ダンスパーティー
ダンスパーティー当日。
「アリー!」
「フローラ!」
会うなり2人は抱擁する。
「おい、服が乱れるぞ。」
フローラの後を追ってきたクランが注意をするがそんなことでは2人は離れない。
「うらやましがらないでよ、ク・ラ・ン。」
アリーはにやにやと笑いながらクランを挑発する。クランはそれに反論できず、頭をガシガシと掻き恥ずかしがる。
「あーま、何だ。アリーは今日誰かとパートナーになる約束をしているのか?」
クランは話題を移し、アリーの攻撃から逃れようとする。
「ええ、いるわよ。」
しかし何てことないようにアリーは言ってのける。これにはフローラも驚きだ。
「え?待って聞いてないわ。」
「言ってなかったかしら?」
「誰!誰よ!」
アリーの腕をつかみ揺さぶる。体を揺らされアリーは上手く話すことができない。
「こら!しゃべらせてやれフローラ。」
クランがそこに割って入り、何とかアリーは逃れることができた。
「い、今呼んでくるわ。ちょっと待っていて。」
「どうしようアリーに変な虫がついたら。」
「お前な。」
クランは涙目になって心配するフローラを窘める。
「何よ、クランも心配じゃないの?」
怒りながら言うフローラに見つめられクランはどもりながら答える。
「お、れは、お前に変な虫がつかないほうが心配だよ。」
綺麗なドレスに身を包んだフローラ。黙っていると可憐な少女にしか見えない。そのため今日クランは彼女を見つめるだけでドキドキしていたのだ。
「な、!」
これにはフローラの怒りも飛んでしまう。お互いに照れて、もじもじする。
「はいはい。お2人ともいいかしら?」
アリーが帰ってきて茶化される。
「アリー。」
フローラは赤くなるが大事な事を思い出す。そう、アリーのパートナーだ。アリーの横にいる人物をつま先から頭へと視線を移すとそこにいたのは。
「シン!」
そうフローラやアリー達のクラスメイトのシンがそこには居たのだ。
「やあ、フローラ、クラン。」
シンはにこやかに笑って2人の名を呼ぶ。
「まさかシンが?」
フローラは口をパクパクさせる。
「ああ、僕がアリーのパートナーだよ。」
細い目をさらに細めてシンは微笑みながらフローラとクランに言う。
「シンが…シンが…。」
フローラはそれを繰り返す。完全にノーマークだった。というか微塵も気づかなかった。
「全然、知らなかったわ…。」
「まあ、結構とんとん拍子に話を進めたからね。ね?アリー。」
「ええ。あなたたちがのろのろしているときにね。」
アリーとシンは互いに見つめあい、ねぇと言い合う。その様子はもう何年も時間を共にしてきた夫婦の様だ。とてもしっくりくる。
「言ってよぉ。」
フローラはそんな2人の間に入りアリーに抱き着く。
「だってあなた叔父様を説得するの大変そうだったし。」
クランとフローラはお互いに気持ちを確認しあった後、フローラの家に行き婚約を結ぶことを許してもらいに行った。母はすぐに賛成したがフローラの父は首を縦に振らなかった。いろいろとあった家同士で再び婚約を結ぶのは…。と。しかしそこはまじめなクラン。次期当主としてきっちりけじめをつけ、何があってもフローラを守ることを誓う。何度もフローラの父に頭を下げ、許しを乞うた。何度も何日も。そうして先日のことだった。
「お願いします。」
クランは又しても、フローラの父に頭を下げていた。もう何十回目かわからないほどだった。
「しかしねぇ。」
父が繰り返す言葉も同じだ。
「もう!お父様しつこいわよ。」
その一連の行動にしびれを切らしたフローラはその様子に割り込む。
「フローラ、だって…。」
娘に怒られ先ほどまでの強気な姿勢はしゅんと崩れる。
「もう。お父様はいったい何をそんなに渋っているのですか。」
フローラは父に詰めよる。
「それは当然のことだろう。あんなことがあったのだから。」
父は姿勢を正し、難しい顔をして娘を見る。
「ですからそれは何度も言ったように。」
「けれど起こった事実は変えられないだろう。フロミスの気持ちもあるし。」
そう言われてしまうとフローラも強くは出られない。
「それは…。」
「あらお父様、私の気持ちも勝手に決めつけないでくださいませ。」
声のした方を皆が一斉に見る。そこにはフローラの母と姉フロミスが立っていた。
「お前…。フロミス…。」
父は母とフロミスを見て驚いた声を出す。
「あなたがあまりに往生際が悪いので家族会議で決めようと思いましてね。」
母はいつもの様に扇で顔を仰ぎながら父に視線を送る。
「私の味方がいないっ!」
父は涙目になり、この会話の顛末を悟る。
「だいたいフロミスの件はあなたが情報戦に疎いせいであのような事態になったようなものですよ?」
母は父に詰め寄る。
「それは…私も頑張っているんだ。だけどみんな陰でやっちゃあ言っちゃあしているんだから。そういうの、私は好かないんだもん。」
