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異世界でヤクザやってるので、聖女を押し付けられても困るんですが  作者: 双星天魚
第一幕 港湾都市の転生ヤクザ

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それぞれの一日(裏) Ⅰ

 聖女サクラが醤油もどきに狂喜乱舞していたころ、そんなことになってるとはおくびにも思っていなかった俺はマーガレット姫とスピネルを供だってとある組合へとやって来ていた。


「ここがその木炭とやらを販売している森林組合ですか」

「えぇ、この国で薪や建築用の木を専門に収集、販売している大組織の、この港湾都市における支部ですね」


 彼らは組合内に専属の木こりを雇い、住宅建築用の木材を山から採取したり、地滑りの予防として間伐を行ったり、はたまた伐ったあとの植林までこなす、樹木に関するエキスパート集団だ。

 その内容ゆえに国営の組合でもあり、国内のほぼ全ての森林に関する情報を網羅しているが、同時に支部とはいえ、世界規模の組織でもある教会ですら国内に限れば対等に渡り合える地位を保持している、はっきり言って俺らなんかよりも明らかにヤバい組織だ。


「それにしても、たった一週間で彼らと会合を開けるように調整するなんて、いったいどうやりましたの?」


 案内された客間にて、出された東の国の紅茶をいただきながら姫の問いに、俺は簡単な笑みを浮かべながら答えた。


「なに、今回の目的のものについて、向こうがあまり好印象を持ってないようだったので、ちょっと利権ごと貰おうと思いまして」


 勿論本気じゃない。俺らはたしかに商売人ではあるが、他人のふんどしをつけて商いするほど厚顔無恥ではないし、何より今の財政と人員じゃ、それができるほどの余裕もあまり無い。

 が、相手からすればそうは見えない。こちらはたかが一支部の一商会にすぎないが、同時に王室御用達であり街一つとはいえ裏と表両方を牛耳る組織からの商談だ。

 いくら自分達の方が格上だとしても、向こうは支部で、こっちは商会長自らの商談となれば、相手からすれば受けないという選択肢は取れない。

 それが自分達にとっては比較的どうでも良いものだとしても、相手の実績や業績を考えればそうできない。

 だから真意を知りたくなり、結果としてたった一週間というわずかな時間でこうして商談に漕ぎ着けることになったのだ。


「それに普通なら相手が行商人でもなければ大型取引の場合、事前に相手に文書を送って送り返して、その間に調べるんだが、今回はこちらからの手紙で先にマーガレット姫をオブザーバー……第三者としてきて貰うことも書いておいたからそれもあるだろうな」

「ありますね絶対。王家にも対等に渡り合える組織とはいえ、たかが支部の人間が王女殿下が間に入ると書かれれば、大抵の人間は出てこざるをえないです」

「その言い方ですと、私はまるで釣り針のエサのような扱いですわね」

「お気に触るようならば謝罪しますが?」


 そう言うとマーガレット姫は楽しそうに微笑むだけでなにも言わない。

 こういうところは本当にドラバルト王に良く似ていると、常々思ってしまうその態度に肩を竦めるしかなかった。


「アルゼイさん、わかっているでしょうが私の名前を出したということは、この商談に勝たなければ私の顔に泥を塗ると同義であると、理解しておりますわね?」

「勿論。ですが一つ訂正をば」

「なんですか?」

「泥は種類によっては美容に良いものもあり、肌を綺麗に保つ効能があるそうです。姫様には関係ないですが、中にはニキビが出来にくくなるようにしてくれるものもあるとか」


 前世の聞きかじり美容情報を流した途端、姫様の表情が笑顔から一瞬で真顔になった。


「いまのは嘘ではないのよね?」

「私も伝聞の聞きかじりですので詳しいことは良くわかりませんが、前世では泥パックなる美容方法があったと記憶してます。なんでも顔の皮膚にある余分な油を取ってくれるとかなんとか」


 むしろそういう美容関係はどちらかと言えば聖女サクラさまのほうが男の俺よりおそらく知ってると思いますよ、と伝えれば王女の顔から笑みが溢れる。

 ただし、普通に綺麗な方ではなく、獰猛な笑みという但し書きがつくような猛獣の笑みだったが。

 とりあえず内心でサクラに対して詫びていると、()()のノック音が聞こえてきた。俺がどうぞ、と応えれば入ってねたのは二人の男性。


「初めましてアルゼイ商会長にマーガレット姫殿下。この支部の長を勤めております、バルグリウス・ジェバルダンと申します」


 片方はいかにも歴戦練磨の大商人といった風貌にモノクル、そして同時に顔に無数の傷をつけた偉丈夫とでも言うべき老人。


「マーガレット姫は初めまして、アルゼイ商会長はお久しぶりですね。アラエル商会の担当を勤めておりますファレルと申します」


 そしてもう片方は商会設立当時から付き合いのある森林組合の商談担当であり、三十半ばで若手のホープとも呼ばれる美青年。


「初めましてジェバルダン卿、まさかファレルさんだけでなく支部長自ら商談の場に現れるとは思ってもおりませんでした」

「なに、お忍びのオブザーバーとはいえマーガレット姫が来るとなれば、それ相応の商談になるのは間違いないからな。

 それに、いくらファレルくんが若手の中では出世株だとしても、そこまで大きなものを扱わせるのは、ちと他の役員連中が黙ってないだろう?」


 なるほど、と一先ずは納得する。

 理由は理に叶ってるし、商談に対する嗅覚も鋭い。同時に、港湾都市最大の商会のトップがどのような人間か直接確認しにきたのだろう。

 抜け目の無い、そしてある程度信頼できる相手の登場に少しだけ厄介に思うが、同時に相手の本気度も伺える。


「ファレルさんも直接は久しぶりですね。最近はウチの部下と折衝や商談をしているそうですが」

「えぇ、アラエル商会も規模が大きくなりましたからね。ラスティさんとは月に2度ほど、定期的に商談をしてますし、プライベートでも仲良くさせていただいてますよ」


 そう和やかに話す彼だが、その裏では利益をしっかり得るためのあれやこれやを無数に考え、そしてその手腕でうちの成長を後押ししてくれた抜け目の無い人間であることも知っている。


