キャサの回想とその後
私は地方の弱小貴族の4女として生まれた。お金がない、地位もない、名誉もない。でもそんな意味の持たない爵位を持ち偉そうにしている父。気弱な母。そんな父に倣った性格の兄、兄、姉。楽しみなんか何もなかった。だからだろうか、私は基本無口で無表情。親、兄姉からは怖がられていた。
(あなたたちがつまらない人だからよ。)
私は教えてはあげなかった。無口で無表情な私を怖がっているのを見るのが好きだとかそういう気持ちも多少あったのかもしれないが、この家族に干渉されるのは勘弁だと思ったからだ。
そんな風につまらない日をなんとなく過ごしていた私に転機がおこる。
侯爵家のメイドとして奉公に出されることになったのだ。
「お前は愛想がなく兄姉よりも可愛げがない。」
長々と講釈垂れた父だったが要約するとだから出て行けということだった。本当に最後までつまらない人だ。まあ、思い残すこともない。そんな場所にとどまるつもりも私にはなかった。ちょうどいい機会だ。
「わかりました。」
そう一言だけ発すると、私はさっさと身支度をして家を出た。そのあまりの素早さに家族は皆唖然としていたらしいが、私はその顔を見ることもなく一度も振りかえらなかった。
「はじめまして。キャサと申します。」
カーウィッチ家。ここが今日から私の家となる。さあ、どんなものか。多少の期待感を持ちながら挨拶をする。
「まあ、よくおいでくださいました。」
丁寧でやわらかい物腰の夫人が私を出迎える。その手には赤ん坊を抱きかかえてー。
(珍しい。爵位の高い貴族が自身の子供をこんなに世話するなんて。)
その視線に気づいたのか夫人は私に笑いながら言う。
「ああ。ごめんなさいね。ちょうどこの子がぐずっていたから。ほらフローラ。今日から新しく我が家の一員になってくれる方よ。挨拶してね。」
「あぅー。」
フローラと呼ばれた赤ん坊は私に何か言いながら手を伸ばす。私はそれを挨拶ととらえもう1度頭を下げる。
すると。
「ぺしっ。」
頭がかすかに押された感触があった。
「こら。フローラ!」
夫人が慌てて、彼女を叱る。フローラお嬢様は何が何だかわからないというようにきょとんとした顔をしている。
「ごめんなさいね。」
夫人は私に謝罪をする。しかし当の本人はその謝罪にきゃっと笑い楽しんでいる。
「フローラ~。」
呆れながらもしょうがないというような顔をしている夫人とは対照的だ。
「ふっ。」
私は思わず笑みをこぼした。
「キャサ?」
フローラお嬢様をあやしながら夫人は不思議そうに私を見る。
「いえ。何でもないです。これからよろしくお願いいたします。」
面白くなりそうだ。期待が本物になった瞬間だった。
「キャサ。」
「キャサ!」
言葉を少々操られるようになってからは特にフローラお嬢様は私にかまうようになった。笑ったり、怒ったり忙しいお嬢様だ。
「何ですか。お嬢様。」
私のぶっきらぼうな物言いにもめげずなぜか私にばかりかまわれようとしてくる。まだ小さい手で必死にどこかへ行くのを阻止しようとするが、その手を私は容赦なくぶった切っていく。
「ごめんなさいね。キャサ。あなたには迷惑かけるわ。」
夫人は私に謝罪する。
「いえ。問題ありません。」
私のぶっきらぼうさにも苦情を言わず、それどころか「いい教育になるわ。」なんて言ってその様子を見逃してくれる夫人は変わっている。
「キャサ。あなたもこの屋敷にきてしばらくたったけどどう?」
私の様子も心配しこうしてよくメイド1人1人に声を掛ける。そしてメイド同士の様子にも気を使っている。その貴族らしからぬ態度には尊敬するところがあった。
