異端の麻薬組織(表) Ⅱ
11/28のなろう注目度連載中ランキングにて63位をいただきました。皆様ありがとうございます
これからもなるべくペースを崩さずに頑張っていきたいと思います
「お待たせしました兄さん‼」
時間にして2分ほどでラスティさんを見つけ、彼が倉庫から何やら厳重に封印されたケースを持って再び部屋へと戻ると、そこにはスピネルさんとエレジアさん、そして見慣れないフードを深く被った青年の三人がアルゼイさんと少年を囲うように何かの準備をしていた。
「遅いぞラスティ。今はとにかく時間がない、それをこっちに渡して、あとはスピネルと協力して魔法による遮断結界を展開してくれ」
「分かりました」
「サクラ、悪いが手伝ってもらう必要があるからギルバートを挟むように俺の前に座って、治療用の結界を頼む」
「は、はい‼」
その指示通りに私は移動し、すぐさま言われた通りの結界を展開すると、それに合わせるように二種類の魔法と物理の遮断結界が私達を覆った。
そしてアルゼイさんはラスティさんから受け取ったそれを自身の横に起き、慎重な手付きでケースを開いた。
「え⁉」
そこに入っていたのはなんと、どう見ても人間の心臓だった。いや、正確に言うのなら結界に覆われた心臓であり、まるで生きてるかのように鼓動を繰り返していた。
「あ、アルゼイさんそれは?」
「俺の心臓を、魔法で模造コピーした特殊な移植用の心臓だ。十年近く前に作ったものの、使うことがなかった特別な代物でな、これを移植すれば肉体の魔力汚染をほぼ完全に分解できる」
まさかの言葉と聞き捨てならない言葉に驚く他なかったが、とりあえずは一旦それは置いておく。
「ということは、これから開腹手術をするというわけですか?」
「いや、開腹はしないが、俺が使える数少ない魔法でギルバートの心臓の代わりになってる魔力石と、この移植用の心臓を転移交換する。成功すれば移植用の心臓を覆ってる結界の術式が正しい血管と血管同士を結び付けて、自動的に修復してバイパスを通してくれるようになってる」
簡単に言ってるが、それはそれでかなり高度な術式と知識が必要になると思っていれば、彼の表情はさらに真剣になる。
「もちろん、これはかなり難しい術式でもあるし、細部の調整は本当にミリどころかミクロ単位の誤差も許されない。しかも失敗すれば間違いなくギルは死ぬ。これをやるのは本当の本当に最終手段なんだ」
「そ、それは」
しかも聞けば術式そのものの成功率は一応八割ではあるが、それは心臓が定着した場合の話であり、拒絶反応や魔力石を抜いたことによる体内魔力の暴走も考えれば、成功率は四割強ほど。八割から半分近く落ちている
「どうしてこの少年に、そんな方法を?」
「……その説明についてはあとでするが、何よりもこいつは俺のことを慕ってくれていた。勉強も熱心にしてたし俺に憧れてるっても言ってくれた。同じ孤児だったからな」
「……」
「なによりアイツ……そこの寝そべりながら周囲を警戒してくれてる狼が、助かる可能性も少ないっていうのにわざわざ連れ帰ってきた。かなり遠くまで移動して、かなり手間がかかる、体に埋め込まれた魔力石の暴走を起こさないように細心の注意をしながらだ。
なら、ギルの憧れとして、助ける手段があるのなら助けてやりたいって考えるのが人道だろ」
「……そう、かもしれませんね」
呆れてしまうほどに愚直なその言葉に納得すると、彼はケースの心臓を取り出して目を瞑った。
「……これから体内に埋め込まれた魔力石の封印およびその回収、並びに模造心臓の転移結合術を行う。聖女サクラ、術式中はこの結界を良いと言うまでずっと張り続けてもらうが、大丈夫か」
「平気です。この程度の結界で良ければ三時間は余裕で展開できます」
しかもここは戦場じゃないし、敵が不意打ちで襲ってくるような場所でもない。
そんな場所で結界魔法を張り続けるだけならばむしろできないほうがおかしい。
「なら結構……始めるぞ」
そう言うと彼は一つ深呼吸を挟み、そして唱いはじめる。
「円環の陣、闇の炎、集いて繋ぎ、集いて紡ぎ、集いて変わり、汝天秤の皿を入れ換えるもの
我が右手には救いを、我が左手には罰を、空の間を担うは我が意思なりけり……」
「詠唱魔法……」
本来この世界の魔法には基本的に詠唱は必要ない。魔法はイメージで発動するものであり、行程としては必要な魔力を込め、どのように発動するかをイメージで固めることで発動する
もちろん魔法使いが未熟だったりする場合は別で、詠唱をすることでイメージを固めて放つ、これを繰り返すことで本来は詠唱が無くても発動できるように訓練するらしい。
が、物事には必ず何かしらの例外がある。古代魔法のような特殊な魔法や、今回のように他人の体に直接、物理的に働きかけるような魔法がそうだ。