「初めましてお二方、国王ドラバルトが第三女、マーガレット・ウズ・フェムリアと申します。今回は第三者として、そして王国にも関連するであろうこの商談の調停役をさせていただきます」

「いえいえ、我がフェムズ王国の至宝にあらせられる姫様と、このような形で拝することができるなど、ファレルを含め思ってもおりませんでした」


 にこやかに、しかして隙を見せまいとする老人の姿に姫様もにこやかに、そして目の前の老人にも負けないほどの圧力を見せる。


「やれやれ、厄介な場所に巻き込まれましたねファレルさん」

「それは自分の台詞ですよアルゼイ商会長。あなたと直接関わる案件だと毎回毎回、内容が大きすぎて胃もたれしそうになりますよ」

「ハハハ、自分などたかが地方都市の一番大きい商会の長というだけですよ。ファレルさんも出世していけば、自分以上の化物商人と話す機会なんてごまんとありますでしょうに」


 勘弁してください、と疲れたように返す彼だが、その表情が隠しきれてない笑みに歪んでいるのを俺は見逃していない。


「さて、時間も限られてますし挨拶はこの程度で……といいたいところですが、その前に個人的な用件から済ませてもよろしいでしょうかジェバルダン卿?」

「ふむ、それは構わないが、個人的な用件とはなにかね?手紙には書かれていなかったが」

「ちょっと裏に関わることなんで、迂闊に文書にしたためるのが危ぶまれる内容でして。あぁ、別に裏取引みたいな後暗い用件じゃないですよ、ただの情報収集です」


 俺がそう言えば、ジェバルダン卿はその立派な髭を摘まみながら、


「それは最近君のところの逆鱗に触れた、麻薬売買と違法奴隷売買をしてる組織についての、ということかね?」

「流石はジェバルダン卿、たしかな情報網をお持ちのようで」

「なに、私もそこまで情報通というわけではないがね。良いだろう、この街の裏の番犬を担ってる君たちだ、あとの商談に色を乗せてくれるというのなら分かる範囲で答えよう」


 抜け目無いと思いつつも、とりあえず情報がほしい俺としては頷くしかなかった。


「分かりました。では緑と波、イチョウと剣、これに関係する街や場所に心当たりはありますか?」

「ふむ?どういうことかね?」

「先日捕まえた違法奴隷商人が、俺らの逆鱗に触れたアホどものトップが裏オークションで着ていたスーツや小物について、教えてくださいましてね。

 その内容と言うのが緑のスーツに波模様の仮面、イチョウと剣を象ったタイピンとのことでして。森林組合の支部長であるジェバルダン卿ならば、それに当てはまる何かをご存じではないかと」


 その問いに目の前の老人は少しだけ考え込むが、すぐに答えた。


「緑と波については私にはわからないが、イチョウと剣はおそらくこの街から見て王都方面とは逆の隣国方面、その街道の途中から外れた場所にあるテシュピル山脈のことだろうな」

「テシュピル山脈……ですか?」


 名前ぐらいは聞いたことがある。たしか世界でも珍しい、山の中にドワーフが坑道を掘ってるうちに作られていったという鉱山都市アンカド、それがある巨大山脈であり、山自体も木々が生い茂る綺麗な場所だという話だ。


「テシュピル山脈にあったとされる村にはかつて、巨大なるイチョウの大樹と、その根本にそのイチョウをこよなく愛したとされるドラゴンが捧げたとされる剣が刺さっているという伝説があったそうで、それを示すかのようにテシュピル山脈の一部はイチョウ以外の木が全く存在しない場所があるのです」

「伝説……ですか」

「えぇ、実際その地域ではイチョウの木の実を神聖視していたそうですし、秋の季節には生体のドラゴンが毎年やってきているそうです。

 もっとも、魔王軍との戦争で村は壊滅状態となり廃村に、その地区が今どうなってるのかは私は知りませんが」


 ジェバルダン卿の言葉に納得し、その情報を脳に記憶する。直接の繋がりがあるかはまだ不明だが、少なくとも情報の一つとしては有用だとは思う。


「ちなみにお聞きしますが、その廃村と教会って何か繋がりがあったりしますかね?」

「私も教会方面には詳しくないので何とも言えませんが、ですが過去にその村があった地域と教会で揉め事があったという噂は聞き覚えがあります」

「揉め事?」

「えぇ、その村ではドラゴンも同じく神聖視していたようですからね。人族至上主義の教会の方々とは対立するのは、ある意味で当然でしょう」


 呆れるように言う老人に頷きで返す。

 人族至上主義というか、魔族や魔物をとことん下に見たがるのは教会の連中のあるあるだ。話せば商談ができるくらいには魔族も人間も変わらないというのに。


「さて、脱線はここまででよろしいでしょうか」

「えぇ、すみませんね。こんな関係ないお話を長々とさせてしまって」

「いえいえ、我々もこの街で暮らしている人間、その街の治安を影で守ってくださる貴殿方に協力できるのなら喜んでいたしますよ。あくまでも、利益があるのなら」

「えぇ、まず間違いない利益を相談させていただきますよ」


 ここからが本番だと気を引き締め直せば、目の前の老人も青年もにこやかに、しかして野獣のごとき獰猛な気配を隠そうともしない。


「さて、それでは商談を開始させていただきましょうか?」

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