キャサ
その日頭を悩ませて考えた後、フローラは自分付きのメイドのキャサを呼んだ。
「なるほど。おおよその話は分かりました。」
経緯を聞いたキャサは頷きそう言った。
「じゃあキャサ……。お願いできるかしら?」
2人は固唾をのんでキャサの次の言葉を待つ。
「お2人の気持ちはよくわかるのですが、正直面倒くさいです。」
「「ええ~。」」
フローラたちは期待していた言葉とは違うものが出てきてとても驚いた。
「今までの私たちの話聞いていたわよね。」
フローラはキャサに突っかかる。
「ええ。」
キャサはそれを華麗に避け平常運転で答える。
「私たちがどれほどあなたの協力が必要か伝わらなかったかしら?」
アリーはフローラに変わり尋ねる。
「いえ、伝わりました。」
真顔で答えるキャサ。
「「では、なぜ。」」
「なぜですか。そうですね……。」
キャサは考え込むそぶりを見せる。
「やはり面倒くさいからですかね。」
十分に考えこんでからキャサはそう言い放った。
「あなた主人の家族の危機なのよ。」
フローラは半狂乱になって言う。しかしそこはメイド。何事もないかの様にかわす。
「お願いよ、キャサ。あなたにしか頼めないわ。」
アリーは手を合わせて頼み込む。
「1つ聞きたいのですが、何故そこで私なのでしょうか?」
キャサは先ほどから微動だにせず、直立の姿勢でいる。
「そんなの決まっているわ。」
フローラが怒りながら言う。
「あなたが1番信頼できるからよ。」
「あなたにしか頼めないことですから。」
アリーもフローラにかぶせ気味でいう。
「そんなに私のことを信用しているのですか?」
「「ええ。」」
「私にどうしてもしてほしいのですか?」
「「ええ。」」
力強く声を出す2人。
「そうですか。」
キャサはふーと息を吐き遠くを見つめる。そして窓の方に近づいたかと思うと、はーと深いため息をつく。
「私って良いやつなのですよ。」
「え?」
アリーは思わず聞き返す。
「ですから私はとても素晴らしい人間なのです。」
「別に言い直さなくていいわよ。」
フローラはため息をつき言う。
「まあ、そういうことですよ。」
「つまりどういうことかしら?」
アリーは聞き返す。
「つまり協力してくれるということね。」
フローラは手を腰に当てアリーに伝える。
「本当ですか?」
アリーは、ぱあっと笑顔になる。
「はい。」
キャサは表情1つ変えずに答える。
「ありがとうございます。」
「まあ、何だかんだ言ってもあなたしかいないから…ありがとね。」
アリーとフローラは交代で感謝の言葉を述べる。
「その代わり、これが終わったら休暇をしばらく多めにいただきますよ。」
「わかっているわ。」
フローラは、キャサの言葉に頷き肯定する。
「では、僭越ながら私がその任務を担当いたします。」
キャサは礼をし、挨拶をする。
「よろしく頼むわ。」
「よろしくお願いします。」
2人はそれぞれ彼女に頼み、礼をする。
「では失礼いたします。」
キャサは元の姿勢に戻るとそう言い残し去っていった。
「第1関門は突破しましたね。」
アリーはフローラに向き直り笑顔を見せる。
「ええ。彼女に任せておけばまず間違いないわ。」
フローラは眉間にしわを寄せやれやれというようなポーズをしながら頷く。
調査を依頼されたキャサはさっそく動き出していた。
「キャサ。この後、洗濯物をお願いできるかしら。」
「しょうがない。」
メイド仲間から頼まれた仕事を請け負う。そして彼女に小声で言う。
「依頼があるんだけど。頼まれてくれるかしら。」
すると彼女はぴっと顔色を変えて言う。
「また難しいのは勘弁よ。」
「大丈夫。とても簡単な任務だから。」
また洗濯場にいた新入りに言う。
「ねえ、あなた前どこの屋敷に勤めていたんだったかしら。」
「え、と。私はアルスター家です。」
その答えに内心にやっとしながら彼女は返す。
「そう。来たばかりで大変でしょうけど、分からないことがあれば私に何でも聞いてちょうだい。」
この小さな一角からキャサの調査は始まったのだった。
そしてキャサに調査を依頼してから1か月後。今日はフローラの家にアリーが訪れていた。
