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この2人どこまでも多事多難  作者: 吉良玲
第1章 婚約後の諸々
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10.ギース公爵邸 5-3 スタイリスト

 

 ステラグッツをまた取り上げられてしまうとロランはソフィアを警戒する。


「は、母上、はい……」


 ワードロープに吊るされた複数のドレスをソフィアは見た。


「(こんなに!)それで、どれなの?」

「…………」

「あの、ドレスは白色ばかりでして、それ以外は少しカジュアルでして」


 答えないロランの代わりにジルがフォローした。

 ソフィアは「そう」と返し、ロランを見た。


「ロレンツ、ステラさんが今まで着ていない色や形のドレスは?」

「あっ、これとか……これです」


 ロランは言われるまま白いドレスとミントグリーンのワンピースを指さした。


「ステラさんとウエディングドレスの打ち合わせは?」

「まだです」


「白いドレスに小花をワンピースには羽根飾りを」


 ソフィアはメイド達に指示を出した。


「母上?」


 メイドたちはその2点をトルソーに着せ、白いドレスの裾に降り積もるように色とりどりの大小様々な花モチーフを付けた。それを見たロランは、みずからも針と糸を手にし、裾とのバランスを見ながらドレスの胸元に小花を散らし縫い付けた。白を基調に様々な色の花が舞う優しいドレスに変わった。

 ふわふわ甘々のミントグリーンのワンピースには羽根飾りやレースがふんだんに付けられ、カジュアルさは消えていた。これに関しては、ロランがメイドに指示を出した。あらかた仕上がるとロランは呟いた。


「これを着たステラは、花の妖精だ。それに羽根、これを着たらステラは飛んで消え去ってしまう。(重い足かせを付けて)閉じ込めないと」

(ロレンツ、やめてちょうだい!!)


 ロランの危ない発言にソフィアは気が遠くなりかけた。単なる妄想で終わりますようにと強く願い、ステラを守るためにソフィアは気を強く持った。


「ロレンツ、ステラちゃんを失いたくないなら、しっかりしなさい! これに合わせる靴やアクセサリーは?」

「あ、共布で作った靴とヘッドドレスと、あと――」


 そう言いながらロランはヘッドドレスや靴に小花や羽根飾りを手早く取り付けている。次々と並べられる品々にソフィアは感心した。どれも素晴らしい出来だった。最高級の材料を使い、ステラのためだけに用意されたとわかるこだわりを感じた。


(婚約指輪も素敵だったわね。ロレンツの器用さセンスの良さの代償がこの重い粘着執着気質なのかしら……)


 感心と不安にさいなまれているとソフィアに声がかけられた。


「母上、このような機会をありがとうございます」

「(今日はよく笑うこと)先ほど心配をかけたお詫びよ。

 それにウエディングドレスの参考になるでしょ」

「はい!」


 ソフィアはロランが人として真っ当な結婚をするには政略が一番だと思っていた。

 ロランの心からステラが消えることはないが、それを隠し王族として政略結婚を受け入れ、表面上は卒なくこなすだろうと。

 ロランのステラへの思いは恋や愛で括れないほどの狂気にまで育ち、その思いが何らかの形で実ったとしても……その先には破滅しかない。とソフィアは考えるようになっていた。

 法改正が2人を隔てロランが荒れ、ふさぎ込んだとき、「今は辛くてもこれで良かったのよ」とソフィアは呟いたほどだった。


 幸いにもロランは優秀だった。結婚だけが幸せではないと考えたソフィアは、研究者としての道をロランに歩んで欲しいと考えるようになった。

 経済学だけでなく法学を修めると聞いたとき、ソフィアはホッとした。学者としての幸せを見つけたのだと。


 それが王都の事務官になりステラ・シャロンと一緒に働き始めた。それをソフィアが知った数カ月後、ロランは婚約したと報告された。あのステラ・シャロンと。


(ああ怖い。なんて執着。これは純愛とか一途とかではない)


 ソフィアはステラを調べた。

 髪も肌も色素が薄い美人、血筋良く、学歴も良く、成績はトップではないが常に上位、大資産家の娘、職を自力で獲得する独立心旺盛な才女、ロイン国の王位継承権に固執しないが反権威主義者でもないと良いこと尽くめ。なによりも、上級市民という身分がそれ謙虚に引き立て、反感を買わないように薄める。

 婚約歴の1つや2つあって当然、逆に引く手あまただ。


 調べるうちにソフィアはステラが気に入った。婚約相手が我が子でなければ「今のうちに、おやめなさい」とステラに忠告したいぐらいだった。



(よくよく考えるとステラちゃん無敵なのよね。

 どうして2人の関係は思いのほか良好なのかしら?

