フロミス
フロミスは会場から出、バルコニーに1人来ていた。フロミスに今日ダンスを踊る約束をしている者はいない。高等部の中にフロミスと踊りたいというものは現れなかったからだ。
「みんなの気持ちの邪魔にはなりたくないしね。」
仲の良い妹たちには相手がいる。それなのに変に気を使わせてしまうことの方がフロミスは嫌だった。そのため、開会式の途中で、会場を抜け出したのだ。
「さてどうしようかな。」
フロミスは残りの時間を考え、空を見上げる。夕暮れ時の空色が、黒く光るようになるまでは長い。1人でそれをつぶすにはどれだけのことをしなければいけないか。
「なら僕と過ごすのはどうでしょう。」
バルコニーの下から声がかかった。
「え?」
フロミスは誰だろうかとバルコニーから下を見る。そこにはアルバートが佇み立っていた。
「アルバート様。」
フロミスはバルコニーから身を乗り出した態勢で彼の名を呼ぶ。
「いや、大学部生は招待されないなんて悲しいですよね。」
彼は手でブイサインをし、元気に笑う。
「タキシード着ていらしたのですね。」
フロミスは、笑いながら彼の服装に注目する。
「ええ、あなたと踊るために。」
彼は服を今一度整えると、フロミスに向かい片手を伸ばす。
「今夜よろしければあなたと過ごすひと時を。」
その姿は、夕日に照らされ輝く。フロミスは心の底から答えて駆け出す。
「ええ、もちろん。」
フロミスの心には、アルバートの存在が大きくなってきていた。
「アルバート様!」
フロミスは肩で息をしながら急いで彼のもとに駆け付けた。アルバートは先ほどいた場所から動かずじっとフロミスのことを待っていたようで、フロミスの声でようやっとその場所から動き出しフロミスの下に来る。
「待っていました。わが姫。」
アルバートはフロミスの側に来ると、そう言って、ひざを折りダンスのエスコートを申し出る。
「まあ。」
フロミスはいつも通りのアルバートの様子に安心しそして嬉しくなる。今日のフロミスは壁の花にもなれず、1人夜空を眺める鳥のような気持ちだったからだ。
フロミスは嬉々としてアルバートの差し出す手を掴もうとした。しかしフロミスはふと思う。
(この手を簡単にとってしまっていいのかしら。)
「フロミス様?」
アルバートはなかなか手を取らないフロミスを不思議そうに見つめる。
(そうよ。彼は単なる同情で私にかまってくれているだけなのに…。私ったら浮かれてしまって馬鹿みたいだわ。)
フロミスは途端に惨めな気持ちになった。今日のために用意したドレスも自分の道化さを現わしているように思えて仕方なくなる。
「アルバート様。」
フロミスは、差し出された手を取りたくて仕方なく思いながらも、口から拒絶の言葉を絞り出す。
「…私には、その手を取って良い理由がありません。」
「…どういうことですかフロミス様。」
アルバートはフロミスの言葉に驚いてダンスの姿勢を崩し、フロミスのことを見つめる体勢になる。
「言ったではないですか。私は欠陥品だと。」
フロミスは泣きそうになってしまい慌ててアルバートから視線を外す。
「それは…。」
アルバートの声が悲しみに満ちた声になる。フロミスはその声を聴き、自分は彼に気を許しすぎだと感じた。
(相手が困るようなことを言って、相手の反応を探るだなんて私は最低だわ。いくらアルバート様が優しい方だからってこんな風な言い方。)
フロミスは自己嫌悪に陥る。そして涙がもうこぼれそうで仕方なかった。華美なドレスをぎゅっと握りしめフロミスはアルバートに背を向け駆けだす。その瞬間涙がぼたぼたとあふれ出した。
(ああ、私ったらアルバート様のことがこんなにも…。)
フロミスは言葉に出してしまいそうなものを飲み込み、顔に流れる涙もかまわず走り続けた。
「フロミス様!」
背後からのアルバートの言葉にも振り向かず、フロミスは一目散に会場から校舎へと逃げるのだった。




