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異世界でヤクザやってるので、聖女を押し付けられても困るんですが  作者: 双星天魚
第一幕 港湾都市の転生ヤクザ

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それぞれの一日(裏) Ⅲ

「アルゼイ商会長、君が述べてる言葉の意味がわかっているのだろうかね」


 驚き、呆れ、怒り、その他様々な感情が表情に出てるジェバルダン卿のその言葉に、俺は冷静に答える。


「正確に言うのなら木炭の製造事業を国家主導のものにして欲しいということです。その木炭の管理、維持、流通に関しては協会で行ってもらうのが最適でしょうが」

「それぐらいは言われんでもわかる‼なぜ我々の事業をそっくりそのまま国に渡さねばならん‼我々から利益を奪うつもりか‼」

「そうではありません。単純に、木炭という燃料そのものの役割が、一協会で対処できる領域を越えてしまう可能性があるのです」

「我々の対処を越える……だと?」


 老親士の疑問に、俺は改めて説明する。


「時にジェバルダン卿は、木炭についてどれぐらいの知見を得ていますか?」

「何を言うかと思えば……薪に比べて火力は低いが、長時間燃焼することができるうえに、薪に比べて場所を取るスペースが少ないと聞いている」

「えぇ、そのメリットの2つが問題なのです」

「?どういうことですか、アルゼイ商会長?」


 マーガレット姫様の問いに、俺はこれは国家機密になりますが、と前置きしつつとある事業の事を話す。


「マーガレット姫様は、この国の海軍が新しく編成されるという話をご存知ですか?」

「え、えぇ。詳しいことはまだわかりませんが、たしかまた魔族が攻めてきたとき、または他国が我が国に海から攻めてきたときに対応するためにお父様が新しく作るという話をしていた気がします」


 マーガレット姫様の言うとおり、我が国は国土の岸……つまり国境線の1/3が海に面しており、万が一海から攻められた場合の防衛手段が現状未発達という問題点があった。

 そこでドラバルト王は数ヵ月前、勇者パーティが魔王と最終決戦を行うためにリヴァイアサンとの決戦を行って暫くの後にこの国に海軍を作ることを決め、俺らアラエル商会もその海軍設立に協力をしているのだ。


「もしかして我が国最高の職人達が王都に集まっていたのは、噂に聞く戦艦なる海で戦うための船をつくるためですか?」

「その通りです。私はその戦艦作りのほうに一枚噛んでおりまして、その伝でドラバルト王や戦艦のほうの技術者達から少し話を聞いただけになりますが、どうにもその船の動力炉は複合魔力炉……魔獣から取れるという高濃度の魔力石による魔力と、薪による燃焼エネルギーを複合、もしくはどちらかをメイン、どちらかをサブのエネルギー源として動かす最新の方式を採用しているそうです」


 なんでそんな詳しいことを知っているのかというと、この船を作るための工房……つまりドックがうちの商会で使っている大型交易用貨物船の製造用ドックを王国がレンタルしているからだ。

 王様から直々にこの話を貰い、国家防衛のためということで仕方なくドックを貸していたわけなのだが、前々からその最新動力炉に関してとある問題に直面していたのだ。


「それについては我らも造船用の木材を搬入しておりますし、船自体の設計や造船については順調と聞いておるが……ある問題だと?」

「簡単に言えば燃料の搭載量に対して、航行可能距離が短いことです。その理由が一言で言えば薪を使うことにあります」

「我らに喧嘩を売ってるのですか……我々が卸している薪の質が悪いと、そう言いいたいのですか‼」


 怒り心頭という表情のジェバルダン卿に対して俺は大きく首を横に降った。


「いえ、そうではありません。薪の質事態に問題はありませんでしたし、動力炉の設計についても幾人もの技術者達が検討を重ねた結果問題はありませんでした」

「ではどうしてだというのですか‼」

「結論から申し上げるとら先ほどあなたが木炭について話したことと真逆なんです。薪がそもそも船においてはスペースを取りすぎること、そして燃焼時間が短いこと……それが問題なのです」

「真逆?……あ……」


 俺の出した答えに一瞬疑問に思った彼だが、さすがは歴戦練磨の大商人、すぐにこちらが言いたいことに気づいたようだ。


「なるほど、確かにそれは気づきませんでしたね」

「えっとファレルさん、どういうことか説明していただいてもよろしいでしょうか」


 少し遅れて気づいたファレルさんの言葉に、さすがにその道にはまだ詳しくないマーガレット姫様が質問すれば、若き協会のエースは笑顔で答えた。


「えぇ、まず前提として船というのは動かすのに動力が必要になります。小型の帆船程度ならば風と波を操ればなんとかなりますが大型船……アラエル商会の大型交易船のようなものになりますとそれ相応の動力源が必要になります」

「ちなみにうちの大型交易船の場合は魔力式動力炉……魔物から取れる大型魔力石に術式を施したものに、小型の魔力石の魔力を流入させることで動力部に伝達させる仕組みになってます」


 最大積載重量は150t程度だが、うちの貿易先で最長距離にある港まではおおよそ3800kmを4日かけて航行し、そこに使う魔力石の量は片道でおおよそ50t相当の小型魔力石を利用する。


「ここで問題なのは戦艦に使われる動力が薪という燃料も使うことです。魔力石はたとえ小さくともかなりのエネルギー密度を誇っていて扱いも容易いですが、同時に自然経過で魔力が抜けてしまう性質を持ちます。なので、使用するまでは専用の魔力充填室で魔力が石から漏れないようにするわけです。

 しかしこの魔力充填室というのは今の技術力ではそこまで大きい部屋を作ることができておらず、最大積載量もまだ1000tあるかどうか、大半の燃料を薪で補わなければならないことになります」


