異端の麻薬組織(裏) Ⅱ
思ったより文字数が出てしまったので、今回の裏はⅣになります
「いや、それは……」
神獣の言葉にその全員が固まった。否、怠惰だけは面白おかしそうに笑っていたが。
『まぁ妥当なところやろうね。魔族側の禁呪を人間が勝手に解析するんは、こちらとしても避けたいところやし』
「い、いやいやいや、アンタ自分の立場分かってるよな?こっち側で魔族がなんもなしに居たら、それだけで衛兵隊どころか国の兵士が動くレベルだぞ」
『けど、わざわざこうしてワッチまで連絡してきたいうことは、どっちにしろそうする必要があると判断したってことやろ?』
その指摘に事実ゆえ何も言えない。実際皇女殿下をこの場に呼んだ時点でそうなるであろう展開も想定はしていたし、私人としては怠惰この上ない彼女が、自分の得意分野の仕事に対しては一切の手を抜かないことも知っている。
だが、だからといってまだ魔族に対する悪感情が消えてないのが人間側の現状だ。偏見と嫌悪の結果がどうなるのかは、地球の歴史が証明している。
何より魔族が領内に入ればすぐに警報が鳴る。そうなればどうなってしまうかは、最早考えるまでもない。
『アルゼイはん、アンタ、ワッチが変化の指輪の古代遺産魔道具を持ってること、忘れてるやろ』
「いや、それは覚えてるが……確かあれって外見を自由自在に変えるだけの代物だろ」
それこそ彼女がこの街に来てたときも使ってたし、その時は気だるげな冒険者の魔法使いって感じだった。もっとも、運悪く振れてしまったことで強制解除してしまい、結果、魔王軍四天王最強の魔法使いと戦う羽目になったが。
『フッフッフ、あれな、実はちょっと本気で使えば外見どころか魔力の波長まで変化することができるんよね。それこそ、魔族特有の波長から人間側の魔力の波長へ、ね』
「マジか……もしかして、戦争時代にちょくちょく他国の街に行っては遊んでたって話は」
『お察しの通りや。いや~人間側の酒や料理も中々乙なものやったな~』
楽しそうに笑う彼女に呆れてしまうが、そういう実績があるのならと納得することにした。
「あぁもう、そういうことなら転移してきてもらって良いですよ。マーガレット姫さま、よろしいですね」
「本当ならば勝手に魔族と取引することは許されないのですが、今回は犯罪に関わることです。ゆえに条件付きでということでならば許可します」
『ふぅん、聞かせてもらおうやないか』
するとマーガレット姫は静かに笑い、そしてその笑顔が何かをやらかすときに事前に出るそれと酷似していた。
「条件は三つあります。一つ、今回の解析のあと、我が父であるドラバルト王との直接会談を行ってもらうこと。まぁ、これについては国のトップが来るんですもの、国の長同士でしかできない内容もありますでしょう?」
『まぁ、ええやろう。とはいえワッチ一人だけで会談とはいかんから、あとでそういった方面の得意な部下を連れてくるけど、構わないやろうか?』
「えぇ、問題ありません。二つ、今回の件魔族が関わってることはほぼ間違いない案件です。なので、組織潰しの際にその魔族を捕らえる役をしてもらえますでしょうか」
次の瞬間、『怠惰』と呼ばれた女の表情がピクリと動いた。
『お姫様や、それはワッチに、同族の仲間をとっつかまえて差し出せって言ってるように聞こえるけど、間違いあらへんな?』
「では逆にお聞きしますが、魔族の側でも禁呪と呼ばれる魔法を許可なく勝手に使った魔族は、そちらではなんの罰則も無しで許されるのでしょうか」
『……いや、流石にそこまで世も末な状況ではない。せやけど魔族は実力至上主義や、そういったところの法整備が殆どされてないのも事実。仮に今回のも魔族の常識からすれば……うん、殺す他ない』
だからといって、簡単に身内をそっちに差し出すのは話が違うやろ?
