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この2人どこまでも多事多難  作者: 吉良玲
第2章 混沌
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17.到着

 

 初夏。流れる車窓の風景を眺めながらステラは振り返る。

 婚約からの新しい出来事と情報量が多すぎてステラの記憶はところどころ曖昧になっている。


「ステラ、食堂車へ行こう」

「ロランくん。私、記憶が怪しいの、忙しかったからかな?」

「あの日から僕はステラ以外のことは何も覚えていないよ。

 だから、気にしなくて大丈夫だよ」

「そう」


 大丈夫だろうか、この2人。と同行者達は頭を痛める。

 婚約当初の1〜2週間は定時に帰れたもののその後は残業続きだった。

 そんな中、週末のステラは分刻みのスケジュールだった。

 母グレースとの買い物。婚約者ロランとの外出。途中からはギース邸でのお茶会が加わった。どこへ行ってもドレス合わせが続いた。


 やっと繁忙期が過ぎたころの王家主催の婚約披露パーティー後は一息つける予定だった。


 しかし現実はそこからが悲惨だった。両王家が動き出した。


 勉強が好きではないステラは短期決戦を申し入れた。

 両王家とシエラ都庁舎との協議がなされた。

 午前中は都庁舎で事務官として従事する。午後は早退して王城で王子妃教育、夕刻はロイン大使館で星姫教育が始まった。

 1カ月の間。ステラは水を飲むタイミングまで指示された。


 ロランはステラの分も働いた。ただ、会計課の雰囲気は「午前中は春、午後は極寒」と言われるほど極端になった。会計課の皆は1日も早いステラの通常勤務を密かに祈った。


 退勤時刻を過ぎると、ロランは王城に帰りステラと一緒にロイン大使館へと向かった。

 ロランにも星姫の配偶者としての教育が始まった。


 短期決戦1カ月は無事に過ぎた。


 通常勤務と週末の分刻みの日々に戻ったステラはそれをのんびりと感じた。

 そして、今度こそずっと穏やかな日々を過ごしたかった。


 その矢先、父エドガーからシャロン財閥の後継に指名された。エドガーは引退しないが、自身に何かあった際は財閥をステラが引き継ぐことを正式に表明した。

 直前にその旨をステラが聞いたとき、リシャールとロランは既に賛成に回っていた。ステラは頷くだけになっていた。

 父健在の現時点でステラにできることはないが、ステラのために役職が設けられた。

 ステラはまずシャロン財閥の組織図を眺めため息をついた。すると、ロランからそれは分かりやすい手づくり本「シャロン財閥の歩み」を渡された。その表紙には可愛い女の子と男の子が踊っている刺繍が施されていた。シャロン邸でリシャールがそれを手にスキマ時間を見つけてはステラに講義した。ステラはそれ相応の知識をつけ、総会で満場一致でシャロン財閥に迎えられた。

 勤務先にも手が回っていた。副業禁止規定があったはずだが、無報酬ということで問題なく副業届は認められた。


 ステラが一息つこうとすると……。

 婚約報告と星の称号の叙勲のためロイン国への訪問が国事行為として決まった。ロイン国の強い意向でステラとロランは一緒に赴くことになった。


 そして、今、2人は鉄道でロイン国へと向かっている。


「国事行為だから年休が減らなくて良かっね、ステラ。車中だけでものんびりしよう」


 ロインの建国際参加の義務を追うステラには、予期せぬ今回のロイン訪問で年休を温存できたのは大きかった。


「ロランくん。私、仕事を続けるのは無理かな(年休が足りない)」

「ステラ、逆だよ。仕事をする限り、個人であるステラと僕を組織が守ってくれる。大変なのは今だけだよ。どうしても辞めなくてはならない事態に陥った時は潔く辞めよう。

 まぁ、年齢的に一度辞めて、また受けなおすと言う手があるにはあるけど」

「えっ、またあの試験を受けるの……」

「ああ、王都の採用試験は合格だけなら簡単だからね」

(ロランよ! 何を言っているの!!)


 ステラは王都事務官採用2次試験の際の鬼のリシャールを思い出し、あの難解な試験を簡単と言うロランの地頭の良さは違う次元だと思い知らされる。


「(今の方が数倍ましだ)勤務を続けます」


 ステラは小さい声で答えた。


「ステラ、ご飯の時間だよ」

「はい。行きましょう、食堂車。お肉? お魚? スイーツは絶対はずしたくない」

「大丈夫! ステラのために僕の方でもスイーツの用意があるから」



 ステラはロランに全幅の信頼を寄せていた。ロランが同行してくれることで、ステラは「空腹のロイン」を恐れることなく訪問できる。


「それは楽しみ。でも、それは温存しましょう」


 物々しい警護を気に留めることもなく2人は食堂車へと向かい、優雅な食事を楽しんだ後、それぞれの客室で正装へと着替えた。




 ステラとロラン一行だけが乗る列車はロイン王家でも限られた者しか使うことを許されないロイン中央駅に乗り入れることを特別に許され、2人はロインの地に降り立った。




 ロイン中央駅をおりたそこは王城前広場。

 ロインの国籍を持つステラはロインの正装、ロランはハザウェイ国王家の正装を身にまとっていた。


「お帰り、ステラ。ようこそ、ロレンツ」


 ロイン国の儀仗兵が王城入口まで控えている物々しい雰囲気の中、ロイン国エドワード王太子にステラとロランは歓迎の意を示される。2人は歓迎の音楽を耳に、エドワードの先導に続きロイン王城へ入った。


 

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