心情
お茶会をしていた部屋に残された姉たちは、姉たちで会話を楽しんでいた。
「ねえ。アベリア。」
フロミスは紅茶のカップを静かに置き尋ねる。
「なあに?」
アベリアは油断していた。
「あなたハリス様とはどうなの?」
にこやかにジャブを入れるフロミスにアベリアは紅茶を吹き出しそうになる。
「え。ちょ。」
「あなたたち……。」
その先を言おうとするフロミスを慌ててアベリアはとめる。
「ちょっと待って!」
「はいはい。」
依然笑顔を崩さない親友にこれは逃れられないと覚悟を決めるアベリア。それはそうだ。仲直りして以来、2人は一緒にいることが多かった。フロミスは、アベリアがハリスと会釈しあっているところも見ているし、放課後ハリスに会いに行くことも知っていた。その様子から気づかない方がおかしいのかもしれない。
「どんな人なの?ハリス様は。」
フロミスは優しく聞く。
「そうね。」
アベリアは少し考えて言う。ハリス様は…。
「とても優しい人よ。」
ハリスのことを思い出し、柔らかな顔をする親友のことを見てフロミスは安心する。
「そう。それなら良かったわ。」
フロミスは詳しくは聞かない。アベリアが話す顔から分かったからだ。えへへと笑うアベリアにふふふと笑い返すフロミス。穏やかな空気に包まれていた。
実際アベリアはハリスにダンスのパートナーも申し込まれていた。
1日前。
「その、ダンスパーティーで僕のパートナーになってもらえないだろうか?」
ものすごく緊張した面持ちのハリスが、科学室に来たアベリアに足をついて申し込んだ。
「はい。ぜひ。」
アベリアはすぐにハリスの手を取る。
「ほ、本当か?」
あっさりと了承をもらえたハリスは驚きとともに歓喜の声を出す。
「ええ。もちろんです。」
アベリアもその反応に嬉しくなる。緊張から解放されひざから崩れ落ちているハリスに合わせ、アベリアも床に膝をつく。2人の高さが合う。手を握り合い2人はお互いに顔を見つめて……。
「フロミスはどうなの?」
昨日のことを思い出し、顔を赤くしながらアベリアは、ぱぱぱ。とその記憶を振り払うように言う。
「私?」
フロミスはきょとんとした顔をする。
「何もないわよ。」
フロミスは淡々と答える。
「そう…。」
「何でアベリアがそんな気落ちした声を出すの。」
フロミスはアベリアに笑いかける。
「だって、私……。」
なんとなく言いたいことはわかる。アベリアも完全にあの事件を忘れることはできないのだ。フロミスの婚約解消。婚約。パートナー。どうしてもつながってしまい気にかかっているのだ。
「いいのよ。前のことでお父様も婚約に関しては何も言ってこないようになったし。気楽なものよ。」
フロミスはからからと元気よく笑いアベリアが元気を出せるようにふるまう。
「あ、でもアルバート様!」
アベリアは大きな声を出す。
「うん?」
「アルバート様にお会いするんでしょ。」
「ああ。」
先日、妹たちがフロミスのもとに来るなり言った。
「おねえさま!」
「フロミス様!」
「「アルバート様にお会いしましょう!」」
「へ?」
部屋で読書をしていたフロミスはいったい何のことかと思う。
「実は。」
フローラは、アルバートに会った時のことを語り出した。
数日前。
「ハリス様、今日はありがとうございます。」
「ああ、君たちには恩があるからな。」
ハリスはぶっきらぼうにそう言いながら、大学部の校舎門の前にフローラたちとともに立つ。キャメルたちとの会話の後、フローラたちはハリスに会い、アルバートと自分たちを引き合わせてくれるよう頼んだのだった。そして今日それが果たされる日なのだ。
「どんな方かしら。」
「さあ、でも良い人だといいわね。」
フローラとアリーは期待が高まる。
「君たち、奴にそんなに期待するな。あいつはそんなイメージするような奴じゃないぞ。」
盛り上がるフローラたちに、ハリスは釘をさすが彼女らの期待感は拭えない。
と、そこへ。
「ひどいなぁ。僕は結構良い人だと思うけどなぁ。」
手をひらひらさせ、軽薄な口調で3人の前にアルバートが現れた。
「「こんにちは。」」
フローラとアリーは慌てて挨拶する。
「こんにちは。今日はご指名ありがとう。」
綺麗な顔に軽い笑みを浮かべるアルバートはなるほど人気なのも頷ける。
「おい、アルバートその顔気持ち悪いぞ。」
ハリスが嫌なものを見るように言う。
「ひどいなぁ、心外だよ。」
そう言われてもへらへらとアルバートは笑う。
「で、今日は僕に一体何の用で来たんだい?」
アルバートはフローラとアリーに視線を合わせて優しく尋ねる。
「あなたを姉と引き合わせてよいか見定めに来ました!」
フローラは元気よく言い放つ。
「ちょ、フローラ。」
アリーは直球のフローラに慌てる。
「だってこういうのはしっかり言った方がいいでしょ。」
「だからって言い方ってものがあるでしょう。」
こそこそと話すが、その声はアルバート達に駄々洩れだ。
「あっはっは。」
アルバートはたまらず笑いだす。
「面白い子たちだね。」
「「ごめんなさい。」」
「いいよいいよ。」
謝るフローラたちを何てことないように許す。
「しかし見定めてもらうにも今この瞬間だけで僕のことわかってもらえるかな。」
ウィンクしながら2人の目を見るアルバートは、さわやかだ。
「ハリス様と仲が良いと言うだけでポイントは高いです。」
フローラは失礼を重ねる。しかしそれにもアルバート、そしてハリスは怒らない。
「それは嬉しいね、だろうハリス?」
「仲は普通だ。」
そんな風にたわいのない会話を続けるのだった。
そして。
「それでぜひお姉さまに会っていただきたいのですが!」
フローラは息荒く姉に乞う。
「そう、面白い人に会ったのね。」
フロミスは穏やかに聞いてそう言った。
「はい、フロミス様にぜひ会っていただきたいです!」
アリーも言う。
「それでなんて返したの?」
アベリアはそこまで話を聞いて尋ねた。フロミスは紅茶を1口飲むと答える。
「お断りしたわ。」
「え?」
まさか否とは思わずアベリアは驚く。
「どうして?楽しそうな方じゃない。」
アベリアは聞く。
「そうね、でも今誰か特定の男性とお会いするのはやめておこうと思ってね。」
「そんな。」
(やっぱりまだ。)
アベリアのそんな様子を見てフロミスは笑って言うのだった。
「やあね、違うわよ、ただ今は1人の時間を大切にしたいだけよ。」と。




