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異世界でヤクザやってるので、聖女を押し付けられても困るんですが  作者: 双星天魚
第一幕 港湾都市の転生ヤクザ

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異端の麻薬組織(裏) Ⅰ

 この世界の教会の聖典曰く、世界は三柱の神によって創造されたという。

 三柱のうち二柱は夫婦神であり、同時にこの世界の大地を創造を司る妻の、この世界の空気や水を破壊を司る夫のその身を変化させたらしい。

 そしてその夫婦神の息子とされる混沌を司る神によって管理されているという。


 ある日、混沌の神は世界を反映させるべく生命を産み出した。混沌の神は両親程ではないが創造と破壊、その権能を扱うことができたからだ。

 そして混沌の神は自らの姿に似せながら創造の力である光の魔力を持った一対の人間と、破壊の力である闇の魔力を持った一対の魔族を産み出したとされる。

 神獣は産み出した人間と魔族、その両方を導く存在として産み出され、伝説では遠吠え一つで植物を操り、かつて賢者と呼ばれた人間に知恵を授けたとされる大いなる存在の末裔が目の前の狼であった。


『あれまぁ、こんなところで伝説の神獣はんとお目通りできるなんて、人間側のとはいえけったいなこともあるもんやな』

『それはこちらの台詞であるぞ魔族の新たなる女王よ。我は既に主も魔王の儀式を行っているように思うていたが、その様子ではしておらんようだな』

『せやねぇ。何せ先代の魔王さまと勇者たちの戦いで祭場そのものが壊れてしもうてな、修復もできそうにあらへんし、今後はもう形だけしか行わんやろうね』


 それに、と続けて


『わっちはあくまでものんべんだらりとした生活を送りたいんよ。こんな忙しいだけで得も何もない、むしろ損しかない仕事、さっさと誰かに引き継いで引退したいわぁ』

『そうか……そういうことにしておこう』


 『怠惰』らしい、しかしてそれが誰の目から見てもやせ我慢の貧乏くじを自ら引きにいってると分かる言葉に、その場の全員が苦笑いを浮かべた。


『異界からの癒し手殿、最初にお会いしたときに挨拶をしなかった無礼、まずは謝罪させていただこう』

「あ、いえ、それは構わないんですが……本当に神獣なんですか?」

『いかにも。とはいえ現代に生きる神獣の末裔は我を含めても十にも満たん。もちろん魔族側のものも含めてだ』


 あのリヴァイアサン、ベヘモス、ジズも神獣の一柱だ、と何気なしに答える神獣にサクラはあんぐりとした表情で固まった。


「あ、あのSランクに列せられてる三大魔獣が、まさか神獣だったなんて……」

『まぁリヴァイアサンとベヘモスに関しては魔族側の神獣であったからな。とはいえここ数十年活動をほとんどしてないベヘモスはともかく、あの大海の暴君とまで呼ばれたリヴァイアサンが人間にボコボコにされたのは、さすがの我らも驚いたがな』


 流石は勇者と呼ばれる者よ、と感心してるがとりあえず話が脱線してるので一旦もとに戻す。


「まぁそういうわけで、スピネルと契約してるそのの神獣の力を借りて、数月に一度予備の心臓を作ってもらってるってわけだ」

「それは……でもどうしてスピネルさんが神獣と契約を?」

「スピネルがエルフ族と狼人族の間にできた子供だからだよ」


 俺の言葉の意味が分からなかったのか、サクラは首を傾げた。


『元よりエルフと狼人、その始祖は人と我が始祖たるフォレストフェンリルとの間に産まれた子供よ』

「え、てことは……エルフ族と狼人族は祖先という意味では親戚なんですか?」

『否、正確に言うのなら親戚に有らず。彼らは双子の兄妹だったのだ』


 昔も昔、それこそ教会神話のとある時代、フォレストフェンリルと人の間に双子の兄妹が産まれた。

 フェンリルのような獣の耳と体毛を持ち、魔族にも引けを取らない怪力を持つ兄と、見た目は人のそれでありながら鋭い耳を持ち、人の側で魔法を産み出したとされる物静かな妹。

