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異世界でヤクザやってるので、聖女を押し付けられても困るんですが  作者: 双星天魚
第一幕 港湾都市の転生ヤクザ

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それぞれの一日(表) Ⅰ

 私がこの世界に来てからの一日は、まだ日が上り始めるよりも早く始まる。

 アラエル商会に用意して貰った、商会の寮の程近くにある一軒家……二階建ての大きな庭付き5LDKという、どう見ても高級物件を簡単にポンと用意できてしまう辺り、彼らがかなり稼いでるのだとよく分かる……で生活し初めて一週間が経ち、潮風の香りと薄暗い日の出を感じてベッドから起き上がる。


「ふぁ~ぁ……」


 現在私と王女様とスピネルさんの三人で暮らしているこの家で誰よりも早く起きた私は、勇者パーティー時代から愛用している杖を持って部屋を出ると、庭の芝生に座禅をするように座って目を瞑る。


「……」


 すると私の体から光の玉のような魔力が自然と溢れ、そしてそれが規則正しく回転し始める。

 魔法使いが鍛練として行う魔力制御の一種で、同時に周囲の魔力を少しずつ取り込み圧縮していく。


(この街は海がすぐそばにあるから、水の属性の魔力が多いし王都と違ってやりやすいかな)


 魔力制御の基礎には放出、圧縮、吸収の三つのプロセスがある。

 体内の魔力を体の外に出して操作し、出した魔力を外の魔力と馴染ませて圧縮し、圧縮した魔力を再び自らの体の中に無害化して吸収させる。

 勇者パーティ時代にメリュリナから教わった魔法使いの基礎鍛練であり、どちらかというとじっとしてるよりフィールドワークのほうが得意な彼女が唯一毎日欠かさず行っていた日課だった。

 私も彼女からそれを教わり、そして今ではやることが当たり前の日課のような形になっていた。


「今日も早いですね、聖女さまは」


 声をかけてきたスピネルさんにおはようと言えば、彼女も軽く伸びをしながら同じように座ってきた。


「魔力操作の訓練ですか」

「はい。なんていうか、もう習慣になってしまって」

「わかります。私も暇を見つければ同じようにやってますからね」


 そう言いながらスピネルさんは軽く魔力を放出して見せれば、それはなんと私の白い光と違って赤、青、緑、黄色の四色が浮かんでいる。


「スピネルさんは四色使いなんですね」

「基礎魔法属性は最初から全部使えますね。けど、一番得意なのは風ですけど」


 簡単に言うが、基礎四属性全てを最初から扱える人間はこの世界では数がかなり限られている。

 そもそも魔法使いの魔力は基本的に基礎四属性のうちの一種しか使えないらしい。これは先天的なもの……というより個人の資質の問題らしく、血統や今まで生きてきた環境等で先天的な魔法属性は決まる。

 そして生涯で基礎四属性一種のみを極めた大魔法使いも過去には存在していたという。

 勿論後天的に属性を増やすこともできるらしいけど、それにはとてつもなく苦しい修練を積む必要があるらしい。

 勇者パーティの魔法使いであり親友だったメリュリナも元々は三色使い……魔法使いは扱える基礎属性を色で表すらしい……であり、適正外だった土属性を使えるようになるために二年近く修行したと聞いている。


「それに私は聖女さまや兄さんのような特殊属性魔法は頑張っても使えませんし、詠唱魔法は苦手なんですよね」


 スピネルさんの言うとおり、私やアラエルさんの属性は特殊属性、または特異属性と呼ばれている。

 治療魔法など癒しに特化した光魔法、分解魔法のような物や概念を破壊することに長けた闇魔法など、基礎四属性のどれにも当てはまらない特殊な魔法は、基本的に先天性の魔法で後天的に得られることはまず殆どない。

 余談だけどエルフの魔法とも呼ばれる精霊魔法はこのどれでもない。

 普通の魔法が自分の肉体の中にある魔力を使う内部バッテリーのようなもので、使えば使うほどに体力を消費し倒れる危険性がある。

 対して精霊魔法は契約した精霊の魔力を借り受けることで使う外部バッテリー方式の魔法だ。

 メリュリナ曰く、契約してしまえば基礎四属性だけでなく特殊属性の魔法も使えるらしいけど、逆に言えば契約しなければ使えないうえに、精霊の魔力が無くなれば、それが回復するまで使えなくなる欠点もあるそうだ。