わかっていたとはいえ、闇属性の詠唱魔法の発動の準備の段階の今でさえ、その発動のための濃密な魔力に充てられて、少しだけ酔いを感じてしまった。
「代償は内より、我が祈りにて我が力を糧とする
君臨、招来、賛美、蹂躙、相反する摂理の導より、我が業と願いを今顕現させる‼」
そうして詠唱が完了したのか眩い紫色の闇属性魔力の輝きに目が眩んだと思えば、眼を開けば彼の手にしていたのは先程までの結界に覆われた心臓ではなく、血液が付着した気味の悪い赤い魔力石だった。
「ふぅ、あとは拒絶反応とかが起きなければ問題なしだな」
「えっと、てことは成功した……んですか?」
「一応な。今なら治療魔法が効くはずだ」
そう言われてすぐに確認してみれば、たしかに今度はちゃんと治癒魔法の解析が通り、暴行等の傷害の他に、彼から聞いていた通り麻薬の中毒症状が確認できた。
「えっと、どうやら私の魔法で完全に回復させることは可能みたいです」
「本当か?」
「えぇ、麻薬症状もまだ軽傷に近い部類ですから、定期的に治療をすれば普通の日常生活は可能になるとは思います」
もちろん完全に治るわけじゃないし、麻薬はそもそも脳を破壊してしまう。魔法で破壊された部分を治すこともできるが、それによっては記憶傷害や人格傷害などが起こる危険性は否定できない。
麻薬中毒者特有の精神的高揚への依存も治るかは未知数だし、やはり要経過観察といったところだろう。
「それで、幾つか聞きたいことがあるんですが、大丈夫ですよね」
「もちろん、ここまで色々と出してしまったからな。聞きたいことは山ほどあるだろうさ」
「なら、まず最初に聞きたいのはギルバートくんに治療魔法が効かなかった、その理由からでも」
いいだろう、と彼は周りに張ってあった結界を解除させながらそういって答えた。
「まず前提として、ギルバートはさっきまで半分生きて半分死んでるような、そんな状態だった。人間なら必ずあるべき心臓を抜かれて、その変わりに特殊な術式を加えたこの魔力石を心臓の代わりとすることで、埋め込んだ人間を魔力で動く……一種のゾンビみたいな状態だったんだ」
「魔力で動くゾンビって、だから治療魔法が正しく発動しなかったってことですか」
「そうだ。心臓が抜かれてるんだから肉体は死体も同然、治療魔法は本来死人にかけても何にも反応しないんだが、肉体は死体同然でも精神や肉体の内側は魔力石の術式で正常に稼働している、だから治療魔法を使っても健康体って出てきたわけだ。間違いなく、擬装の術式も組み込まれてるな」
なるほど、そういうことならば理解はできる。けど、
「なんでそんなことを知っているんですか。少なくとも私はこういう術式を聞いたことがないんですけど」
「そりゃ当然だ。俺だって正直なところ確認して頭を抱えたくなったよ。何せこの術式、魔族で伝わる禁忌の業の一つだからな」
「魔族の禁忌⁉」
曰く、元々は戦場で死んだ敵の死体に特殊な術式を幾つか組み込んだ魔力石を埋め込み、情報収集や遠隔操作による自爆でダメージを与える戦略級の術で、そのあまりの凶悪さと手軽さから戦争では重宝されていたらしい。
現在ではこれよりもさらに手軽になった死霊魔法などの発達で廃れているが、幾つかのデメリットさえ除けば間違いなく魔族の魔法の中でも最強最悪の魔法の一つに数えられているそうだ。
「それでなんで知ってるかって言われれば、これまた単純な話でな……この術式は見たことがあるんだよ、一回だけな」
「見たことがあるって、どこで?」
「俺らが『怠惰』と戦ったことがあるって話をしただろ。それで引き分けたって話も」
たしかにそれは聞いたが……まさか
「まさか『怠惰』が使ってたんですか‼」
「正確にはこの術式……『怠惰』曰く『魔傀儡の操術』っていうらしいんだが、奴はそれを改良して自分と同じ魔力、筋力、肉体を持つ複製人形に自分の魔力と術式を組み込んだ魔力石を入れた複製体をいくつも飛ばして、各地各地で諜報活動をしてたんだよ。まぁ、諜報っていってもほとんど食い倒れしたり賭博場に入り浸ったりと、娯楽方面ばっかりだったが」
「へ、へぇ……」
まさかの内容に唖然とし、そして沸々と怒りがわいてきた。
つまり、あの『怠惰』は私達が必死になって魔王を倒すために各地を回っていたというのに、自分は悠々自適に遊びまくっていたと、そういうことなのだ。
「だが、そうだな……ここは直接『怠惰』に問い合わせる必要がありそうだな」
「え、問い合わせる?あの『怠惰』と直接連絡がとれるんですか‼」
「そう何度も使えるもんじゃないけどな」
ちょっと待っててくれ、そう言って部屋を出る彼に、どこが一介の闇商人の長が国王クラスの重鎮と複数面識があり、なおかつ直接連絡できるかと突っ込みたくなった。
「っと、その前に」
「?」
「マーガレット姫を連れてきてもらえるか?もしかしなくても王家の許可がいる自体になりそうだからな」
改めて皆様、ありがとうございます




