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顔合わせ

「ハリス様?」

妹からその話があった時は驚いた。私と同い年の学友の1人。彼は寡黙で人付き合いを好まない人という印象だった。それが突然妹から私に会いたいという連絡を受け取ったからびっくりもするものだ。

「なぜ私に?」

妹に尋ねる。すると彼も魔術などに興味があり、実際に行ったりもしているのだという。

全然知らなかった。こんなにも近くに同じ趣味を持つ人がいたなんて。

さらに彼は人好き合いを好まないのではなく苦手なのだということも。

じゃあ、今まで人を避けていたのは……。そう考えると、胸がきゅっとなった。

「それでまずは1分からお願いしたいそうです。」

妹が会う際の条件を言付かってきた。

「1分。」

それはなかなか難しい。お互いに挨拶をして、同じ学年だということを伝えて、呪術や魔術が好きなことを話して…。時間足りるかしら。そうだ。次に会う約束もしたいわ。せっかく同じ趣味を持つ人を知れたのだからぜひ次の約束も取り付けたいわ。そうするとどこかを削らないと1分じゃあ足りないかしら。うんうんと考える。

「お姉さま、この条件でもお会いしてくれますか?」

悩む私に妹が尋ねる。答えはもう決まっている。


「はじめまして。アベリアと申します。」

1分間の顔合わせが始まった。

「ああ。ハリスだ。よろしく頼む。」

ハリス様の初見は少しぶっきらぼうに見えた。しかし魔術などの話をすると変わった。

「あなたも魔術や呪術が好きだと伺ったが本当か?」

そう聞く彼の顔には笑みが浮かんでいた。

(初めて見たわ。笑ったお顔。)

思わず見とれてしまう。が、1分しかない。もうすぐ時間が終わる。早く答えないと。

「はい。大好きです。もしよろしければ次回もこうして魔術の話ができたらうれしいです。」

「本当か?私の話はつまらないかもしれないが…。いいのか?」

「はい。ぜひお願いします。」

「そうか。そうかでは次もあの、でも1分で頼む。」

1分。なかなか難しい。が、ぜひ魔術のことをもっと聞きたい。

「わかりました。では次回もこの場所で。」

「すまない。まだ長時間話すのは不慣れなもので。」

「いえ、大丈夫ですよ。ゆっくりいきましょう。」

そこで1分が終わった。

「お姉さま!どうでしたか?」

終わると妹が待っていましたとばかりに聞いてくる。

「そうねえ…。」

アベリアは1分間を振り返る。あまり詳しいことは話せなかった。本当にただの顔合わせに近い。けれどもなんとなくあった瞬間に感じた直感。この人とは仲良くなれる気がする。そんなことを会った時に思った。この直感が正しいのかはわからないが自分の思いを大切にしたい。

「なんだか仲良くなれる気がするわ。」

私はその気持ちを信じようと思った。


そして現在。彼と初めて会ってから20回目。彼と会う時間は1分間から10分間になる。私にも慣れてくれたようで、こうして会う時間を作っていないときでも廊下ですれ違う時会釈してくれるまでになった。

彼の魔術や呪術への愛は本物で、私と同じくらい長い間魔術や呪術に興味を持っていたことが話から分かった。また私と同じように実験に失敗し続け、思うようにいかないことがたくさんあるなんて話もしてくれるようになった。今までこんなにも同じ趣味を持つ人と話せたことがなかったため、私は彼と仲良くなれて本当に良かったと思う。

しかし彼は本当に世俗には疎い。皆が噂しているものや人も知らない。出世にも興味がない。貴族同士の付き合いも。とにかく自分の好きなことにしか興味が向かないのだ。貴族としては、皆から見たら少しの欠陥を抱える彼。しかし1つのことにひたむきになれる彼に私はうらやましさを感じた。


