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短編(両方あり)

語られていない夢物語

作者: 裏道昇
掲載日:2023/12/14

企画なので挑戦してみましたが、童話が思ったより難しい……。

童話になっていれば良いですが。よろしければ読んでやってください。

 ごーん、ごーん、ごーん。


「あれ?」

 気が付くと、知らない場所にいた。


 何やらお城のようだが、ここはどこだろう?

 いや、そもそも私は誰だろう?


 ごーん、ごーん、ごーん。


 はて、と階段の踊り場で首を傾げた。

 すぐにバタバタと足音が聞こえてきた。


「待ってくれ! シンデレラ!」

「シンデレラ?」


 呼ばれた声を繰り返した。

 それが私なのだろうか?


「……くすくす。まさか本当に自分がシンデレラだと思うの?」

「え?」


 ごーん、ごーん、ごーん。


 突然聞こえてきた声に目を向ければ、掌に収まるような小さな女の子が笑っていた。

 妖精? だろうか。楽しそうに口元を押さえている。


「え、何!? 何なの!?」

「ふふ、ごめんなさい。つい笑っちゃった。

 でも貴方はこの世界に迷い込んだだけよ」

「?」

「まあ、ひとまず逃げなさい」

「???」

「十二時の鐘が鳴っているのだから、シンデレラ役は逃げないと」

 

 ごーん、ごーん、ごーん。


 振り向くと、王子様がすぐ近くまで迫っていた。

 一瞬だけ迷ったが、妖精の言う通り逃げ出すことにした。


 王子様より妖精の方が事情を知っている気がしたのだ。

 それに、何故か後で見つけてくれるはずだと感じた。


「痛っ」


 逃げる途中で私は躓いた。

 ガラスの靴が片方だけ脱げてしまう。


 ごーん、ごーん、ごーん。


 半分はだしで、私は立派な城から逃げ切った。




「はあ、はあ」

 私は肩で息をしながら、妖精を睨みつけた。


「詳しい話を聞かせてちょうだい」

「いいわよ。それが私の役割だしね」

「役割?」

「ええ、そうよ。

 私は貴方を夢から覚ますために来たの。祝福の化身みたいなものね」

「夢? 祝福?」

「そう。今の貴方は夢を見ているのよ」

「……この世界が夢?」


 周囲を見回してみる。

 今は深い森の中にいるが、ここが夢だとは感じなかった。


「貴方はこの本の別の物語……」

「本? 物語?」

「……いいえ、間違ったわ。別の世界へ『一度ずつ』移動することができる」

「世界? 移動?」

「貴方がその世界の『題名』を口に出せば移動するのよ」

「?」


 話に付いていけない。

 私はほとんどおうむ返しの状態だった。

 

 ただ、一つだけ気になることがあった。


「私が夢から覚めることが目的なのね? なら、どうすれば目覚めるの?」

「……その方法は自分で見つけてもらうしかないのよ」


 なるほど。細かい話は分からないが、大筋だけは分かった気がする。

 これは夢で、見ている夢を切り替えることが出来る。


 そして、夢を切り替えながら、目を覚ます方法を探すのだ。




「あら。もう話す時間がないみたい」

「?」

 私が妖精を見ると、私の背後を指さした。


 ――そこには、黒いローブを着た何かが立っていた。

 ――手には大きな杖を握っている。


「え!? 何!?」

「あれは『呪い』よ。あれが貴方をここに連れてきたの」


『呪い』は握っている杖を私に向けた。

 直後、杖から黒い炎が噴き出す。


「避けて!」

「うわぁぁ」

 

 妖精の言葉に反応して、半ば崩れるように私は黒炎を躱した。

 逃げ方がみっともないのは許してほしい。あまり運動は得意ではないのだ。

 

 あ、やばい。

『呪い』は次の攻撃を放とうとしている。

 

「あの攻撃を受けたら、もう目を覚ませない!

