理想
季節は冬になり学校は休暇に入る。次の年へと移行するこの期間に妹2人はそれぞれ姉を呼び出していた。
「お姉さま。」
フローラはフロミスの部屋へノックし入る。
「どうしたの?フローラ。」
優しく妹の訪問を歓迎するフロミス。彼女の顔にはもう暗い影はなかった。その顔を見るだけでフローラは嬉しくなる。
「お姉さまこれからお時間ありますか?」
目をキラキラさせながら「ある。」という返答を待つフローラ。フローラのそんな様子に笑いを押し殺しながらフロミスは答えてあげる。
「あるわよ。」
「本当ですか!」
待っていました。とばかりにフローラは返事する。その様子にフロミスは笑いが止まらない。
「ええ。」
「では一緒に来てください。」
そう言ってフローラはフロミスをある場所へと連れていくのだった。
「お姉さま。」
恐る恐る姉の部屋に入るとアベリアの姿が見えなかった。
「お姉さま?」
不思議に思いながら姉の名を呼ぶ。
「どうしたの?アリー。」
部屋の隅にあるベッドから声が聞こえ、アリーはすたすたと姉のいる方向へと向かう。
「お姉さま。」
毛布をはぎ取り姉の姿を見る。そこには人形を抱えた姉がいた。
「何をしていたのですか?」
思わず聞いてしまう。
「なんていうか、魂を込めるみたいな?」
姉は曖昧な言葉でごまかす。
「そうですか。」
アリーは突っ込まない。なれているからだ。
「ところでどうしたの?」
「そうでした。」
アリーは気を取り直して姉に言う。
「今からお時間ありますか?お姉さまと一緒に行きたいところがあるのです。」
「そうねえ。」
アベリアは悩む仕草をする。
「フロミス様とフローラと会おうと思っているのですが。」
「行くわ。」
内容を話すと「しゅっ」と姉は動いた。何だかんだアベリアもカーウィッチ家が大好きなのだ。
「じゃ、もう少ししたら行きますから。それまでに魂込め切ってください。」
アリーは姉にそう言うと部屋を後にした。
そして現在。
「お姉さま!」
フローラが姉を呼ぶ。
「客間?」
フロミスは不思議そうにフローラを見るが、用意された部屋の様子を見て気づく。
「ああ。」
そう今日はカーウィッチ家でお茶会を開催するのだ!
「カーウィッチ家にお邪魔するのは久しぶりね。」
馬車から出たアベリアは周りを見回しぼそっと呟いた。アリーはその姉にこう返す。
「これからは、またかってなりますよ。」
アベリアはそんな妹の言葉に自然と笑顔になる。
「そうね。」
その言葉には希望しかなかった。
「あ、きたきた。」
フローラがアリー達の姿に気づき、手を振り迎える。アリーも姉をせかしつつ、フローラに手を振り返す。
「こんにちは。フローラ。…フロミス。」
アベリアは嬉しそうにフロミスの名を呼ぶ。
「ええ。来てくれてありがとう。アベリアそれにアリー。」
フロミスもかみしめるようにアベリアの名を口にし返した。お互いにそう言葉を交わして見つめあう姿はまるで恋人同士の様だ。
「2人の世界に入らないでください!」
フローラがたまらず間に割って入る。
「今日は4人でのお茶会ですからね!」
アリーもフローラに続く。そんな妹たちに、姉2人は互いに苦笑しつつ指示に従い席に着く。
「そうだ。知っていますか?」
4人とも紅茶を飲み一息したところでアリーは姉たちに語り掛ける。ウェンディ様のことを。
姉たちはアリーたちが流した噂に登場するウェンディのことしか知らない。だがウェンディの話には続きがある。素敵な続きが。
「ウェンディ様のこと?」
フロミスは不思議そうに言う。彼女にとって自身の次に気にかけている令嬢だ。
「はい。彼女が婚約されたことはご存じですか?」
妹たちはにこにこしながら姉たちに話す。ジャックのあの日の勇姿を交えて。あの後、ジャックは言葉通りウェンディにプロポーズをした。ウェンディは驚いたが彼の告白を受け入れた。ジャックの持ってきたコスモスの花束を受け取り答えたのだ。「はい。」と。
「まあ。」
フロミスは嬉しそうに話を聞き終わると声を出した。
「なかなかできないことね。」