 後に子孫たちが狼人族やエルフ族と呼ばれる彼らは、ある出来事を境にそれぞれが別の場所へと旅立ったとされているが、教会の書物には記されていない。


『彼ら兄妹はとても仲が良かった、歴代の記憶を継承している我が言うのだから間違いない。が、数十年後に悲劇は起こった』

「悲劇……ですか?」

『世代で言うのなら曾孫の頃か、あるエルフの女と狼人の男の夫婦が誕生し、子供が産まれた。夫婦は先祖である双子の兄妹にその子供を見せた。産まれたのはエルフの子供で、将来は魔法使いとして弟子にしてもらおうと話していた。が、その子供は早くに亡くなってしまった。夫婦は悲しんだが、それ以上に双子はエルフと狼人の間に産まれた子供がどういうわけか早世してしまう話を何度も聞いた』


 さすがにこれはおかしい、そう思った双子はすぐに原因を調べ、そして気づいた。


『エルフと狼人の間に産まれた子供は、必ずフォレストフェンリルの力を先祖返りとして受け継いでしまう。強靭無垢な肉体と、並みの人間や魔族など簡単に霞んでしまう魔力を持ってな』

「あ、もしかして、『過剰魔力障害』ですか?」


 彼女の言葉に神獣はコクりと頷く。

 本来魔力は人間にも魔族にもそれそのもの自体では毒ではない。むしろ努力をすることで自分の使える魔力量を増やしたりすることもできる。

 が、極々希な事例ではあるが、生まれつき膨大な魔力を持つ子供が産まれることがある。そういった子供の場合、扱える魔力量が多すぎることと、過剰すぎる魔力が体内を汚染してしまい、最悪の場合命を落とす危険性がある。

 スピネルもまさにそれで、正直目の前の神獣の助けと俺の心臓の特性が無ければ間違いなく死んでいたのは難くない。


『本来魔力の多すぎる子には限界近くまで魔法や魔力を使わせるのが常道とされているが、先祖返りの場合は異常なほどに魔力の回復が早すぎるという点もあり、結果、神代のころに産まれた先祖返りは長く生きても十にも満たなかった』

「だから、互いに離れた?」

『そうだ。互いにエルフと狼人それぞれを連れて旅立ち、互いが夫婦になることを避けるようになるよう、忌み嫌うように持っていったのだ』


 そこまで神獣が話し終えると、俺のとなりに居たリュスクがなるほど、頷いた。


「あぁ……だから狼人の村やエルフの里では互いの子を産むのが禁じる伝承が、それこそ面倒になりすぎるほどあるわけっすか」

「あれ、リュスクは知らなかったんだっけ?」

「直接聞くのは初めてっすね。そこの狼が神獣なのは聞いてたっすけど」


 そういえばリュスクを引き入れたのはスピネルを助けてからしばらくしてだったなぁ、と思い出す。


「あれ、でも兄さんの心臓を再現するって言ってましたけど、今の兄さんの心臓は元々スピネルのだったんすよね?どうやって再現してるんです?」

「あぁ、それは単純明快でだな、契約で心臓を入れ換えるときにそこの神獣が俺の心臓を解析、分析して魔法で完全コピーしてるんだ」


 俺の体質である『魔力阻害体質』は基本的になんでも魔力に関することは分解して無効化するのだが、幾つかの条件によってはそれを無効化してしまうことができる。

 一つは圧倒的な魔力物量で分解される側から再構築するごり押し、もう一つは俺自身の魔力で構築したものは阻害することはできない。

 目の前の神獣がやったのはもちろん前者で、人間なんて目ではない魔力の塊な神獣だからこそできた芸当だ。


『元は万が一契約者が再度魔力汚染になった際の保険だったのだがな。再発はしておらんし、結果として数ヶ月に一つ、しかし万が一に備えて最新のものに取り替えてもらっている』

「すまないな、貴重な心臓をスピネル以外に使わせてしまって」

『構わぬ。使ったのならまた創れば良いだけのこと。使わずに廃棄してきたものと比べればまだマシよ』


 どこか皮肉染みた返答だった気がするが、ふとあることに気づく。


「ところでさ、この魔力石に刻まれた術式って分かったりするか」


 俺はギルから回収した魔力石を目の前の神獣に見せる。俺の体質では魔力そのものは分解できても、物理的に刻まれた術式までは解体できない。


『ふむ……見たこと無い術式ではないが、あくまでもそれが合っているかは分からん』

「いや、それでも構わないんだが」

『情報というのはあやふやな知識で扱うものではないというのはアルゼイ、貴様自身が重々承知してるはずであろう』


 にべもなく、しかして正論で返された俺だったが、目の前の狼はニヤリと笑った。


『だが、そこな新たなる女魔王ならばこの(くだん)に最も相応しき知識を持つであろうな』

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