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花束

「やっぱりいいですね。」

アルバートがいることに緊張していたが、花を見ているとそんな気持ちは薄れていき、楽しくなって思わずそんな言葉を口に出していた。

「花が好きなのですね。」

アルバートはフロミスの呟きに反応する。

「ええ。花もですが。どちらかというと種から育てることの方が好きなのかもしれません。」


「土いじりをされるのですか?」

アルバートは少し驚いて言う。

「ええ。あまり令嬢らしい趣味ではないですが。」

フロミスは降りた髪を耳にかけながら苦笑いする。


「素晴らしいではないですか。」

「え?そうですか?」

フロミスは思ってもなかった反応に驚きながら尋ねるとアルバートは、ええ。と頷き、素敵だとフロミスを褒めた。

「そんなこと言ってくれる人はなかなかいません。」

「そうなのですか?」

「ええ。人によってはやめるようにと言われることもありました。」

フロミスは過去の記憶を思い出し、眉をゆがめる。アルバートはそんなフロミスを見、フロミスが見つめている先にある花を取って言う。

「でも、あなたは続けてきたのでしょう?自分の本当に大切にしたいことを。」

そしてフロミスにその花を差し出す。フロミスはおずおずとその花を受け取り答える。

「それは……。大切な友人が勇気をくれたからですよ。」

フロミスは回顧しながら微笑む。

「良い友人をお持ちですね。」

「ええ。大切な友人です。本当に。」

花の匂いが包む店の中でフロミスは、アベリアのことを思い出す。可愛らしく笑う花のような友のことを。


「そういえば、アルバート様は何の用事でこの店に?」

アルバートもこの店に用事があると言っていたのをふと思い出し、フロミスは尋ねる。

「ああ、花束を買いたいと思いましてね。」

「花束ですか。」

(誰かへの贈り物だろうか。それなら先ほどのお礼に手伝わせていただきたい。)

そう思いどなたへの贈り物か聞く。

「母へなんだ。」

アルバートは静かに微笑みながら言う。

「何か。お祝いですか?」

フロミスは誕生日か何かかと思い質問する。しかし返ってきた答えは違った。

「いや。命日なんだ。」

変わらない笑顔で彼は言う。

「そう、だったのですね。」

フロミスは先ほどまでとは変わりアルバートの笑顔が泣いているように見えた。静かにアルバートの言葉を受け止め黙する。少しの沈黙の後、アルバートは言う。

「何も、聞かないのかい?」

アルバートはフロミスに尋ねる。

「ええ。」

(自分が聞いてどうなるのだろう。できるのはアルバート様の悲しみを受け止めることだけだ。)

フロミスはそう思ったのだ。

「優しいね。」

アルバートはそう言い、ありがとうと言った。

「お花、もしよろしかったら、私の選んだものもお母様に持って行ってもらえたらうれしいです。」

彼自身が選ぶことが大事だと思い、それならば。とフロミスはアルバートに提案する。アルバートはにっこりと笑い、ああ。と頷いた。


「ではお母様にどうかよろしくお願いいたします。」

フロミスは花束を彼に渡しながら言う。

「ああ。本当にありがとう。僕の花束を選ぶのも手伝ってもらって助かったよ。」

アルバートが花束を選ぶのに迷っていたため、思い出の花を送ったらどうかとフロミスはアドバイスしたのだった。

「お役に立てたならよかったです。」

2つの花束を抱えたアルバートにフロミスは微笑みを返す。

「ではまたお会いしましょう。」

そう言ってアルバートはお墓参りへと出発した。フロミスはその姿を見送ると、園芸店を後にするのだった。


「お姉さま!」

お菓子屋に着くとフローラは両手にお菓子を持ちフロミスの名を呼んだ。

「もう。フローラ勝手に動いたら危ないでしょ。」

フロミスは軽くお小言を言う。

「へへへ。ごめんなさい。どうしてもお菓子が我慢できなくなっちゃって。」

そう。フローラ。別にアルバートとフロミスを2人きりにしようとかそんなことには頭が及んでいなかった。純粋に飽きてしまったため、お菓子屋に足を延ばすことを急遽思いついただけ。思い付きだ。フローラの困ったところである。ころころと気分が変わるのだ。


「フローラ。フロミス様―。」

遠くから姉妹を呼ぶアリーの声が聞こえた。

「あ。アリー。アベリア様―。」

フローラもその声にぱあっと顔を輝かせお菓子を持った手で手を振る。

「まあ、フローラ。我慢できなかったの?」

アリーとアベリアに言われ、フローラは、へへへ。と頭をかく。

「まあまあ、みなさんもお菓子選んでください。いっっぱい種類がありましたよ。」

3人は嬉しそうに話すフローラに連れられ店へと入る。店の中にはキャンディー、チョコレート、ビスケットにクレープも。様々な種類のお菓子が所狭しと並べられている。

「素敵ですよね。」

フローラは顔をキラキラさせて皆に同意を求める。

「フローラは本当に好きね。」

3人は口々に言い、フローラを可愛がる。そして各々お菓子を選びに行く。フロミスもみなと同じようにお菓子を選ぶ。しかしそのたびに先ほどのアルバートの寂しげな笑みが浮かんだ。

