表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

お化けのダンス

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 おお、今日は明るいうちから月が見えるなあ。

 夜の黄色や銀色チックな光もいいけど、こうして昼の下から見上げる姿もなかなか……。

 月もまた、人が地上に出てくるより前から、ずっと地球の上に浮かんでいるものだ。光こそ、もとをただせば太陽から放たれているものの照り返しだが、昔の人にとっては同じ、光り輝くものの印象が強かったろう。

 なにせ、空からの光は避けるすべがない。建物の中、地面の中へ逃げ込んだとしても、地上にある何かはそれを受けざるを得ないからね。

 その浴びられる環境。もし、意図的に操作できるやつがいたとしたら?

 僕の聞いた話なんだけど、耳へ入れてみないか?



 お化けのダンス。

 その話題があがったのは、学校で怖い話大会を開いたときだったか。

 この世にはときどき、表に出てこられない者たちがひっそり集まって、会合を開くことがあるらしい。

 学校の集会に似て、お堅いものからレクリエーション的なゆるいものまで行うことは様々。その後者の最たる例が、このお化けのダンスに相当するのだという。

 これがどんちゃん、音を出すタイプの会合だったらまだありがたい。人間、あやしい物音がしたら警戒するものだからね。

 そこから遠ざかろうとする人もいれば、興味本位でのぞこうとする人もいるだろう。仮に後者のようなケースで、かの会合の場へ入り込んでしまったとしても、無意識で身体の防衛本能が働く。

 知らず知らずのうちに、会合に影響を与えないような動きを取るから、大事に至ることはめったにないのだと。

 もっとも、他に影響を受けてしまった人やものと関わってしまった場合は、そうとも限らないというのだけど……。


 このお化けのダンス、どうにか見てやれないものかと、僕は考えていた。

 刺激の少ない時間に慣れると、いつもとは違うものに手を出したくなるもの。このダンスの場をどうにか抑えられないかと思ったんだ。

 聞いた話によると、そのダンスの場を仕切るのはガイコツらしい。理科室で見る骨格標本のごときものが、踊りまわっているのだとか。

 目撃談は複数主あり、それこそ飛んではねるような派手な動きから、舞踊を思わせるようなゆったり、しなやかな動きまであるらしい。


 ただ、共通点のひとつが、いずれも心ここにあらずな状態のときに、出くわすことができたということ。

「探そう、探そう」と意識している者で、出くわすことのできたケースは存在しない。

 みんな、それとは関係ないことを考え、ぼーっとしているときに会うことができた、とのことだ。

 時間帯は問わないらしく、陽のあるうちに遭遇することもあったらしい。


 共通点の二つ目が、月の出ている時間帯であること。

 昼間で出会えたというのも、ちょうど今みたいに、空へ白い月がのぞくような場合であったのだそうだ。

 これは前者の条件より、気づくのが遅れたという。奇妙な現象に遭遇して、冷静にあたりを見回して確かめられる人は、そう多くないからね。だいぶ証言を重ねた末に判明したのだそうだ。


 そして、偶然に出会えたお化けのダンスも、気づいた人間側が何かしらアクションを起こすと、たちまちお開きになってしまう。

 その場を動こうとしたり、声や文明の利器を使って周囲に知らせようとしたりすると、彼らはぱっと、たちどころに姿を消してしまうのだとか。

 はじめから、その場にいなかったように彼らはいなくなり、証拠を残さない。ゆえに、この話も伝聞でしか伝わっていなかった。


 ふーん、面白いじゃん、というのが第一印象。

 当時の僕は写真やビデオとかに、いまひとつ魅力を感じられずにいたのもある。

 やはり「なま」の感動や迫力には、遠く及ばない。無理やり枠の中へおさめられてしまう映像よりも、そこにとどまらないものを含めた空気感があってこそ、目にする意義があるのだ……とね。

 とはいえ、お化けのダンス探しは難航した。

 話に聞いている通り、「探したい、出くわしたい」という欲を徹底的に自分の中からかき出していかねばならない。

 月が出ているのをちらりと確認したら、期待のきの字も心に抱かず、町中を練り歩かなくちゃいけないわけだ。


 別の考え事をしながら、歩き回る。こいつは相応に危険なことだった。

 交通量の発達した現代かつ、乗り手もお行儀よくて優しい人ばかりと限らない、と来たら、迷惑をかけがちな僕をとがめてくるのは自然なことだろう。

 自転車のベル、車のクラクションを食らうなどしばしばで、あまりにぼーっとするものだから、足元の段差に気づきそこねて、肝を冷やすこともあった。

 しまいには本格的に足を滑らせて、おかしな手の付き方をして、骨を折る始末。子供ながら、恐ろしくなるようなのめりこみ具合だったと思う。


 さすがに、自由が利かなくなる痛みとなると、関心もそちらへ向いてしまった。

 娯楽、興味は心のゆとり。大事が横たわるなら、優先順位を下げられる。

 僕はケガに意識をとらわれた。普段の生活でも、考えるのは腕の不自由と、それらをどうカバーするかばかり。

 だから、その夜の外出から帰るとき、月が出ているかどうかも、ましてやお化けのダンスのことも何も考えてはいなくて。とぼとぼと、いつもの帰り道を歩いていたんだよ。


 うつむき気味だったから、ぶつかるまで気が付かなかった。

 いつも家へのショートカットに使う公園。目をつむってでも通り抜けられるほど、なじみの場所ではあったけれど、周囲を気にしていなかったからね。

「ごめんなさい!」と反射的に何歩か下がりながら、うつむいた頭を、なお深々と下げる。

 けれども相手は、動きや言葉を返す様子を見せない。


 不審に思いながら、顔をあげた僕の目に映ったのは、天へ向けて大きく伸びをするガイコツの姿だった。

 ちょうど月の光が、スポットライトのごとく当たる中で、骨格標本の骨格が大きくその身体を伸ばしている。

 公園のそばの土たちは、わずかな光も受けてはいない。このような光のあたりかたを、僕は知らない。

 まるで本来あるべき光を、この体操するかのごとき格好のガイコツが、すべて集めて受けてしまっているかのようだ……。


 ぼんやり考えてから、僕ははっとお化けのダンスの可能性に思い当たった。

 食い入るようにガイコツを見る僕は、やがてその右腕の骨のみが、細かいヒビが入っているのを見て取った。

 気のせいか、ガイコツの浴びる光のうち、右腕全体だけが一段と強い光を受けている気が……。

 考える間にガイコツは、だらんと伸ばしていた腕を下ろす。

 浴びていた光の強さも弱まり、よりはっきりと骨が見えるようになっていたけど、先まで見えていたひびが、すっかりなくなっている。


 このとき、ずいっと僕は半歩ほど後ずさってしまっていた。

 ガイコツの突然の動きに、身体が反射的に動いてしまったのかもしれない。

 とたん、スポットライトくらいの大きさだった月の明かりが、ぱっと公園の半面ほどへ一気に広がった。

 おそらくは、本来の月のあたり方へ戻ったのだろう……と悟ったときには、もうガイコツの姿は影も形もなかった。


 あれが「ダンス」と形容できるものかは分からない。

 ただ分かるのは、ほどなく僕の右腕の骨折はたちまち完治してしまったこと。

 それと入れ替わるようにして、友達が僕とまったく同じ箇所を骨折してしまったことだった。

 お化けのダンス。

 それはケガあるもののために、ケガなきものから奪って補填させる行い。

 何も知らなければ「事故」とか「奇跡」とか「運命」とか呼ばれてしまうような現象の中身を、具現化したものじゃないかと思うんだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