「やはりこの術には他の工程をプラスしたほうがうまくいくのだろうか?」

「そうですね。前回の方法では失敗しましたから、今回はここに呪文を追加してみるのはどうでしょうか?」

今日も私たちはいつもの時間、決められた時間内での会話を楽しむ。

「あ、時間ですね。ではまた今度会った時に…。」

時間になり私は帰る準備をする。すると、彼は私の袖を引っ張り、待つように合図する。

「アベリア…嬢。その次回はもう少し時間を延長してみないか?」

気恥ずかしそうにしながら、ぶっきらぼうに言う彼がほほえましくて思わず笑ってしまう。

「ふふっ。もちろんです。次回はどれくらい延長できるか楽しみにしていますね。」

「ああ。」

顔を赤くした彼は私の返事にそっけなく答える。

「では、お先に失礼いたします。」

私はこれからもこの時間が続くことに喜びを感じながら、彼の居る科学室に別れを告げて出ていった。


「ねえ。アベリア。あなたハリス様と仲がいいの?」

ある日教室に入ると、学友である女生徒が私に興味津々の顔で聞き迫ってくる。

「え。」

私は急な話に言葉を返せない。しかし女生徒は話し続ける。あなたたちが科学室から一緒に出てくるのをこの前見た生徒がいるのよ。もしかして2人で隠れて密会していたんじゃないかって噂があるんだけど、実際のところどうなのかなって。女生徒は、私はアベリアとハリス様お似合いだと思うけどどうなのかなーって思って。なんて言って、アベリアからの言葉を嬉しそうに待つ。

きっとあの日だ。放課後会う時間が延長になってから、帰るのが日の入りぎりぎりの時間になるようになった。そこで彼が、私が1人で出ていくのを心配してこの前は一緒に馬車までついてきてくれたのだ。その時にきっと誰か噂好きの人に見られてしまったのだ。

ああ。私は後悔した。こんな風に噂の的になることを望んでいなかったからだ。前のことで噂には懲り懲りしていたのに。また巻き込まれるなんて。最悪だ。

「ねえ、どうなの。」

聞いてくる学友に私は曖昧な顔だけ返す。私と彼についてこれ以上変な噂が立っては困る。彼と会えなくなってしまうではないか。彼は気にしないだろうが、噂が広まればきっと科学室まで探りに来る人も出てきそうだ。そうなると私たちが会っている理由も探られ面白おかしく話されるに違いない。もうそんなこと2度とごめんだ。


「えー。呪術なんてやっているの?」

昔顔を引きつらせながら言ってきた女の子の表情を思い出す。そう、呪術をやっているものなんて理解のある人でなければ受け入れてくれないものだった。今回の騒動が噂になったら彼にも同じような傷を負わせてしまう。

「ねえねえ。」

相変わらず聞いてくる彼女にうんざりしつつ、私は答えようとする。

すると。

「それは誤解だ。俺と彼女は仲良くなどない。彼女のことも何とも思っていない、むしろそんな噂を立てられて迷惑している。」

はっきりとした声が教室に響く。

「ハリス……。」

「君もなれなれしく呼ぶのはやめてくれ。」

彼はそう言ってどこかへ行ってしまう。

「えーと。ごめんね。何か変な話しちゃって。」

ぐいぐい聞いてきた女生徒は私に変な気を使ってくる。

「じゃあ。また。」

そんなことを言い、女生徒は私の下から去っていく。でもそんな言葉、私には届かなかった。彼に拒絶されたことの方がつらかったからだ。確かに変な噂が出ては困ると思ったのは事実だ。だけどこんな展開を望んでいたわけではない。あ、でももしかしたら彼は私のことを気遣ってくれただけかもしれない。そうだ彼は不器用な人だ。だからきっとまた会いに行けば…。大丈夫なはず…。でも、そうじゃなかったら、本当に迷惑だと思われていたら…。そんな不安な気持ちが私の中に渦巻く。

授業が始まるチャイムが鳴り響く中で、私の心には別の気持ちが揺れ動いていた。


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