の魔法を操る『怠惰』に限ってはその限りではなく、自前の翼で飛んでいくよりも転移することのほうが多いという。

 なんでこんな話をしてるのかといえば、通信が切れた直後、数秒も経たずに俺の部屋に文字通り転移してきた長身に豊満な肉体を惜しげもなく披露する『怠惰』本人が目の前に現れたからだ。


「相変わらず、知らないやつが見たら痴女みたいな格好だよな」

「直接会って早々の言葉がそれは、サキュバスとしては褒め言葉やって分かっとるよな」

「だろうな」


 サキュバスは地球での伝説と同じく、いわゆる淫魔と呼ばれる女系魔族で、良く薄い本なんかに出てくるような存在とほぼ同じと考えてくれていい。

 そんな彼女が魔法使いとして魔族で最強なのだから、世の中というのは本当に不思議で仕方ないものだ。


「で、その例の魔力石とやらを見せて貰おうかい」

「ん、これだ」


 俺は持っていたそれを彼女に渡せば、どこから取り出したのか右目にモノクルを掛けてしばらく確認すると、


「……間違いないな、小倅の予想通りこれには禁術『魔傀儡の操術』の術式が刻まれとる」

「やっぱりか……「せやけど」ん?」

「せやけど『魔傀儡の操術』は全体の半分のスペースしか使われてない。半分は接続するように別の魔法の術式が組み込まれとる。それも人間側の禁術に近いものの術式や。これを作った連中には相当な腕の術式彫り師が居るな」

「二重術式だと?」


 まさかとは思って予想はしていたが、本当にそんなことができるとは思っておらず驚いてしまった。魔法の知識があるラスティとスピネルにサクラの三人もそれぞれビックリしており、他の面々は首をかしげていた。


「あのアルゼイさん、二重術式というのは?」


 代表して聞いてくるマーガレット姫さまに、俺は分かりやすく答える。


「マーガレット姫さま、大前提としてものに術式を刻む場合二種類の方法があることをご存じですよね」

「それぐらいは。たしか魔力が込められた特殊なインクで描くものと、魔力を込めた専用のナイフで刻むやり方ですわよね」

「その通りです。前者はコスパがとても低いので水道や外灯などの公共的なものに使われることが多く、後者は逆に特殊な技術や技法が必要なことからいわゆるオーダーメイド武具などに使われるやり方です」


 ちなみに俺の体質で完全に無効化してしまうのはだいたい前者のパターンで、魔力を込めたインクの魔力そのものを分解してしまうため、たとえ術式がそのまま描かれていたとしても、魔力そのものが失くなってしまっているから動かなくなったり暴走したりしてしまう。

 逆に後者のものは刻んで使用者が魔力を込めることで発動するので、結界のような常時発動型のでもない限り、効果の範囲内で俺が直接触れたとしても、範囲外に出てしまえば普通にまた使えてしまうという特徴がある。


「今回のこれは後者ですが、その中でもかなり特殊な部類です。何せ、人間側と魔族側、両方の禁術クラスの術式が、接続するように描かれているなんて間違いなく普通じゃない」

「そうなんですか?」

「えぇ、分かりやすく例えるのなら、右手で書類仕事をしながら、左手で剣術を行うようなものです。普通なら難しいどころじゃない、まず不可能に近い」


 さらに禁術クラスの術式は詠唱魔法ですらかなり構築に時間と手間が掛かる。それを彫り込むとなればたとえ一つでも数日以上の手間だろう。

 それを二つも彫り込み、さらに互いに干渉しないどころか接続するようにとなれば最早神業に近い技術が要求される。普通の人間ならば。


「『怠惰』、これは」

「言うまでもあらへんよ、これは魔族側の術式彫りの技や。どうやって人間側の禁術クラスの魔法を知ったのかは分からんけど、これほど精密で狂いの一つもない術式を掘れるのは、人間側の今の技術力じゃ絶対に不可能や」


 断言する彼女の目は面白そうに、しかし同時に厄介なことだと頭が痛そうな表情だった。


「人間側の術式のほうは解析できるのですか?」

「今解析中や、もう少し……あぁ、なるほどそういうことか、そりゃ聖女はんの治癒魔法が効かないわけや」

「?それって」

「刻まれてたのは『リザレクション』の魔法……治癒魔法の中で唯一の禁術指定されとる、限定的に死者を蘇らせる魔法や」


 その言葉にサクラは絶句していたが、俺としては予想の範囲内だった。


「あら、小倅は驚かないんやね」

「治癒魔法が効かないのは、同じ治癒魔法を受けている場合のみ。聖女さまの魔法が効かない時点で、治癒魔法の何かに阻害されている可能性は予想していたが、まさか『リザレクション』なんていう禁術を使ってるのは想定外だった」