「ではスピネルさんは魔法はあくまでも補助……ということですか?」

「いえ、私の場合は付与魔法(エンチャント)を主体に、中遠距離は各種下級魔術で手数をという形ですね。得物も普通の騎士剣(ロングソード)じゃなくて、騎士短剣(ファルシオン)の双剣ですし」


 そういって腰に差していたそれを抜いて見せれば、それはなんとも綺麗に手入れされた片刃の短剣で、しかし普通の短剣に比べればかなり大きそうだった。


「業物……ですか?」

「いや、これはそこまでのじゃないですね。王都で似たようなものを買おうと思えば幾らでも買える鋳造品ですし、なんなら王都の武器商店に行けばこれよりも質の良いものも良く見かけます」


 なんとも味気ない答えだったが、しかし彼女の表情はそれだけではないと言わんばかりの笑みを浮かべていた。


「じゃあ、思い入れがあるんですか?」

「そう……ですね、えぇ、たしかに無いとは言いません。これは今では鍛練用にしか使いませんが、元は兄さん……アルゼイ会長から王都に向かう際にプレゼントされたものですから」


 楽しそうに語りながら剣を布で磨く彼女を見れば、それがどれだけ大切なのか良く分かる。


「……ところで、聖女さまの魔力量はやはり結構なものなんですね」

「えっと、急にどうしたんですか?」

「いえ、単純に目の前の魔力制御で圧縮してる量、その一つ取っても私の魔力の圧縮している量の数倍近くあるのに、全く魔力酔いをしてないですから」


 その一言で納得した。


「うーん、自覚は無いんだけどそうみたいですね。といっても、メリュリナや『怠惰』に比べたら少ないらしいですけど」

「勇者パーティーと魔王軍のそれぞれ最強の大魔法使いと比べてることがおかしいんですからね」

「そうですね」


 何せ片や古代魔法に匹敵する威力の複合魔法の使い手であり、片や古代魔法を三種類も扱える化け物、比較対照がおかしいというのは当然だが、


「他に比べるような相手も居ませんでしたから」


 そういう意味ではスピネルさんの魔力も私に迫るとも劣らない量があり、いわゆる魔法戦士と呼ばれるポジションならば恐らくは勇者だったアレグスとも比肩する使い手だと思う。


「っと、もうこんな時間ですね。姫様を起こしてきます」


 ふと何かに気づいたようにスピネルさんは懐から懐中時計を取り出し、そして時間を確認すればそう言って立ち上がる。


「あ、ならわたしもそろそろ朝御飯の準備をしないとですね」

「おや、サクラさまは料理もできるのですか?」

「まぁ生きていける程度には」


 地球に居た頃は趣味で凝ったものを作ったりしていたし、この世界に来てからは勇者パーティーの夜営では料理番を担当していた。

 適当な食材さえあればある程度はなんとかできるという自負はある。


「さすがに王宮とかの高級料理は無理だけど、一般家庭料理ならね」


 というか、王宮料理人とかはともかく、並みの料理人より美味しいものを作れるという自信がある。

 何故ならば、この世界の食事は基本的に地球のそれと比べてあまり美味しくない……というより味が極端に大味すぎて、しょっぱいを通り越して塩辛いかったり、甘いを通り越して甘ったるいと、酷すぎる料理ばかりだったからだ。

 おかげで現代日本の料理がどれだけ美味しかったのかを再認識できた。


「それに港湾都市っていうだけあって、探してた食材もいっぱいあったし、朝食は任せて」

「それは構わないですが、いったいどんな料理を作るつもりですか」

「まぁシンプルなものよ」


 なにせ白ご飯と目玉焼きと焼いたベーコンだし、と私が日本で良く食べていた朝食の組み合わせを思い出しながら、惜しむらくは味噌がこの世界に存在してなかったことが少しだけ残念に感じた。

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