中庭で紅茶を飲みつつ2人はキャサが来るのを待っていた。
「どうかな。調べはついたかな?」
アリーは少し期待を込めた声で言う。
「多分。キャサなら。」
紅茶を飲みながら少し緊張した面持ちで言う。
「お待たせいたしました。」
そこにキャサが紅茶のお代わりを持って来た。
「待っていたわ。キャサ。」
フローラは紅茶のお代わりをお願いしながら喋る。
「お嬢様。私はメイドに収まらない活躍をしてしまいました。」
キャサはフローラのカップに紅茶を注ぎつつそんなことを発言する。
「じゃあ、調査結果出たのですね。」
アリーは喜びを前面に出す。
「本当?」
フローラはくわっと目を開きキャサを見る。
「はい。出ました調査結果。こちらにまとめさせていただきました。」
キャサは1枚の紙をテーブルの上に出す。その紙の中には調査結果の全容が書かれていた。
調査結果
調査したメイド総数:200、家:50
ご子息ご令嬢から噂を聞いたことがあるメイド:98
また聞きで聞いたことがあるメイド:96
噂を聞いたことがないメイド:6
ご子息ご令嬢から噂を聞いたメイド:98
ご子息ご令嬢は誰から聞いたか
ジーク様ご本人から7
ジーク様の取り巻きであるアンクラー様、サンスター様から60
アベリア様のご友人であるチェスター様、フロランス様から20
その他11
以上より「噂の出どころを調べる」という調査は、ジーク様が噂の根本ではないかという結果を指示しております。
「キャサ。」
フローラは真剣な顔でキャサを呼ぶ。
「はい。」
キャサはフローラの前に立つ。
「ほんっとうにありがとう。」
フローラはキャサの手を取り泣きそうになりながら言う。
「お嬢様に泣き顔は似合いませんよ。」
キャサは相変わらず仏頂面だが、口元がかすかに上がっているのをアリーは見た。
「キャサ。私からも礼を言うわ。本当にありがとう。」
「いえ。任務を遂行したまでです。」
キャサはもう通常スタイルに戻っている。
「これにて調査は終了ということで。長らくお待たせいたしました。」
「ええ。ありがとうキャサ。」
フローラもさっぱりした笑顔になりキャサを見ている。
「ではそろそろ仕事に戻ります。失礼いたします。」
キャサは挨拶をすると、さっさと中庭から姿を消した。
「さて。調査結果を見ましょうか。」
「ええ。」
じっくりと上から下まで見る。
「これって………。」
「ええ………。」
ほとんどの噂がジーク様の関連から出ている。それは即ち、調査結果通りジーク様が噂の出どころということか。
「ジーク様が………。」
二人の間に何とも言えない空気ができる。
「そうね。間違いない。ジーク様も何というか………。」
フローラは震えている。
「いいよ。言っちゃいな。」
アリーはそんなフローラの背中をさする。
「何なのよ、あいつ。お姉さまの婚約者でありながら。クッソ。」
中庭に響き渡る大きな声で息を切らしながら吐き出したフローラ。そんなフローラを見ながら頷くアリー。深呼吸し、呼吸を何とか整えたフローラは席に戻る。
「とりあえず、ジーク様が噂に噛んでいるのはわかったわけだけどこれからどうする?」
アリーはフローラに尋ねる。
「やることはぶれないわ。ジーク様の気持ちを確かめましょう。そこからが本質に切り込んでいく初手よ。」
「そうですね。そうしましょう。」
2人は顔を見合わせると、真剣にうんうんと頷きあう。
「ねえ。アリー。」
フローラは言いにくそうに言葉を紡ぐ。
「なあに?」
そんなフローラの言葉を待ち構えるアリー。
「あの。もしかしたらこの調査は、アリーにとってはいいものではないんじゃないかなって思って………。それで……。」
「なんだ。そんなこと。」
「そんなことって。結構大事な事じゃない?」
「あのね。私はフローラの親友でしょ。それにフロミス様には良くしてもらった。」
「うん。」
「私は確信しているの。どんな形であれ、この仲違いの原因はフロミス様にないって。」
「アリー。」
アリーは満面の笑みでフローラの頭を撫でる。
「ありがとう。」
フローラは言葉を詰まらせながらか細い声で感謝を口にしたのだった。
評価、ブックマーク本当にありがとうございます。
投稿頑張ります!