「「もん?」」」
フローラとクランはそこに引っかかる。
「あ、おほん。好かないんだ。」
父はその視線を感じ言い直す。その父の言葉にふーっと息を深く吐き、母は空いているソファにフロミスとともに腰掛ける。
「とにかくこんなにもいい子の頼みを何度も突っぱねるなんて。」
クランのことをさし、母は父にお小言を言う。母は、フローラからあの事件で活躍したクランのことを詳細に聞いており高く評価しているのだ。
「だが、婚約とはそもそも家同士のもの。本人たちが良いとしても…。」
父は少し言い返す。
「安心してください。僕が大学部を卒業したらすぐにでも父は当主の座を譲ると言ってくれています。」
クランがそこですかさず言う。
「今も家の管理に関わっていますし、2度とあのようなことがないようにもします。」
「まあ、そうか。でも君の気持ちがもしも。」
「そうはなりません。絶対に。」
クランは自信たっぷりだ。
「クラン。」
フローラはその様子に嬉しくなる。
「しかし口では何とでもいえるだろう?」
父は穿った目で意地悪く尋ねる。
「何ならそのようなおかしなことがあった時のために、契約書でも書きますか?僕はどんな条件でもそれにサインします。」
クランはそんな父の攻撃にも臆することなく答える。
「どうするのあなた。」
「お父様。」
母とフロミスに言われてしまう。これはもう父の負けだと。
「はぁ。わかったよ。」
父はしぶしぶと認めた。
「お父様!」
フローラは飛び上がって喜ぶ。
「だけど本当に契約書は書いてもらうからね!」
父はぷんぷんと少し怒った様子で、フローラとともに喜ぶクランに釘をさす。
「はいっ!もちろんです!」
クランは元気に答えた。
「まったく、」
父はお小言を言いたくなったが、まぶしい光景に口をつぐんだ。
「フローラ。」
「なあにお父様。」
クランと見つめあっていたフローラはその視線を父に向ける。
「幸せになるのだよ。」
父は心から娘に言う。
「お父様!」
その言葉にフローラはぱっとクランから離れ、父に抱き着く。
父はフローラを抱きしめ、手持ちぶさになったクランのことを見てべぇっと舌を出す。クランは苦笑しかない。母とフロミスは、そんな父の子供っぽい意地悪に笑うのだった。
そうしてフローラとクランは親公認の婚約者として今日のダンスパーティーを迎え、今アリー達と向かい合っているというわけだ。
「そうだけど。早く知りたかったわ。」
フローラは駄々をこねる。
「まあまあ、フローラだってシンのことはよく知っているしいいかなって。」
アリーは何てことないように言う。アリーはこういうところはしっかりしている。自分のことは自分で何とかし、物事を着々と進める。それがよく表れた報告の仕方だ。
「あら、かわいらしい子たちが勢ぞろいね。」
「おねえさま!」
フロミスの声にフローラは反応する。そこにはフローラたちと同じようにドレスに身を包んだ美しいフロミスが慈愛の目で妹たちを見つめていた。
「お姉さまもお綺麗です。」
「あらお世辞がうまくなったわね。」
「本当です!」
「はいはい。」
ふふっと笑いながらフローラの頬をつんと触るフロミスにフローラは更に頬を膨らませる。
とそこへ。
「みんな集まっているのね。」
アベリアも後ろにハリスを連れてやってきた。
「お姉さま、ハリス様。」
アベリアとハリスは同じデザインのドレス、タキシードに身を包み、色までもお揃いだ。そんな2人のペアルックを見て、みな目を輝かせる。
「どうかしら?」
アベリアはその反応を見て少し気恥ずかしそうにしながら尋ねる。
「かわいらしいです!」
「ハリス様もお似合いです!」
口々に妹たちは褒める。
「あ、ありがとう。」
ハリスは何とかアベリアの横に立ちこのパーティーという最難関の舞台を乗り切ろうとしているようだ。
「みんな集まりましたね。」
そんな風に話をしていると会場中に先生の声が響く。
「みなさん新しい学期が来てから半年間よく頑張りました。…それでは今日の日を存分に楽しんでください。」
そうして開会式は終わると、みな一斉にダンスを踊り出す。
アベリアとハリス。フローラとクラン。お互いのことをまっすぐに見つめ、ゆっくりとステップを踏みその場から動き出す。
「アベリア、その手を握ってもいいか?」
「ええ。いいですよハリス。」
恐る恐るダンスを始めるアベリアとハリス。
「フローラ、食事はまだ我慢しろよ。」
「わかっているわよ!クラン行きましょう!」
いつもの調子のフローラとクラン。
「フロミス様は?」
アリーはふとダンスをする前に振り返るが、もう先ほどいた場所にフロミスはいない。
「誰かと約束していたのかしら?」
アリーは不思議に思いながらも深くは考えない。
「行こうかアリー。」
シンに呼ばれ、アリーもダンスを始めるのだった。