(あ。これアルバート様のお母様にも持って行ってもらえば。)

フロミスはふとそう思うが、首を振る。

(私ったらアルバートのお母様のこと何も知らないのに、そんなこと考えてもしょうがないわよね。)

「お姉さま?」

店を自由に行き来するフローラがフロミスを不思議そうに見る。

「ああ。フローラ。」

そんな考えを振り払い妹のおすすめを聞く。

「私のおすすめはね。このチョコレートがコーティングされた……。」

しかし妹の声を聴きながら、フロミスは又アルバートのことを考えていたのだった。



「え。フロミス様アルバート様に会ったの?」

フローラから後日話を聞かされ、アリーは驚いた声を出す。

「うん。ちょうどこの前の休日にお会いしてねー。」

「え、どんな感じだったの?」

アベリアはわくわくとフローラに聞く。しかしフローラは汗を垂らして言う。

「ごめん、あの日お菓子屋に夢中で途中で2人から離れちゃった。」

「フローラ!」

久々にアリーから怒られるフローラ。アリーはフローラに説教しようかと思ったが、ふむ。と考える。

(2人になったのなら何かしら会話はしたはずだ。まあ、フロミス様、アルバート様両方の気持ち次第だけども何か進展はあったのかも?フロミス様に今まで男性の影はなかったしこれは良い兆候かもしれない…。)

「まあ、いいわ。許してあげる。」

アリーはフローラにそう考え言う。

「アリー!ありがとう。」

フローラは涙ながらに感謝する。アリーは仕方ないと、フローラの頭を撫で許してあげる。柔らかな髪を撫でながら、アリーは1人考えていたことを小さく呟く。

「そうしたら次はあなたの番かもね。フローラ。」

「へ。何か言った?」

聞き取れなかったフローラはアリーに聞き返す。

「ううん。何でもない。」

アリーははぐらかす。

(そろそろこの子も…。というかクランがかわいそうだものね。)

そう心でいい、近頃全く接触がなくなったクランのことを思い出し、憐みの念を送るのだった。


(アルバート様)

その夜フロミスは彼のことを思い出していた。母親のことを思い、悲しそうに笑っていた顔。楽しそうに私の花談議に付き合ってくれ顔。そんなことを思い出す。

(きちんとお母様に挨拶できたかしら。)


そこへ。

「お嬢様。」

扉を叩く音がする。

「はい。」

部屋に招き入れたメイドは花が添えられた手紙を差し出した。

「ヒュンストン公爵家からのお手紙です。」

「そう。ありがとう。」

内心驚きつつ、メイドが部屋から出ていくのを確認すると、フロミスは手紙を開封した。


手紙には、無事に母に会いに行き、花束を渡すことができたありがとうというお礼が書かれていた。


「よかったわ。」

フロミスは誰にも聞こえないような小さな声で呟く。

(きれいな花。)

「これはかすみ草ね。」

手紙に添えられた白く小さな花をつけるかすみ草。フロミスはそれをみると心が清らかになったように思えた。くるくると花を回しながら色を楽しむ。そしてかすみ草の先にいる彼のことを考え、フロミスの心は温かくなるのだった。


「そろそろ届くころだろうか。」

同じころアルバートも空を見あげて呟いていた。

(彼女にお礼を言いたいと思い、手紙という手段を使うことにしたのだが、果たして彼女は気に入ってくれたか。)


アルバートにとって母は大切な存在だった。長男ではないからとアルバートに無関心な父に代わり、アルバートを気にかけ、貴族の世界での生活を教え導いてくれた重要で大事な人物。そして何よりも愛をくれた人だった。


そんな母が亡くなって、はや幾年。大切なその日にアルバートは綺麗な花を送りたかった。

そんな時、出会ったのがフロミスだ。彼女は、過度に干渉もせずただ静かに受け止めてくれた。ただただありがたかった。母との思い出に浸れるようだったからだ。母の墓前に供える花もアドバイスしてくれ、贈りたいと思える花を選べた。どんな花を選んだかは2人だけの秘密だ。


そうして出会った経緯にちなんで彼女に送るお礼状にも花を添えた。かすみ草。彼女を思い出すような花だと思い、選んだ花だった。


「噂はやっぱり噂だな。」

アルバートはフロミスのことをもちろん前から知っていた。しかしそれは噂でだけだ。彼の聞いた噂は、フロミスは悪女だとか、見た目がきついとかそんなものだった。


しかし。

「運命っていうのはあるのかもしれないな。」

アルバートはうーんと伸びをして流れ星に囁く。

「あんなにかわいらしいのに。みんな見る目がないよ。」と。

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