またこの家ではメイドの教育としてよその家にもいくことができる。よその家を見てそれでも我が家に仕えたいと思ったらまた来て欲しい。そんな方針だとこの家の主である夫人は言った。そこで私も勉強としてアリーお嬢様の家にも奉公していたのだ。それも1年2年の短い間だが、そこでのことも十分役立っている。まあ、主にお嬢様たちのたくらみに利用しているだけだが。
そしてフローラお嬢様はどんどん大きくなる。大きくなると彼女の要求は斜め上に変わる。例えばこの家の宝物がなくなった時のことだった。
「キャサ!私とアリーでこの事件解決するわ!」
そう意気揚々と言い、家中の者に話しかけに回る。そこになぜか私も駆り出される。まあ、そのおかげで今私はメイドの情報網を操れるようになったのだが。それは余談だ。
「キャサ!」
「キャサ!」
私を呼ぶ声は面倒くさい頼みごとをするときに呼ばれることが増えたのだ。正直面倒くさい。でもいつも彼女が持ってくる話は面白いのだ。
「何ですか。お嬢様。」
私は含み笑いをしながら彼女の呼び声にあえて面倒くさそうに返事をする。そうして今日も私を楽しませてくれる彼女のもとに彼女付きのメイドとして私は繰り出すのだった。
そして現在。
「お嬢様。何していらっしゃるんですか。」
お嬢様自身が面白いことになっていた。
猛スピードで家に帰ってきたと思ったら、ベッドにこもり枕をバンバンと叩いているのだ。それも百面相しながら奇声を上げて。これは楽しい。私1人で楽しむのももったいないくらい。と思ったので私はアリー様を召喚することにした。
「お嬢様から伝言です。今すぐ家に来てくれとのことです。」
嘘を言い、彼女を我が家に呼び寄せる。
「こんばんは。いったいどうしたの?何も言わず帰ってしまってどうしたのかと思っていたのよ……。」
私に質問するアリーお嬢様にこっそりと教える。
「面白いことになっていますよ。」
そう彼女に伝え、お嬢様の部屋に通す。案の定いまだに彼女の部屋からは奇声と枕をボスボス叩く音がする。
「何やっているの?フローラ。」
アリーお嬢様はあきれながらフローラお嬢様の部屋に入る。
「ア、アリー!」
急な登場に顔をどう変えたらよいのかわからなくなっているフローラは突然の親友の登場に戸惑う。
「何しているのよ。私に何も言わずに帰っちゃうし。」
アリーは相変わらずあきれながらベッドに近づく。
「い、いや。」
フローラは目をきょろきょろと動かし焦点が合わずにいる。
「なあに。その反応。」
アリーは少し怒りながら言う。
「違うの。いや勝手に帰っちゃったのはそうなんだけど。これには理由があって。」
アリーに詰め寄られ、フローラはしどろもどろになりながら弁明する。
「理由?」
アリーはその点に引っかかる。
「うん。」
「何かあったの?」
アリーは心配する。
「いや、その。思ってもなかったことが起こったというか。事件というか。」
「事件?」
アリーはふむと考える。
「何それ。大きな虫でもいたの?」
「ううん。それならつぶせる。」
「じゃあ誰かと喧嘩したの?」
「ううん。それなら拳で解決する。」
「どっちも手で解決しないで。」
アリーは突っ込みを入れる。
「で、何があったのよ。
アリーはらちが明かずフローラに尋ねる。
しかし。
「えっと。」
そう言ってそれ以上フローラが話し出さない。
「何よもう。どうしたっていうのよ。告白でもされた?」
何度目かの問答の後、アリーはまあ違うかと思いながら尋ねる。
すると。
「え、えぅ、えっ。」
フローラの反応が明らかに今までと違う。これにはアリーが驚く。
「え?まさか本当に告白されたの?」
「声が大きい!」
アリーにシーと言いながら、フローラは顔を赤らめる。
「もしかしてクラン?」
アリーはもしやと思い質問する。
「……。」
「OK。その反応で十分よ。」
フローラの顔からアリーはすべてを察したのだった。