 たしかにロレンツは優秀で美形よ、だけどそれを相殺するほどのヤンデレよ、一緒に仕事をしていたらその奇怪さに気づくものでしょう。もしかして、ステラちゃんは博愛主義者なのかしら、だとしてもロレンツでなくても……)


 ソフィアは気が気でない。

 ここまで話が進んだ今となってはロランがステラに見限られることがあったらロランだけでなくギース公爵家・王家も傷を負いかねない。しかもステラもそれ相応の代償を払うことになると。


(機転が利き、聞き上手で話し上手、ロレンツに指示を出せるお嬢さんだった。こうなったら……)


 ソフィアは何度も失敗に終わっていた親子の会話を試みる。


「ロレンツ、婚約おめでとう。ステラさんは素敵な方ね」

「はい、僕の愛するステラはその名のごとく輝く魅力の持ち主です」


「(浮かれるのもわかるけど)ロレンツ、よく聞いて。

 ステラさんに向けた愛を全て受け入れてもらおうとしないこと。あまつさえ、自分が愛した分と同じだけの愛を返してもらおうとしないこと。

 いくら頑張っても、言葉や態度が伝わらないことがあるのよ、逆に発言を誤解されることもあるの。だから絶えずロレンツは正しい方向の努力を怠らず、ステラさんの幸せが何かを理解しようとすること」

「母上もステラを大事に思ってくれるのですね」


 ロレンツはかねてからの不安を口にした。


「この婚約に賛成してくださいますか?」

「ええ、ロレンツ、遅くなったけど婚約おめでとう。お相手がステラさんで嬉しく思います。良い関係を続ける努力を忘れないでね(正しい方向の努力よ!! 肝に銘じてね)」

「母上、ありがとうございます」

「さぁ、行きましょう」


 真剣な母ソフィアからの言葉はロランの心を打った。笑顔のロランに微笑みを返したソフィアはドレスと装飾品をシャロン母娘が待つ客間へと運ばせた。




 ステラとグレースは静寂な客間で待機する。

 ステラは着替える理由を深く考えることはなかった。案内された客間に飾られた花を眺めていた。グレースは調度品を眺めステラの新居の構想を練っている。


(ステラはどうするつもりかしら? 「繁忙期が過ぎるまで待って」と言うけど、疲労がたまっているようだし……あと1ヵ月、繁忙期が過ぎたら、少し休ませないと)


 廊下がにわかに騒がしくなると同時にロランが飛び込んできた。そこからは続々と人と物が客間に溢れた、静寂は一瞬にして消えた。


 ドレスをみたステラの第一声は……。


「わぁ〜春と新緑をイメージしたドレスですね。

 白に小花、グリーンに羽根、どちらも素敵です」


 笑顔でドレスを眺めるステラの姿にロランは感涙を我慢した。


「ステラ、両方とも着てみて」

「お食事まで時間がないようだから……」

「ステラさん。そんなのは待たせれば良いのよ。

 さっ、こちらから試しましょう。ロレンツたちは退室して」


 以前から面識があるグレースとソフィアは仲良く話しながらステラの着替えを見守った。

 ステラとグレースはどうしてサイズが合うのか不思議だったが、言及はしない。

 白いドレスに着替え靴を履いたところで、ロランは入室を許された。


「やはり、花の妖精だ。ヘッドドレスより……花のモチーフを髪に散らそう」


 ロランは手際良くステラの髪に花を散らし始めた。シャロン母娘はスタイリストさながらのロランの手つきに唖然とした。


(ロランよ、やはり乙女力高いよね)


 空腹に耐えかねたステラは2着目のミントグリーンのワンピースを選んだ。


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