 ちなみに前世の自衛隊の船や戦艦については知らないが、もっとも大きいサイズのコンテナ船での燃料容量は約1万2000立方メートル……つまりは1万2000tぐらいになるそうで、それも石油燃料でなのだから、明らかに燃料効率の劣る薪では少なくともその倍近くは最低でも必要になるのは素人の俺でもわかる。

 ここに船を動かすための人間に白兵戦力、さらに大砲に砲弾、そして人間が動かすのだから食料や水も用意しなければならない。

 なるべく速度を早くするために船を軽くしなければならないというのに、これだけでかなりの重量になってしまう。

 

「えっと、それのなにが問題なのでしょうか」

「大アリです。戦艦というものの詳しいことは分かりませんが、海の国境警備に利用するということは、当然ながら長期的に航海をする必要があるということです。それこそ一度陸を離れれば一月近く陸に戻らないということもあり得ます」

「ひ、一月もですか⁉」


 姫様は驚いているが、前世の地球での海上自衛隊の船乗りは、一回の航海で最長半年近く海に居続けることもあるし、遠洋漁業の船なんかも長いときで同じぐらいの期間海に出ることになることを考えれば、一月程度はまだまだ短い部類だ。

 が、まだ大型の交易船という存在そのものが世に出て数年しか経ってない状況で、なおかつ前世のようにエネルギー効率が薪や石炭等の固形燃料に比べて大きい石油のような液体燃料がまだ見つかってないこの世界で、一ヶ月の連続航海というのはかなり異常なものだというのは、その道に素人のお姫様でも理解できたようだ。


「そんななかで薪と木炭では船に積載するスペース、重さが段違いに変わります。同じ重量の薪と木炭を積む場合、木炭に比べて薪は約1.5倍以上のスペースが必要になるでしょうね」

「1.5倍ですか……それだと航行可能な日数で言うとどれぐらいの違いになるのでしょうか?」

「俺もそこまで詳しくはないのではっきりとは言えませんが、動力炉の燃焼推進効率や船体の積載重量も考えれば……おそらく同じ重量を積んだ場合は十日以上の差がつく場合も考えられます」


 もちろん木炭のほうが長いです、という俺の答えにマーガレット姫様もようやくことの重大さに気がつかれたようで驚いてるが、俺としては理由がもうひとつ存在する。


「何より木炭を作るにも薪が必要になる、そうなれば薪として木を切る量も単純に二倍、これから先は建築用にも木材が高騰するであろうなかで、これはかなり不味い状況です」

「……で、あろうな。木を切るというのは単純ではない。切りすぎれば山や森の生態系を崩して凶悪な魔獣が人里に降りてくる可能性もあり得るし、植林も植えたからといって成長するには十数年以上の時間がかかる」

「なにより木を切りすぎれば山崩れが引き起こされる危険性もあります。幸いにもこのメギリムはうちのNo.2であるラスティや衛兵隊の魔法使い達が定期的に魔法で確認して貰ってはいますが、そういうことをしている領地はそう多くありません」


 もし万が一山崩れが起きれば、それを対処するのは領主だけでなく国もだ。そうなれば莫大にもなる金が動くことになり、それだけ経済が滞る事になる。

 だからこそ、木炭事業に関する木の伐採に関しては王国と共同による綿密な計画が必要になる。

 国としてどれぐらいの量が備蓄として必要になるのか、国民達の需要はどれぐらいあるのか、そしてそのためにはどれぐらいの木を伐採しなければならないのか、それを踏まえて計画しなければならない。


「なるほど、これはたしかに我々協会だけでやるには危険も多くなりそうだ」

「加えて木炭作りはかなりの量の薪を燃やすわけですから、短期的ならばともかく長期的に、それも街ひとつで集中的に行ってしまえば、公害が起きて病気が蔓延してしまう可能性も低くはありません」

「その問題もありましたか」

「えぇ、それを考えれば主導の名目は私であっても、お父様や宰相閣下の判断は必要不可欠になります」


 ここにいる全員がこの問題について理解したことに安堵すると、ジェバルダン卿がその鋭い視線を空に向けて仰いだ。


「これは我らが支部だけで解決できる案件ではなくなってしまったな」

「えぇ支部長。この件に関しては協会の本部とも掛け合う必要があるでしょう」


 二人のその言葉に「では?」、と問いかければ二人の視線が少しだけ和らいだ。


「良いでしょう……その条件を受け入れましょう。ただし、木炭の販売価格についてはおそらくこれによって王国による決定があるので安くするのは、ほぼ不可能でしょう」


 それはそうだ、何せ海軍に使われるような物資だ。小麦のように王家が販売価格を管理するようになるのは間違いないことだろう。


「ですので、それ以外の形……例えば木炭の製造工房における護衛料やそれに伴う開拓に関する人員の手配の発注、薪の卸値を下げるような形になるでしょうが、いかがでしょうか」

「えぇ、まぁ具体的なことに関しては改めてうちのラスティが交渉することにはなるでしょうが、大枠ではそれで結構」

「分かりました。ファレルくん、君はこの件について書類に纏めてくれたまえ。あぁ、責任者名は君で構わない。私はそれを持って本部に提出する……失礼ながらマーガレット姫様、王室への根回しのほうはお任せしてもよろしいでしょうか」

「構いませんわ。いまは公務ではなくあくまでも私人としてこちらに滞在してますが、王都に戻りましたらすぐに父や宰相閣下に話を持ち込みますので、よしなにお願いしますわ」


 こうして木炭に関する交渉は、一先ずは成功という形で幕を閉じる形になった。

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