そう冷たい表情と言葉で返してきた事に俺は思わず鳥肌がたった。
(流石は今の魔族の国を治めてる女王、迫力は以前にやりあったとき以上のバケモンぶりだよ)
だが、しかし同時に目の前に居るマーガレット姫もまた、まだ女性の地位が低く見がれがちなこの世界で皇女を十年近くやってきている傑物なのだ。
「誤解を無いように申し上げますが、これは我々人間側だけでなく、むしろ貴女方魔族の国としてもメリットがあるということ」
『メリット?』
「はい、犯罪者を現地の国の法律によって処断したということ、そしてそのために魔族が自らその犯罪を犯した魔族を自ら引き渡した、これはかなりの意味があります」
その説明の始まりだけでなんとなく理解したが、地球の歴史については、俺は全く話していないというのにどこからその知識を持ってくるのかが疑問だった。
「まずは我々のメリットとしては、魔族相手に自分達の敷いた法で裁くこと、これにつきます」
『どういう意味かな?』
「言葉通りの意味です、いくら相手が犯罪者だとしても、集団で袋叩きをしていいわけではありません。例えそれが小さくとも大きくとも、自らが作り出した法律によって裁かれる必要がある」
逆に、とマーガレット姫は続けて
「我々人の側で魔族の国で罪を犯したのなら、冤罪でなければどのように処罰してくださって構いません。それが確りと法に則って不正不明が一切無ければ」
『なるほど、言質取らせて貰うで?まぁあのドラバルト王の娘の言う言葉に、他の人間の有象無象が簡単にしゃしゃり出れるとは思わへんけど』
つまらなそうに答えるが目は全然そうじゃない、まるで獲物の強さを測る獣のような、歴戦の猛者特有の観察眼といった視線を刺している。
「そして魔族の側としてのメリット、それは魔族そのものの印象を戻せるようにするということ」
『印象を戻す?』
「今現在、魔族に対する人間への怒りや怨みといった感情は大きい。もし仮に犯罪者ではない善良な魔族の方であっても、人間は理不尽な暴力を振るうでしょう」
『それは……まぁ、そちらの考えも理解はできるわなぁ。何せ戦争で村や街を手当たり次第にぶっ壊してきた自負もあるし、けど戦争というのはそういうもんやろ。負い目はあれど否定されるべきことやないわ』
その通りだ。言い方はかなり悪いが、戦争での非道は全て戦争だったからと、たったその一言で済まされてしまう。いや、済まさないと互いにやってられないのだ。
特に今回の魔王との戦争は俺が産まれるよりも遥か昔、それこそドラバルト王の父であり前王だった彼の人がまだ十になる前……ドラバルト王が今現在四十八歳で、確か前王が三十二歳の頃に産まれた子供だそうだから、実に六十年もの永き時間を戦い続けた来たのだ。実に半世紀以上だ。
人間にしろ魔族にしろ、戦い続ければ疲弊する。肉体的にも精神的にも、それが長ければ長いほどに人の精神や考え方がどうなるのかをも、地球の歴史が証明していた。
「そこは私も否定しません。が、これからは戦乱の世から解放された新しい世界になる。過去の怨みや憎しみを忘れることはできずとも、ともに乗り越える何かはできるはずです」
『なるほど、しかしてそれが簡単にできるとはワッチには思えへんわな』
「ですが過去には魔族と人間が共存共栄していた国や都市が幾つもありました。戦争の開始によってそうでなくなってしまったとはいえ、歴史から言えばまた同じようにできるはずです」
マーガレット姫さまは真剣だったが、対する怠惰の反応はいまいちだった。
『歴史から言えばねぇ……そう簡単に言うけど、その歴史の再現をどこまでやれるのかっていう話しなんよね』
「……」
『別に姫さんの言葉に興味がない言うたら嘘になるんよ、魔族と人間が共存共栄して国交も樹立して、また世界が平和になる……それはそれでワッチは嬉しいと思うし、生き残った魔族も大半はそうやろうな。
けど、それもまた新たな力の魔王が産まれたときに全てが水泡に帰すんや』
姫さんの言う歴史がそう示しとる。そう返す怠惰の目は酷く淋しそうだった。
『うちは魔族の中でも数百年は生きるサキュバスの一族や、当然、戦争以前の世界の様子も色々見てきた。人間と一緒に酒飲んでバカやってる同胞を見たときは楽しそうだって思ったのが……戦争であっという間にその光景が瓦礫に変わった。人間を庇おうとしたからって同族の魔族まで殺してた』
「それは……」
「酷いな」
『上に立ったからこそ、よりあの光景が目に浮かぶようにもなった。もう、あんな悲劇は見たくない……せやから、魔族と人間が関わるのはもう必要最低限だけでええと思うんよ。ワッチみたいな奇特なやつは向かうかもしれへんけど、対外的には交易とか外交だけって感じでな』
そんな彼女の言葉は、過去の彼女の調子を見たことがある面々からしたらありえない、酷く憔悴して何時にも消えてしまいそうな、そんな儚しさが見え隠れしていた。