アベリアも感心して言う。
「素敵ですよね。」
フローラは姉たちの共感を得る。この話をしたかったのは本当だ。自身のことと同じように気にかかっていたであろうウェンディ様の幸せな様子を伝えたかった。
でもそれだけではない。この流れからお姉さまたちの理想の男性像を聞きたかったのだ。
「理想の男性像?」
少し急な質問に姉たちは悩む。
「はい!」
「さあどうですか?」
妹たちは姉に迫る。そして姉たちは考える。自分にとって理想の男性とは?と。
妹たちはワクワクしながら待つ。するとアベリアが考えながら口にする。
「そうねえ。やっぱり呪術とかそういう系統に忌避感がない人がいいわね。できれば一緒に楽しめる人がいいけど。」
「趣味を否定しない人ですか。」
フローラはなるほどというようにうなずく。
「そうそう。できれば離れとか作ってそこで実験とかできればさらに嬉しいわ!」
アベリアはテンションが上がる。
「お姉さまらしい意見ですね。」
アリーは考えながら言う。一方悩みまくるフロミス。
「フロミスお姉さま、浮かびそうですか?」
フローラが尋ねるが、フロミスはうんうんと悩みなかなか答えることができない。
「フロミスにはやっぱりフロミス自身のことをしっかり見てくれる人がいいと思うわ。」
アベリアが悩むフロミスに変わり言う。
「私自身のこと?」
フロミスがアベリアに尋ねる。
「そう!私のような人がいいと思うわ。」
アベリアは自信たっぷりに言う。
「まあ高慢。」
アリーが突っ込む。
「何よぉ。」
妹に言われ、アベリアは頬を膨らませる。
「でもお姉さまの内面をしっかり見てくれる人というのは賛成ですね!」
フローラも賛成する。フロミスの外見は綺麗なのに一部の人には近寄りがたいきついとこの国では見られてしまうことがある。そのためフロミス自身が自分の外見に対しポジティブな印象を抱いていなかった。だから、そう提案したのだった。
「そうね。」
フロミスもうーんと考えてその言葉を肯定する。
「そんな人がいたらいいわねえ。」
のんびりとした声でフロミスは言う。
するとそこに。
「お姉さまたち。また僕抜きでお茶会ですか?」
声がした方を向くとそこにはキャメルが立っていた。
「あらキャメル。」
アリーが声を掛ける。
「まったくいつも4人で楽しんでいるんですから。」
少し不貞腐れながら4人の座るテーブルへと近づく。どうやら追いかけてきたようだ。
「ごめんごめん、よく来てくれたわ。ほらキャメルも座って。」
フローラがあいている席へと促す。
「本当にもう。」
小言を言いながらキャメルは席へとついた。
「それで何の話をしていたんですか?」
席に着くとキャメルが聞く。
「ああ。理想の男性像を話していたのよ。」
アベリアが弟の質問に答える。
「理想の、ということは僕の名前は出てきましたか?」
ふふんと得意そうになって言うキャメルに反し、女性陣は「あ。」となる。
「みなさん?」
誰もしゃべらない状況にキャメルが声をあげる。
「まあ、キャメルはまだ小さいから。」
アベリアがフォローなのか微妙な発言をする。
「それって出なかったってことですね。」
キャメルが腕を組み女性陣に反発する。
「でもキャメルが大きくなったらきっと素敵な大人になるでしょうね。」
フロミスが怒るキャメルを宥める。
「あ、キャメルはどんな人と結婚するのが理想かしら?」
フロミスは話を変え、キャメルの話を聞く。功を奏し、キャメルは考え込み始め攻撃はやむ。お咎めがなくなりフロミスは皆に感謝される。
「僕の理想ですか……。」
少し考えこんでからキャメルは答えた。
「やはり姉上たちと仲良くなれるような人ですね。」
「あら。嬉しいこと言ってくれるのね。」
アリーは純粋に喜ぶ。が理由を聞くと何とも言えなかった。
「だってこんなに自由奔放、奇想天外な姉上たちに振り回されている僕ですよ。そんな僕に愛想をつかさないでくれる人なんてそんな人しかいないでしょう。」
弟からの辛辣な物言いに姉たちは普段の行動をほんの少しだけ反省するのだった。




