クラン
「ジーク様の気持ちを探ることにしたけれど、どうやって探ろうか?」
アリーが口火を切る。
「そうね。」
フローラは手で顎下を触る。
2人とも黙り込みお互いに良い人がいないか考える。
「お嬢様。」
そこに背後からキャサがぬっと声を掛ける。
「わっと。ちょっとキャサ驚かさないでよ。」
フローラは変な声を出してしまう。
「わっと。」
キャサはフローラの言葉を繰り返し遊ぶ。
「ちょっと。」
「お手紙です。」
フローラが怒りそうになったタイミングでキャサはさっと手紙を差し出した。
「手紙?いったい誰から?」
「お嬢様たちの調査に役立つ人物からです。」
不思議に思いながらキャサから手紙を受け取る。
「クランからじゃない!」
ジークの家、アルスター家次男クラン。クランは長男であるジークの弟でフローラとアリーとは同い年、そしてフローラとは幼馴染だ。
フローラは驚きキャサを見るとキャサは得意そうな顔をしている。フローラは急いで手紙を開封するとそこには久々に2人で会わないかということが書かれていた。これは好機。
「クランがいたわよ!」
「確かに兄弟なら知っているはずね!」
アリーも状況を把握し嬉々とする。
「セッティングなら私に任せて。このお茶会への招待の手紙を送ってみるわ。」
フローラはアリーの手を握り、力を籠める。
「「うん。」」
「お休み前にありがとうキャサ!」
「優秀ですから。」
キャサはいつもの調子でそんなことを言い去っていった。
次の日曜の午後13時フローラの家の中庭にはお茶会の準備が施されていた。
「フローラ。」
招待客であるアリーがやってくる。
2人で会話に花を咲かせていると、クランの到着した旨の知らせが届いた。2人の間には緊張が走る。ついに来る。これからの計画に重要となる人物が……。2人はテーブルクロスの陰でどちらからともなく手をつなぎ励ましあう。そして来た。
「アルスター家子息クランでございます。本日はお招きいただき恐悦至極でございます。」
仰々しい挨拶をし、礼をするクラン。
「本日はお忙しいところお越しくださりありがとうございます。」
フローラも行儀よく淑女らしい礼をする。挨拶が済んだことを確認するとフローラは2人に席に着くよう促す。そして従者やメイドには下がるように指示をする。こうして3人の空間が出来上がった。
最初に話を始めたのはクランだった。
「兄貴とフロミス様のことなんだけど。」
「「!」」
フローラたちは驚きを隠せなかった。
「俺もやばいと思っていたんだ。」
「で。それについて話そうと思っているんだが…。アリーさんは今回の件の関係者か?」
クランはフローラに尋ねる。
「ええ。もうお姉さまたちのことを話したいっていうことは噂を知っているのよね?それを踏まえたうえで説明させてもらうわ。彼女はアベリア様の妹君よ。」
フローラはアリーの方に体の向きを変え彼女を紹介する。
「ああ。あの兄貴がうつつを抜かしている……。よくこの場所に来てくれたな。」
フローラを見て少し驚いた声を出す。
「ええ。私はフローラの親友ですから。協力もしますし、どこへでも参上しますわ。」
アリーが口をはさみ答える。
「世間は狭いな。」
クランは紅茶に口をつけ呟く。
「今日はクランにいっぱい聞きたいことがあるのよ。」
フローラは、早くと前のめりになる。
「じゃあ、さっそく聞きたいことを聞いてくれ。」
「わかったわ。」
アリーのメモ帳がアリーとフローラの間に置かれる。
まず初めに。お姉さまとジーク様の婚約関係について。
「お2人の婚約関係について、あなたのおうちのお考えは?」
フローラとアリーは質問する。
「我が家としては所詮噂ということでこの婚約関係を解消するなんて話は出ていない。だってそうだろう?アベリア様に対するフローラの姉フロミス様の行為はただの噂。そしておやじたちは兄貴が婚約者をないがしろにして、他のご令嬢にうつつを抜かしているなんて馬鹿なことをしているはずはないと思っているからな。」
「我が家もそれはそうよ。婚約関係は維持する所存のはずよ。というか私の父のところにはその噂すら届いてないと思うわ。」
フローラは自嘲気味に言う。
「まあ、優しい方だもんな。」
クランはフォローを入れる。
「優しいは領主としてはどうなのかしら。」
「まあまあ。フローラ。」
父への愚痴が始まりそうになるフローラをアリーが抑え、軌道修正する。
「とりあえず、婚約関係に動きはないってことですね。」
そうフローラとクランに確認する。そして2人の頷きを確認するとアリーは次の質問に移す。
次にジーク様の今の気持ちについて。
「これは……。」
そう言い、クランは話し出す。
パーティーから帰ってくると、ジークは様子がおかしかった。いつもならフロミス様に会った日にはお礼状を毎回送っていたはずの彼が忘れ、それを気がかりに思った従者が代わりに送るという始末をメイド越しにクランは聞く。これだけならまあ調子が悪いのかというだけだった。
その後彼はあろうことかクランへ次のようなことを言ったのだ。
「なあお前がカーウィッチ家(フロミス、フローラの家)と婚約を結べば、俺がうまくいかずとも我が家との関係は問題ないよな。」
これを聞いたとき、急に何を言い出すのかとクランは無視をしたのだが、噂が聞こえ始めクランは彼が意図していたことを理解したのだった。