 急いで目覚める方法を見つけなさい!」


『呪い』が次の黒炎を放った。


「……『赤ずきん』」


 頭に浮かんだ言葉をそのまま呟く。

 直後、世界が切り替わった。

 

 

 

 いつの間にか、視線が高くなっていた。

 目の前に迫った黒炎を横に大きく跳んで避ける。


「あはは、なるほど。今度は主人公じゃないのね」


 妖精の笑う声がした。

 言われて自分の体を見下ろす。


「お、狼!?」


 私は狼になっていた。人狼と言うべきか?

 運動は苦手だったはずなのに、やけに体が軽かった。


 連続で黒炎が飛んでくる。

 狼になった私は軽いステップを踏んで避けてゆく。


「……これなら」


 自分の身体能力の高さを理解して、逆に踏み込むことにする。

 この力なら『呪い』を倒せると考えたのだ。


「あちゃあ」

「え!?」


 途端に妖精が頭を抱える。

『呪い』に爪を叩きつけようとした瞬間――私は地面に組み伏せられていた。


「これは教える時間がなかったから仕方ないわね。

 この『呪い』は夢の中では最強なの。倒すのではなく逃げて目を覚ますしかないわ」


『呪い』が私に杖を向けようとして――


「へ、『ヘンゼルとグレーテル』!」


 ――私は次の題名を叫んだ。




 私が瞑っていた目を開くと、そこはお菓子の家だった。

 隣にいる妖精がまた笑う。


「今度は場所も変えたのね! 

 確かに『迷う』はずだから少しは時間を稼げるわよ、お婆さん?」

「お婆さん? ……え?」


 自分の口から出た嗄れ声に驚く。

 お菓子の鏡を見ると、確かに老婆になっていた。


 この格好は……魔女?


「本来は悪い魔女よ。でも、この選択は悪くないわね。

 時間が出来たから、一つだけヒントを出せるわ」


 そして、妖精は一つ訊いた。


「眠る前のことを思い出してみて?」

「……眠る、前?」


 やはり私はおうむ返しに答えるのみだった。

 しかし深く考える時間はもらえなかった。


 ばーん! という大きな音がして、お菓子の家が吹き飛んだ。

 地面に転がりながら目を向けると『呪い』がこちらへと走ってくる。


「……あれ?」


 立ち上がろうとして、いつもより体が重いと気が付いた。

 ああ、そうか。今度は老婆だった。運動能力が普段よりも落ちている。


 立ち上がって、迫る『呪い』を見ると焦りが全身を襲った。

 大急ぎで次の題名を探す。


「えーと! えーと! 『赤ずきん』!」


 変わらない。そうだった。

 同じ世界には行けないんだ。


「し……『シンデレラ』! 『ヘンゼルとグレーテル』!」


 同じ題名しか浮かばない。

 何度言っても世界は切り替わらなかった。


「他……他に題名は……」


『呪い』が私に杖を突きつける。

 後ずさろうとするが、あまり素早く動けそうにない。


『呪い』が一歩近づいた。確実に当てるつもりか。

 そして、軽く杖を振り上げ――振り下ろす。


 ――あ、そうか。

 ――あるじゃないか。


「――――ッ!」


 炎を目の前に『私』はその名を呼んだ。

 その瞬間に世界が固まった。凍ったようにすら見える。

 

 そして、世界が作り変えられてゆく。

 いや、戻っているのだ。


 妖精がひらひらと手を振った。

 そういうことか。目が覚めるのだと理解した。




 ぱちり、と目を開く。

 すぐ目の前に顔があった。


 ――そうだった。

 ――『私』は魔女の『呪い』で眠っていたのだ。


「おはよう、()()()

『私』の王子様が微笑んだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] わぁ! 最後がすっごく良かったです。 なるほどー、と思いました♡
2024/01/16 17:47 退会済み
管理
[良い点] 思い出した本の世界に飛ぶというのは、やっぱり楽しいですね。主人公以外に飛ぶところも味があると思います。 [一言] 実は同じ系統で 「気がついたら物語の世界で、追われたり迫害されたりする立場…
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