ジークについて
「じゃあつまり、彼はもうお姉さまに気持ちはないと。」
フローラはいやいやながらその言葉を口にした。アリーとクランは黙する。
さわやかな風が庭の草木を撫でる。しかしその穏やかさに反しガゼボの中は逆風が吹き荒れてまくっている。カップの中の紅茶が揺れてこぼれそうだ。
「ちょっと失礼します。」
フローラは怖い顔をし、席を外す。そして木々が茂った庭の奥へと移動すると丈夫な若年の木に拳をぶつける。
「なんだ。あいつまじで。何なのよ。」
恨み言を受け止めてもらう。木は答える代わりにいくつかの葉を散らせる。手の方がダメージを負っている始末だ。またお母様に怒られてしまう。
何回か殴り怒りを受け止めてもらった木によりかかると穏やかな午後らしい光が木々の間からちらちらと見える。
「お姉さま…。」
不意に姉のことを呼ぶ。
するとジークのことが浮かんでしまう。
「あああああああああ。」
頭をふりみだしかき回す。すると頭がグワングワンとし少しすっきりした気がした。フローラは単純だ。
「よし。」
頬を叩き、私は木に謝意を込めて軽く叩く。そして木に挨拶をすると、2人が待つ場所へと歩みを進めた。
「ははは、お待たせいたしました。」
乱れた髪のまま私は2人の元に戻る。さすが私のことを知っている2人。何てことないように迎えてくれた。
「じゃあ、次に行きましょうか。」
フローラのその声に2人は頷く。
「それでは聞いてばかりですけど、ジーク様の人間性について知っていることを教えていただけますか?」
アリーはクランに尋ねる。
「ああ。俺が兄のことを好きじゃないという前提で聞いてくれ。」
クランは彼の人柄を話し出す。
彼はクランの幼少期から嘘をつきクランをよくだましていた。親に怒られた時もクランのせいにしてその場をやり過ごすような兄で言葉巧みに人をだましては楽しんでいることが多く卑怯というのがクランの評価だ。
また飽きっぽく怠惰な性格で授業などもあまり真面目に受けず、すきを見ては逃げ出すなど兄としても尊敬できないところを見てきた。
さらにはプライドが高くわがままのため自分の要望が通らないと納得しないような人だ。
これらのことからクランは彼のことをあまり好いていないということだった。
そして恋愛に関しては、彼は気の多い人でよく女の人を好きになるそうだ。親に隠れ勝手に付き合い飽きて捨てるということをして遊んでいるという。よくバレないように庶民の子を相手にしているそうだと従者がこぼしているのをクランは聞いた。
ただ一応婚約関係であるフロミス様のことは家同士の関係もあり、気にかけていたのは本当で、アベリア様に会うまでは礼節を重んじ真剣に向き合ってはいた。
これらがクランの知るジークの大まかな人柄だった。そこまで話すと、クランはフローラとアリーを見る。
「こんな感じだ。多少私怨も入っている。」
そんな風に言い、嫌そうな顔をする。
「ありがとうございます。」
今度はアリーが怒りをあらわにする。
「そんなお人にお姉さまをやれませんわ。」
拳を強く握り前へと突き出す。そして、書くものを取り出すとメモ帳に勢いよく書いた。
ジーク様の人間性について「ダメ!」
フローラとアリーの気持ちが落ち着くのを待ってクランは聞く。
「ほかに聞きたいことはないか?悪いがそろそろ戻らないといけない時間なんだ。」
「あ、もうそんな時間なのね。とりあえず聞きたいことは聞けたわ。ありがとう。」
フローラはメモ帳に罵詈雑言をかきながら言う。
「ええ。ありがとうございました。」
落ち着きを取り戻したアリーは感謝の言葉を口にする。
クランの身支度が整うのを待って、フローラとアリーはクランの見送りをする。
「じゃあ。」
馬車から顔を出し、クランは挨拶をする。
「ありがとう。」
「ありがとうございました。」
二人は礼を言い、馬車で去るクランを見送った。
ガゼボに戻ってきた二人は紅茶を飲みながら話をする。
「しかしジーク様が噂を流したこと、半信半疑だったけど確信に変わったね。」
アリーがフローラに話しかける。
「うん。あいつやってくれたわね。」
フローラは2人だけなのを良いことにあいつ呼ばわりする。
ジーク様の性格を加味すると頷けた。きっと彼は、同じ貴族のアベリアお姉さまに恋をしたため、自分の婚約者であるフロミスお姉さまを捨てることにしたのだ。そして自分が傷つかぬよう、自分が害を被らず利益のみを得られるようにと今回の騒動を企て、噂を流したのだ。
「アリーの気持ちを聞かせて頂戴。」
フローラはアリーに聞く。
「決まっているわ。ジーク様には相応のバツを負ってもらい、絶対にアベリアお姉さまともフロミス様とも結婚なんかさせないわ。」
アリーは語気を強くし喋る。それを聞き、深くうなずくフローラ。2人は強く手を握り合った。
その後も2人は、どうしようか。こうしようか。とお姉さまたちのことを夕方になるまで話していた。そんなことをしているとアリーが帰らなければいけない時間となった。
「じゃあね。フローラ。」
「ええ。またねアリー。」
馬車で去るアリーをフローラは姿が見えなくなるまで見送る。
遠ざかり見えなくなるフローラに手を振るのをやめたアリーは少し不安を感じていた。この後、姉たちのことを調べていく中で、もしもお姉さまがジークを好きだとしたら……と。
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