 『リザレクション』は治癒魔法の中でも『蘇生魔法』と呼ばれる、限定的な条件がつくが死者を蘇らせることができる魔法だ。

 その限定的な条件は『病死や老衰などの自然死ではないこと』と『死んで十数分以内であること』であり、この限定的な条件がクリアさえされれば死者蘇生が可能になる。

 とはいえ、これだけの破格の魔法がタダで使えるわけもなく、先程『怠惰』が使った『空間転移』の禁術なんて目ではないほどの魔力が必要になるうえに、その魔法の反動として使用者が二度と治癒魔法を使えなくなること、そして蘇生に成功したとしてもこの魔法は肉体を再生するわけではないため、事前に肉体を治療しなければすぐに死んでしまうという欠点がある。

 そのデメリットの大きさと、治癒魔法を独占している教会が死者の蘇生を教義として禁じている事もあって、『リザレクション』の魔法は禁術に指定されており、蘇生魔法の研究をすることすら禁忌とされている。


「つまりギルは魔力石を心臓の代わりに埋め込まれたことで『魔傀儡の操術』が発動し、同時に『リザレクション』が発動されたことで肉体は常に蘇生され続けてきた。さらに麻薬によって感覚が麻痺させられて、結果、廃人のような状態にさせられていた、と?」

「まぁ、平たく言えばそういうことやな」

「……なるほどなるほど、どうやらお相手さんは相当にとち狂った連中のようだな。それも教会の人間も絡んでる……つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 俺は今の今まで押さえ込んできた怒気を解放すれば、うちの幹部連中も同時に真剣に、しかしガチでキレた表情に変わった。


「あ、兄貴‼大変で……ヒッ‼」


 空気を読まずに入ってきた部下の一人が悲鳴をあげて尻餅をついてしまうほどに、全員が濃い殺気を漏らしていた。


「……どうした、急いで報告にくるってことは大事なんだろ」

「は、はい‼旧スラムの連中が暴動を起こしやがりました‼それも確認したところほぼ全員、ヤクをキメたかなんかでハイになってやがります‼現在、衛兵と連携して鎮圧に動いてますが、どういうわけか痛みを感じてないうえに普通の人間じゃありえねぇ力で攻撃してくるんで、対応が間に合ってません‼」

「なるほど、向こうも仕掛けてきやがったってわけか」


 どうやらもうなりふり構っていられないというところか。それはこちらとしても()()()()()


「ラスティ、暴徒の鎮圧となれば指揮の混乱が予想される、親っさんのところの衛兵と連携できるように全体を指揮しろ」

「了解しました」

「エレジア、おそらくこの暴徒の中には扇動したやつがいるはずだ。暴徒の鎮圧と同時にソイツをなんとしてでも確保しろ。死んでなければ多少腕が無くなったりしててもかまわない」

「わかったっす‼」

「リュスクは万が一に備えてこの商会の護衛だ、マーガレット姫も居ることだし、このどさくさで何かをしてくる連中が居ないとも限らない、殺さずに無害化させろ」

「まぁ、それが俺の役目っすよね、面倒このうえないとはいえ」


 俺の指示に幹部三人がすぐに行動を開始する。


「マーガレット姫、スピネルをお借りしますがよろしいでしょうか」

「構わないわ。こんな状況だし、それに貴女が十分に信頼する方が護衛についてくださるのでしょう?」

「ええ、頼れる元暗殺者ですよ。俺なんかにはもったいないくらいに」


 そうしてスピネルに視線を向ければ、彼女はコクりと頷いて伝説の神獣に視線を向ける。


『連中の匂いは我が辿れる。契約者の頼みだ、足として使うが良いだろう』

「伝説のフェンリルを移動用の馬みたいに使うのは、相変わらず気が引けるんだけどな」

『安心せよ、我はその程度の些末事は気にしない』


 俺らが気にするんだが、と言いたいところだが飲み込んでおいた。このやり取りも何度目か分からないし。


「聖女さま、俺らはこれから敵の首魁を捕縛しに向かいます……できれば大人しくマーガレット姫さまと一緒に居てくれると助かるんですが」

「……いえ、私はアルゼイさんたちと同行します。スピネルさんが居るとはいえ、万が一に備えて回復役は必要ですし、何よりあなたが倒れたりなんかしたら、おそらくこの商会はすぐにつぶれてしまいますから」

「……俺が居なくてもなんとかなるようにはしてるんですがね」

「実務としてではなく、精神的にです。少ない時間ですが、皆さんがアルゼイさんを信頼して仕事をしているのは伝わりましたから」


 どうやら聖女さまは多少は状況判断ができるようだ。


「……一応言いますが、俺は必要だと思ったのなら躊躇いなく人を殺します。秩序のためとか、そういう御題目なく、生きるために殺します」

「アルゼイさん、私はこれでも元勇者パーティの一員ですよ、そんなことは私もやってました。盗賊を殺したり、襲ってきた魔族を殺したりなんて、日常でした」

「そうですね、聞く必要無かったですね」


 どうやら彼女も大概、覚悟が決まってる人間のようだ。


「分かりました……なら敵を潰しに行きますか」

「……アルゼイさん、昂ってるせいなのか笑ってますよ」

「いつもの事なのでお気になさらず」

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